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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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異世界和食もたまには乙なもの。

 高校生二人組を返したら、次は小中学生二名なんですが。


 まだ、隔離(かくり)期間が終わらないんだよねえ。

 兵士付きで森に追い出された若者と違って、この二人は直近まで人間の町にいたから、町から病原菌を持ち出してないことを確認しなきゃいけないし。

 そんな理由(わけ)で現時点では、魔法で身を守れる俺とターク先生しか直接接触できてないんだよね。


 いくら日本の医療が進んでるからといったって、異世界から新しい感染症なんか持ち込んで、対応しきれなかったら困るし。


 斎藤さんは緊急事態だったので、こっち由来の微生物を殺すように調整した、ターク先生力作の魔法を使ってあるんだけどね。

 たぶんあれ、腸内細菌も多少やられると思うんだよね。俺で試した時は、俺も腹が緩くなったんで。

 ターク先生曰く『あっち由来の微生物も一部影響を受けてるか、俺がこっちに長くいたせいで俺の腸内細菌がこっちのものに一部置き換わってるか』じゃないかってことだけど、俺に判断できるのは、体力の落ちてる子供二人に使うのは避けようってくらいです。

 栄養状態の悪い子供が腹を下すと、あっさり弱っちゃうからねえ。

 斎藤さんはリスク承知で魔法を使ったうえで、きちんと隔離してくれるように頼んだ文書を一緒に送ってあるけどね。


「あっちのお正月は過ぎちゃうなあ」


 ちょっと残念だけど、ご家族にもこれは理解してもらうしかなかった。


 隔離した拠点まで電話も引けないから、拠点に配達可能な手紙でやり取りしてもらってます。

 物質転送を繰り返すことになるけど、合わせて50gもないような手紙なら、それほど力を使わないし、まあ許容範囲内です。

 声を聴かせてあげられないのは、親御さんには申し訳ない気もするけど、これ以外に方法無いんだよね。手紙は毎日のように二人も書いてるし受け取ってるから、俺は今日も郵便配達です。配達に付き合わせるちゃっかりドラゴンは毎日爆走できるので超ご機嫌。


「差し入れ、できましたよー」


 新年の祝いでお休み中の佐奈ちゃんが、和風っぽい折り詰めを作ってくれました。

 醤油は作れてないので、味付けに使ってるのは魚醤(ぎょしょう)だけど。コウジカビは俺が最初に持ち込んだものがあったんだけど、今は全滅して残ってません。


「ありがとう。今日は煮しめ?」

「あと焼き魚と、黒豆もどきと、叩き牛蒡(ごぼう)もどきと、キントンですね。田作りはちょっと癖が強くなっちゃったんで、どうしようかなと」

「魚醤はお子様向きじゃないよなー」

「ナンプラーに慣れてる子なら大丈夫だろうけど、ナンプラー風味の田作りってどうかなーと思うんですよね」

「和風のお正月料理で出てきたら多分、コレジャナイ感あるよなー」


 俺は好きなんだけどね。


「あと、お餅が無いのが残念ですねー」


 糯米(もちごめ)はもちろん、(もち)性とよばれる性質を持った穀物が無いんだよね。おかげで餅の代用食品が作りにくいです。


「まあそのへんは、帰ったら食べてもらうかねえ」


 拠点の火鉢で餅をあぶって食べられたら楽しかっただろうけど、無いものは仕方ないよね。


──────────


 餅をあぶる楽しみは無いけど、芋とか干し肉とかそういうものはあるわけで。


「炭に脂を落とさないようにね」


 たまに干し肉が燃えたり、脂が焦げて煙が上がったりするから。


 子供に火を扱わせるのはどうかなと思ったけど、人間の国にいる間に二人とも、直火の扱いを覚えてました。

 とはいえまだ全面的に管理を任せるには不安があるので、俺がいないときの暖房は小島に任せてます。炭を使った暖房は着火が面倒だったりするけど、小島は抜かりなく管理してくれている。燃料の残や炉の状態まできちんと記録して報告してるそうで、あれはかなりできる奴とみた。

 もっとも小島はできるだけ子供たちと顔を合わせたくないみたいで、食事を一緒に摂ろうとはしないけど。なので今もここにはいません。


「このお芋、甘ーい」


 結衣ちゃんは少し笑うようになりました。


「自信作だよ。サツマイモに似た芋があったんで、育ててるんだ」


 なお、加工方法もサツマイモと同じでいけました。

 二人に食べさせているものは、蒸かした芋の皮を素早くむいて、適当なサイズにスライスして、天日で干しただけの干し芋です。

 色は灰色っぽくて冴えないけど味は良い、人気の冬のおやつです。村の子供らに好き放題食べさせると食事が入らなくなるくらい、腹持ちもいいです。まあ芋だからね。


「煮物とか、前は嫌いだったんだけど」


 慣れたらちょっと崩れた口調になったのは大翔(ひろと)君。嫌いだったと言いつつ、きれいに平らげたけど。


「なんだ、無理して食べなくて良かったのに」

「え、今は平気なんで。ていうか、おいしかったですよ!」

「一緒に使ってる肉からいい出汁出てるからねー」


 おせちだったら鶏肉(かしわ)を使うところなんだろうけど、今回はカワラトカゲ肉で。出汁は山のキノコです。

 キノコの種類はよくわからん。俺はキノコの見分けに自信が無いので、フヴァルさんにチェックしてもらったものしか使わない。

 今回の煮物に使ったのは佐奈ちゃんが好きな肉厚のキノコで、出汁もよく出るし煮しめると美味いやつ。


「何の肉ですか?」

「カワラトカゲっていうトカゲの肉」

「トカゲって、食べれるんだ」


 普通の日本の子だったら大騒ぎしただろうけど、さすがにこの二人は騒がなかった。

 食べるものに事欠いた経験が、食べられるものは何でも食べようとする姿勢を作り上げたんだろう。基本的に二人とも、食わず嫌いはしないし。


「食用に育ててる種類のトカゲなんだよ。普通の、日本で見かけるちっちゃいトカゲだと、食べるところないんじゃないかな?」


 ニホントカゲって小さいからねえ。


「食べられるのって、どのくらいになるんですか」

「このくらいかな」


 手で大きさを示したら、ちょっとびっくりしてました。

魔王(しまだ)「キノコは間違いやすいので、ベテランの判断を仰ぐのが一番安全だと思う」

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