帰還の日
お祝い行事が一番多い3日間が過ぎたら、高校生二人は帰国です。
これ以上遅らせると、日本のクリスマスとお正月を逃すからね。二人とも、親御さんも再会を楽しみにしてくれてるし、間に合うように帰るべきだよね。
というわけで、本日は二人を帰すという事で、俺の家の庭にいるわけですが。
「えっと、見送り多いですね」
前庭に用意した送還陣から離れたところに、十人以上の見送りが来てました。
「君らのこと、気に入ってた人も多いからね」
そう。宮田君と北島君は逗留期間もちょっと長めだったし、本人たちの前向きな性格もあって、うちの農園スタッフからは気に入られてました。
「お土産もちゃんと持ったね?」
「あ、はい。フヴァルさん、ありがとうございました」
二人と一緒に持って帰ってもらうお土産も、うちのスタッフがそれぞれ用意してました。
まあほとんどは農作物とか料理とか小物なんだけど。フヴァルさんはじめとする厨房からは、家族と一緒に食べられるように焼き菓子が渡されてます。
「気をつけて帰るんだよ。魔王様が送ってくれたあとも、家に着くまで油断しちゃダメだからね?」
これは被服係のラーナさん。
「大丈夫です、親が迎えに来るって言ってたんで」
今回の転移は準備する時間も取れたので、打ち合わせは済ませてある。二人の帰着地点は駅構内ではなく駅近くの駐車場、時間は終電後になりました。
二人のご家族と警察が現場で待機してる予定。
送還術をかける時に時間をいじるから、直前に電話かけて確認するのは難しいけど。
「そっか、なら安心だ。ご家族にもよろしくな」
経理課のザードが手を振っていた。
「はい、お世話になりました」
「体に気をつけてな」
名残惜しくはあるんだろうが、そろそろお時間です。
というわけで、二人には陣の上に移動してもらう。
「和風なんですね」
宮田君がそんな事言ってます。
そりゃー、俺が日本人で直属上司が日本の山の女神さまだからですね。俺は神職の勉強なんかしてないんで、祠のまつり方なんかは祖父さんがやってたのを真似してるだけですが。
「じゃ、はじめるよ」
見送りのスタッフにも聞こえるように言うと、皆が一斉に口をつぐんだ。
無駄なおしゃべりをする人はいない。
静かになったところで、祭壇に据えられた鏡に一礼し。
「千別の山守が末裔に、荒ぶる神をば問い掃へと依さし遠つ御祖の神、御照覧あれ」
いつもの呼びかけから。まずは気が付いてもらうための呼びかけ。
「我、山守の末裔たる島田優紀が祖神に伏して願い奉る。同胞の子ら、名を北島優斗、ならびに宮田大樹、異界より恙なく還らせたまえ」
注連縄で結界した空間にため込まれた『力』が少し温まる。
「時空の狭間の深淵より、我らが兄弟の子を守り給え、暗き淵を渡らせ給え、子を待つ父母の下に還したまえ」
還るべき方向を『力』に教える。
向かう先に在るのは姫神様のお力だ。界渡りの灯台の役目を果たしてくださっている。
北島君、宮田君を俺の力が捕捉。行き先をしっかり見据えて。
「我が名にて命ずる。還せ」
送還陣が光った瞬間、二人が頭を下げたのが見えた。
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(Side:宮田大樹)
光った瞬間に頭を下げて、頭を上げたら、風景が変わってた。
「大樹!」
「んぁ!?」
いきなり誰かに抱き着かれた。
母さんだった。
「え、あれ?」
「なにやってたのよぉ!」
えーと、うん。
「……ただいっ!?」
母さんごと抱きしめようとしたのは父さんで。
そういうこと、する人じゃないと思ってたんだけどな。
「ちょ、お菓子潰れる!」
北島がすごく焦った声出してるのが聞こえた。
この状態でお菓子気にするとか、北島ぜったいにパニックしてるよ。
「おかえり」
父さん、涙声になってる。
「うん、ただいま」
って、僕の声も半泣きになってた。
「よく戻ったな。えらいぞ、頑張った」
「……うん」
しばらく、そうしてたと思う。
それから、警察の人がいるのに気が付いて、父さんと母さんに言ったら、二人とも少し離れてくれた。
「念のため、お名前を確認させてください」
警察の人が、身分証を見せながら名乗った後、そう聞いてきた。
「宮田大樹です」
「生年月日も確認させていただいてよろしいですか」
「はい」
このへんの確認がある事は、島田さんから聞いていた。
行方不明になってた人間が見つかったわけだから、ちゃんと確認しなきゃいけないんだって。
それに、僕らの持って帰って来たものも、一応はチェックがあると聞いていた。
武器とか、麻薬とか、そういうものが無いのを警察に確認してもらうって意味もあるから、チェックはちゃんと受けるように言われている。
同じ説明を受けていた北島も、僕と同じように確認してもらっていた。
僕らも警察あての手紙を預かってきてるし、ちょうど良いかもしれない。
いったん警察に行って説明をして、それから手紙を渡すと、島田さんについて何か知ってるか?と質問された。
「日本人だって聞いてます」
「他には?」
「こっちで何してた人かは、聞いてないです」
「聞かなかったんだ」
「はい、あっちでは色々やってる人だなとしか思ってなかったんで……」
あんまり興味なかったですごめんなさい。
「まあいいよ、島田氏からも説明忘れたと聞いてるし」
「え、警察にも連絡行ってるんですか?」
「君たちを保護した直後にね」
それ、三か月くらい前ですよね?
「そうだね」
「……収穫時期ですっごい忙しかったのに」
「島田氏は、あっちでは農家なんだって?」
「あ、はい。お土産にもらったのも、島田さんのところで作ったものばっかりです」
それから少し雑談した後、家に帰った。
魔王「警察は情報の突合せする必要あるから、雑談ぽく色々聞いてくると思うよ」





