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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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平和で忙しい日。

 一言で挨拶まわりと言っても、何か所も回るとなればそう簡単に済む話じゃない。


 顔つなぎのスタートは日没直後からなので、それまでに差し入れの料理は全部仕上げて配達しておく。配達はもちろん、バイト青年たちに頼みます。

 配達に行った先でご祝儀をくれたりお土産料理を包んでくれたりするので、けっこう喜んでる模様。配達してもらってる間に俺は後片付けをして、バイト青年達が独身寮パーティー用の料理を運び出したら準備はおしまい。


 風呂に入ってから新しい服に着替えて、挨拶回りスタートです。


 順番は『その部族が一番集まる時間が早い順』。この場合、最初は日没直後に集まる白牙族からってことになります。


「今年も一年間、無事に過ごせました。来年も無事に過ごせることを願って」


 白牙族の集まりは各家庭の長があつまって、盃一杯程度の酒で乾杯するだけ。挨拶も乾杯のごあいさつ程度です。この後に各家庭で夕食会だから、さっくり終わらせます。


 もちろん、挨拶は下の村だけで終わるわけじゃないので、途中で上の村にも行きます。というか日没直後に下の村の白牙族のところに顔を出して、それから上の村まで竜馬(ライディングドラゴン)で急いで上がって、二か所であいさつした後、また下に降りて夜中の花火を上げる部族のところに顔を出して、と割と忙しいです。


 ちゃっかりドラゴンは行く先々でおやつをもらえるし、人を乗せて全力疾走できるのでご満悦。


 寒い中を新幹線並みのスピードで移動するので、俺は着ぶくれてます。魔法で風を少しは減らせるけど、完璧にどうにか出来るわけじゃないからね。今の時期だと、ゴーグルと防寒着は必須です。


「魔王様、お疲れ様でした」


 防寒着のまま花火打ち上げ会場近くの宴会場につくと、トゥワンの奥さんがそう出迎えてくれた。

 ちなみに宴会場は外にあります。広場で何か所か火を焚いて、その間にご馳走の並んだテーブルを置いて、宴会するのが森の耳長族の年越しです。ぶっちゃけ寒いので、防寒着必須です。


「まずは温かいものをどうぞ」

「ありがとう」


 防寒着は着込んでるけど、さすがに多少は手がかじかんだりするので、温かいお茶が嬉しいです。

 この最初のお茶は、豆っぽい実を炒って煮出した苦いもの。目覚まし代わりに使う事もあるそうで、コーヒー的な使い方するようです。


「あ、まおうさまだ!おかしありがとうございます!」


 テーブルに着くのを今か今かと待ってる子供たちから、そう声がかかった。


「ん、頑張ってみたぞ」


 森の耳長族の新年は、甘いお茶を飲んでお祝いのお菓子を皆で一口ずつ分け合う儀式からスタートする。俺からも一品、進呈しています。


 で、そのあとで花火を打ち上げてお祝い。


 けっこう派手です。人間の国に追われてしばらく、難民だった当時は途絶えた風習だったけど、農場に逃げ込んだ後で復活させたいと要望があったので、花火の製作を許可しました。

 爆発物の製造だから安全管理には口を挟ませてもらったけど、それ以外については俺は特に何もしてません。


「今年もずいぶんな品を頂戴いたしまして」

「気に入ってくれればいいけど」


 森の耳長族はもっちり甘いお菓子も好むので、今年はターキッシュ・ディライトっぽいお菓子です。うちで作ってる芋からデンプンが取れるんで、それ使って作れるんだよね。酒石酸(クリームオブタータ)は無いので使ってないし、香り付けもバラ水じゃなくてスパイスだけど。


