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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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粘り強いのも善し悪し。

 隔離期間中の三人の面倒を見る理由は、別に親切ばかりでもない。


「ようやく帰ったか」

「ずいぶん長逗留(とうりゅう)でしたねえ」


 山向こうの国から来てたアーガス氏が、ようやく帰国しました。


 アーガス氏に突撃される暇を作らないために、村の外での仕事を増やしてた面もあるわけですな。

 で、そのアーガス氏は雪が降っても粘ってたんだけど、さすがに冬至を過ぎたら山を越せなくなるからね。諦めて帰国したそうです。

 帰路の雪で遭難するリスクはあるんだけど、ま、早めの帰国を勧告してたのに無理やり居座ったのはアーガス氏なんで。俺としては客に「はよ帰れ」以上の口出しはできないんだよね。

 とりあえず、『おたくの使者はようやく帰りましたんで、帰国予定は年明けくらいですよ』と連絡は入れてある。魔術連絡網(ホットライン)を使ったので、相手には確実に届いてます。


 遭難リスクについて?

 俺は関知しないんで、連絡には含めてません。居座った人は大丈夫だと判断してたんだろうし、俺が口をはさむことじゃないからね。


「よっぽど俺を取り込みたかったんだろうねえ」

「あちらの政治ですか」

「うん、たぶん」


 そろそろ、選挙だし。

 山向こうにはいくつか国があるけど、アーガス氏が所属する国は限定的ながら選挙制度があって、政党制もあるんだよね。アーガス氏がうまいこと島田農園(うち)と話をつけられれば来年の選挙に有利になるはず、という計算もあって、長逗留してたらしいんですが、うちは農場です。企業体です。商品が売れればそれでいいのです。

 で、アーガス氏の訪問は出荷量を変えるほどの理由にならなかったりするわけでして。


「俺はただの農場主ですからねー」


 よその政治なんか知らん。


「魔王様がついているとなれば、箔は付きますよ」

「魔王なんて人はいませんヨ?」

「とぼけたところで、あちらはあなたを魔王と認めてますから」


 オゥウェンはさらっと流してくれましたよ。


「勝手に王様にされても困るんだけどなあ」


 めんどくさいだけだからね。


「俺としては、ちゃんと取引できれば良いだけなんだし」


 それに、国との直接取引はしてないんだよね。あっちの国同士で何かあった時に、トラブルに巻き込まれるから。


「それを理解したくない様子でしたね」

「理解しないふり、はしておきたいんだろうねー」


 化かしあいは世の常だから、別にそれでも良いけどね。


「ま、アーガスさんは帰ったし、帰り道で事故っても俺の責任じゃないとは言っておいたから」

辿(たど)り着けますかねえ」

「知らん」


 つまりそういう事。


 呼んでもいないのに押し掛けてきたうえに長逗留されて、割と迷惑だったし。一応は正式な客として扱ったんだから、文句言われる筋合いはないよ……という事は、アーガスさんの国にも、その周辺国にも伝えてある。

 冬至を過ぎれば、二か所ある峠と、その中間の谷には、大雪が降る。雪さえなければ通行しやすい街道になっているけど、雪が降ればその限りじゃあない。


 ……冬の黒部渓谷ほどじゃないけど、あそこ通るの大変だと思うよ?

 雪の多い間、街道は冬季閉鎖になるから、遭難したら春まで雪に埋まったままになるんだけどね。


 ちなみにアーガス氏の出身国には、街道の閉鎖前に呼び戻せと伝えてあったんだけど、そっちも無視されたんだよね。

 自発的に出発を遅らせるのはお勧めできないが、客人であるから追い出しはしない。滞在時の面倒は見る。しかし街道閉鎖が迫っているので呼び戻してはいかがか、と何度も書き送ったし、周辺国にも同様の情報を伝えて使者を呼び戻すための手伝いを頼むと要請もしたので、俺が手を尽くしたというポーズはとってあります。


 ポイントはあくまでも「街道封鎖になるよ、間に合う間に帰ってね」と言い続けたところ。間違っても遭難するぞとかそういう話はしません。冬季の長期滞在を許可する可能性は、匂わせすらしないのも重要です。

 「危ないのが判ってたのに帰したのか」と言われないための用心です。

 なんか政治家っぽいやり口だけど。


「よろしいのではないかと思いますよ。あの街道が冬の難所であることは、誰でも知っている事でしょう」


 オゥウェンが薄く笑ってました。悪役っぽく見えますよ?


「わざわざあの街道を通って帰るのって、俺のせいじゃないしね」


 別のルートが無いわけじゃないからねえ。ただし、帰国にかかる時間は倍になりますが。

 そうなるとアーガス氏としてはどうしても出席しなきゃいけない議会に間に合わないそうで、今回はやむを得ず強行突破を図った形になるわけですな。

 はよ帰れ、と言ったんだけどねえ。

 その忠告を無視して滞在する判断をしたのは、アーガス氏だったわけで。

 無事に帰れればいいんだけどね。


「今年は例年通りの雪ですし、まだかろうじて通過可能かとは思いますが」


 オゥウェンはそう言うけど、冬山に絶対はないからねえ。


「装備は持ってたけど、どうなるかね」


 雪の中を歩き続ける必要がある以上、食料を含む物資と、魔道具を含む冬山装備は欠かせない。出発前に十分な装備が整っていることは、こっちでも確認済み。

 とはいえ、悪天候が重なればあっさり遭難するのが冬山だ。


「無事に着いてくれるように祈るしかないね」


 なんか最後まで迷惑なお客でした。

魔王(しまだ)「異世界で八甲田山やらないで欲しいです」

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