ひと足早く年が改まり。
村の挨拶回りが終わった後は、監視拠点の訪問。
お祝い料理の類は先に届けてもらってるけど、追加でお菓子も持っていきます。
監視担当と、拾った三人の分ね。
ちゃっかりドラゴンの背中に専用の出前機をとりつけて、料理はそこに入れて運びます。もちろん、日本の出前バイクについてるアレを真似して作ったものです。詳しいことは全然知らないから、多分再現できてないですが。というか俺が作ったこれは一部に魔道具を使ってるので、絶対に同じ構造じゃないです。というわけで、心おきなく山向こうの国で特許とっておいたんだけどね。
なおちゃっかりドラゴンもお菓子の匂いを嗅いでおねだりしてきたので、こいつの分も積んでます。どこで食べても同じだと思うんだけどねえ、仕事を手伝った先でお駄賃を貰うのが嬉しいらしいです。
回っておく拠点の数は全部で五つ。長居しても邪魔なだけなので、4か所については拠点リーダーにお祝いのお菓子を預けておしまい。
最後の一か所が三人を収容した廃村ステージで、事情を知らない三人には説明がてら、直接渡すことにした。
リーダーのところにまとめて届いてた、お祝い料理が入った折り詰めも一緒にデリバリーです。
「とうじ?」
「昼の長さが一番短くなる日の事だね」
結衣ちゃんにはそこから説明。
「今日からはだんだん、夜が短くなっていくんだよ。だから、ここの人たちにはとても大切な日なんだ」
「お正月みたいなものですか?」
「うん、こっちだとお正月だね」
「一月一日に一年が始まらないんだ」
「今日がここの一月一日なんだよ」
暦の違いはまだ分かりにくいか。
ふーん、とちょっと関心薄めの答えを返してきたので、それ以上は説明しない。
それよりはお菓子のほうが関心あるだろうし。
「で、お祝いだからお菓子も色々作るんだよ」
「わ、すごい色々ある」
これは大翔君。
それぞれ分量としては大したことないけど、数種類をきれいに盛り付けてもらったお菓子セットを用意してみました。木を薄く削って作った経木の折箱に、一人分ずつ詰めてもらったものです。
見栄え良く詰めるセンスは俺には無いので、そこはリーシャさんにお願いしたんですが。俺が見ても違いが分かる奇麗な詰め方になりました。
「きれい」
「食べるの、なんかもったいないですね」
「傷むから、三日以内に食べて」
分量についてはターク先生のチェック済みなので、渡しちゃっても大丈夫とのこと。
三人ともだいぶん良くなってきてるから、準備した料理とお菓子のセット程度なら食べて良いとの先生の判断でした。
「で、こっちが料理ね。あ、結衣ちゃん、ミカンっぽいものは使ってないから」
親御さんとのコンタクトがとれたので、アレルギーの情報も貰えたのはありがたかった。
ここで酷いアレルギー起こして何かあったら、いくらなんでも可哀そうすぎるし。
「ありがとうございます」
「あ、肉だ!」
「ちょっとずつだけど、いろんな種族風の料理ってことで」
この盛り合わせもリーシャさんの力作です。
料理そのものは、フヴァルさんやマルカさんが分けてくれたものと、俺が作ったものだけど。
「で、こっちは温めた方がおいしいから、今温めるよ」
温め用の卓上アルコールコンロに火をつけると、鍋ごと持ってきたシチューをのっけて、待ってる間に食器の用意。
小島は一緒に食べるのが気が引けると言っていたので、無理に誘うことはしていない。小島の分は別に取り分けておきます。まあどうせ大した分量は無いんだけどね。
「はい、どうぞ」
「いただきます!」
大翔君、いただきますもそこそこにスプーン握ってました。
──────────
二人にはゆっくり食べるように言っておいて、アルコールコンロを消してから、残り一人分を持って別棟へ。
小島は寒いところで着ぶくれて、土間に置いたテーブルで文字の勉強中でした。
子供用の教科書を見ながら、板に炭で文字を書いて練習している。それなりに書けているところを見ると、やっぱりこれまでも自分で勉強してはいたんだろう。
「お祝い料理持って来たぞ、いったん休憩にしよう」
声を掛けたら顔をあげたけど、鼻の頭が赤くなってました。
「こんな寒いの我慢してないで、ストーブくらい使っていいんだぞ?」
監視拠点は隠蔽しておく都合上、薪を使って暖を取ることはできないからね。暖房は煙の出にくい炭にならざるを得ません。とはいえ、十分量は供給してるはずなんですが。
「あ、寒いの慣れてるんで。今付けます」
「俺がやるからいいよ」
日本にあったような着火剤もないし、ここは手抜きして魔法を併用です。
炭に火がついたら風を送り込んで大きくして、木炭ストーブを温める。普通に火を起こしたらストーブ自体が温まるまで1時間近くかかるので、ここは完全に魔法でやってます。
で、火が安定したら料理とお菓子を出してやる。シチューはまだ人肌程度には温かい。
「え、こっちにもこういうのあんの」
「こういうのって?」
「これ、この箱。なんか日本っぽい」
「ああ、そりゃ最初は俺が作ったからね」
作り始めたのは俺だけど、他の住民にもあっさり受け入れられて定着しました。今じゃ村で普通に使われてて、珍しくないんだよね。
「あ、そっか。魔王さん日本人だもんな。この弁当箱、食べ終わったら洗って返せばいい?」
なんだかんだでマメな小島です。
「それ使い捨てだから」
「え、勿体なくね?」
「間伐材とか端材使ってるし、使い終わったゴミも燃料になるし、そうでもないよ」
「燃やして終わり?」
「残った灰は、使えそうならアルカリの原料だね。あ、ストーブから出てきた灰に水かけないように。欲しい成分が流れちゃうから」
「ん?あ、そっか。なんか動画で見たわ、灰を溶かした水ってアルカリ液になるんだっけ?脂を煮たら石鹸ができる奴」
まあだいたい合ってます。
「とりあえず祝い膳だから、味わって食えよ」
「すっげ美味そう……菓子とかスゲー久しぶり」
「シチューはあったまるまでしばらくかかるから、先それ食ってるか?」
「え、シチューも待つし」
意外に律儀な奴でした。
魔王「うちは徹底的に物を使い倒すことにしてるんで」