「あらまあ、人気ありますよ。しっかり見張ってないと、余計に持っていかれるくらいですから」

「前にあれ持ってきたの、一昨年だっけ?」

「その前だったと思いますよ、うちの下の子が二つ食べたくて大泣きした年ですから」

「ああ、そういえば」


 ちびっこが何人か気に入って騒いでましたっけね。


「祝福がかかっているお品ですから、子供にばかり食べさせるわけにもいきませんからね」


 と、トゥワンが出てきてそんなことを言った。


 俺が作ったお祝い用の料理って、どういうわけか薄っすらと魔法がかかっているらしい。食べた人の運をちょっとだけ良くする程度のものらしいけど、それが俺にはまったく判らないという謎仕様。俺にとってはただの料理だったりお菓子だったりで、祝福魔法の存在は感じ取れません。


「人数分より多めに作ったし、足りると思うけどどうかな?」


 お客さんの分も必要だからね。


──────────


 打ち上げ花火を見てからさらに二か所に顔を出した後、今度は独身寮の年越しパーティー会場になってる共同食堂に行く。


「遅いですよ~!」

「酔っぱらってんなあ」


 酔いも回って寝てるのが数名、賑やかにやってるのが十数名。残りは家に帰って寝てるんだろう。あと2時間くらいで夜明けだから、眠くなって撤退した人もぼちぼちいる頃だし。


「今年も差し入れ、ありがとうございます!」

「おう、しっかり食べてるようで何より」


 テーブルの上には皆があちこちで調達して来たり、わいわい作ってたりした料理が並んでいる。俺の差し入れや、いろんな人からもらったお土産やお裾分けもあって、いささかカオス。


 一般的には、ここまでいろんな種族が入り混じっての宴会って、あんまり無いらしいからね。なにしろ島田農園(うち)は召喚後の残留組もいるから、地球風メニューまで揃ってます。今年だと、キノコソースのかかったローストがそれだな。あとは本当に色々で、ちょっとだけ残ってる巨大淡水魚の揚げ焼き野菜あんかけは羽鱗族風だし、塩漬肉と野菜のミルフィーユ風は街の耳長族のものだろう。赤牛族風の白大雁の丸ごとローストは、残り具合からすると失敗したっぽいな。焦げてるし。

 つまみに好まれる、昆虫のカリカリ揚げはすでに無くなっている。1.5センチくらいの幼虫を油で揚げたスナックなんだけど、食用油も貴重だった時代には、それこそお祝いの席くらいでしか食べられないものだったそう。外はカリッと、中はほっくりほの甘いスナックで、けっこういけます。ちなみに持ち込んだのは黒鱗族だけど、他種族でも好まれるようになりました。


 それにしても、見事なくらい動物性たんぱく質が多い。赤鱗族の料理は野菜やフルーツ主体だから、それで多少はバランス取れるんだろうけど。ただし、ちゃんと食べればの話。


「野菜も食えよおまえら」


 色鮮やかな野菜のグリル赤鱗族風は、半分くらい残ってました。


「食べましたよー」

「何をどんだけ」

「チシャ一枚!」

「食ったうちに入れるなよ」

「こいつら肉しか食わないんですよ!」

「カリカリ揚げ半分以上食ったやつがなんか言ってるし!」

「食ったもの勝ち!」

「食い物の恨みは怖いからなー、恨まれない程度にしとけよー」

「はーい」


 返事だけは素直だよなあ。


 独身寮の年越しは特に挨拶などもしないので、しばらくそこで駄弁った後、最後の一か所になる黒鱗族の集合場所へ移動。


 冬至の夕方に『死んだ』太陽の復活を祝って、冬至の翌日の朝、日の出を迎える音楽を演奏する彼らは、準備に余念がない。

 仮設ステージには装束を整えた演奏者と、仮面をつけた踊り手が待機。

 空が白み始める頃には、他種族の見学者も集まり始めてました。


「そろそろお願いします」


 俺のあいさつは演奏開始前に簡単に済ませる。

 そして、最初の太鼓が新年の夜明けを告げた。

魔王(しまだ)「俺はのんびりできない日です」

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