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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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こだわるところはなぜか同じ。

 日本のお正月の頃は、こっちは新年の祝いが終わる時期になる。


 工場の本稼働に向けた立ち上げで、工場関係は忙しい。

 農場組はまあそこそこといった感じ。バットグアノ採掘は再開するけど。


「というわけで元気だから」


 また採掘に行く前に電話(?)かけてるのは佐奈ちゃんです。

 うちから日本に通話できるんだから、スタッフが家族に連絡入れるくらいは可能だしね。毎日かけたりするのは勘弁してくれと言ってるけど、幸い、家族とべったりの関係が必要な人はいない。というか、そういう人には帰国してもらってます。


「え?お餅ないよ。だから米は作れないんだってば」


 佐奈ちゃんは日本の会社でひどい目に遭ったので帰国を希望しなかったけど、ご家族とは『距離を置いていれば良好な関係』でいられるんだとか。一緒に住まない、滅多に顔を合わせない、そういう距離をとった関係が保てる限り、母親も良い人でいてくれる……とは佐奈ちゃんの談。


「あのねえ、物をもってくるって大変なの。ここまで来てくれるクロネコはいないんだよ?判ってる?」


 若干とげがあるけど、俺が干渉することじゃないわな。

 というわけで、自宅リビングに置いてある電話もどきを使ってる佐奈ちゃんは放置することに決めて、俺は台所に戻って朝食の準備。


 今日は自炊です。といっても熾火(おきび)にしたストーブにかけっぱなしにしとけば良いシチューと、昨日焼いてもらったパンと、薬草茶だけなんだけど。


「電話空きました、いつもすみません」


 佐奈ちゃんが台所に顔を出して、そう声をかけてきた。


「年一回のことだし、多少長くなっても気にしなくていいよ。はい、これ持ってって」


 パンはどっしり重いドイツパンに似たタイプ。佐奈ちゃん曰く、乳酸菌発酵を利用したサワードゥのパンなんだとか。

 今回はリーシャさんの希望もあって試作してみたんだよね。

 普段はパンを焼くことはあんまりしません。粉を()いたら麺にでもしたほうが、速く効率的に食べられるし、乾燥させるだけで保存もきく。そこまでパンに(こだわ)る人もいないし。


「あ、これなら酸っぱさも気にならないですね」


 今日のパンはまあまあ及第点っぽい。

 発酵させた種といくつかの麦粉のブレンドで作るパンなんだけど、基本的にもの凄く酸っぱいんだよねえ。今回は砂糖を少し入れたので、酸味が和らいでる。


「しかし砂糖を使うとなると、人間の国向きじゃないよなあ」


 人間の国だと、砂糖は高級品だからねえ。


「こっちでも、手間を考えると嗜好(しこう)(ひん)ですよね」

「食堂で出すのはちょっと無理だなあ」


 毎日の食事向きじゃない、ということで。


──────────


 佐奈ちゃんに食事の片づけをしてもらってる間に、新年に合わせて連絡したい他の人にも電話を使ってもらうわけですが。


 もう一人の日本人である(かける)君は、家の事情が複雑なこともあって、今回は連絡せず。

 親御さんは二人とも、不登校の翔君が目につかないところにいるのを、ありがたいと思ってる節もあるんだよね。こちらへの滞在が伸びるのはむしろ歓迎の模様。

 そんなご両親と翔君の間を取り持ってくれるのはお姉さんで、翔君が自主的に連絡とる相手もお姉さんなんだけど、さすがに正月から要らん気苦労をさせたくはないようです。


 で、みんなの用が済んだ後、俺も一応は連絡入れる相手がいるわけで。

 両親ですが。


『おとうさーん、優紀(ゆうき)から電話!』


 母よ、電話の向こうでいきなり叫ばないでください。


『ちょっと待っててね、今呼んでくるから』


 スピーカーにしても聞こえる範囲にいないと駄目だからね。

 それは良いんだが、親父は相変わらずです。


『あ、お父さん来たから喋っていいわよ。今年のお正月は餅つきしたの?』

「またそれかい」

『あたりまえでしょ、従業員に餅くらい振る舞ったんでしょうね?』

「だからうちはモチ米作れないんだっつーの」

『甲斐性ないわねー』


 やかましいわ。


「俺の甲斐性でうちの気候が変わったりせんのよ?」

『ええ~、魔王とかあだ名付けてもらったんでしょ?頑張んなさいよ、名前負けしてるわよ』

「できるかっ」


 この能天気ぶりはさすがとしか言いようがない。

 たぶんこの人、世界が終わる日が来ても能天気のままだろう、うん。


『まったくだらしない子ねー』

三十路(みそじ)のおっさんを『子』とか言わんでください」

『あたしにとってはあんたは子供です』

「あーはいはい。で、二人とも元気なようですが、今日は孫の顔は見に行かんの?」


 兄貴の子供が二人いるんだよね。で、兄貴の家は実家の近くなんですが。


『正月くらい孫の子守しないで過ごしたいわー。今年は帰省してくれてありがたいのよ』


 帰省、てことは嫁さんの実家に行ったか。それにしても。


「しみじみ言う事か、それ」

『四六時中、二歳児と三歳児の相手できるほど、ばあばもじいじも若くないのよ』

「孫の面倒見るのも大変だねえ」


 他人事、他人事。

 たまに孫二人を預かって面倒見てるから、大変らしいけど。


『あんたが代わって欲しいわー』

「それ却下で」

『年取った親をいたわるって、大切だと思うのよ?』

「それだけ言えるなら、だいじょぶでない?」


 兄貴情報だと、両親とも元気だそうですし。


「というわけで、連絡は入れたし義理は果たしたよ」


 不義理しない必要があるから連絡入れてるけど、別に何か話すことがあるわけじゃない。


『お父さんに代わるからちょっと待って』

「どうせ一言で終わるでしょうが」


 わざわざ代わる意味ってあるのかね?

 そして案の定、親父は『おう、元気か、体に気を付けろよ』だけで済ませてました。

魔王(しまだ)「モチ米はないと言うとるのに、なんで毎年、餅ついたかと聞きますかね?」

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