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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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事情はそれぞれあるわけで。

前話と足して二で割ると、いつもの長さになります。

つまりちょっと長めです。

 警察と改めて連絡がついたのは、手紙を転送してから三日後のことだったんですが。


「……該当なし?」


 結衣(ゆい)ちゃんと大翔(ひろと)君については、親御さんから捜索願が出されていた。

 亡くなった男性については、タニグチさんという名前しか判ってなかったので難航しているらしく、追加情報をくれという事らしい。お(こつ)と、火葬する前にとっておいた遺髪と皮膚の一部を提供することになりました。


 そして最後の一人。


『コジマダイスケさん、ですよね』


 電話の向こうで、これまで何度か接触のあった担当の警察官が再度確認してきた。

 生年月日と名前、誘拐されたときの住所、所属していた大学名を伝えておいたんだけど、捜索願は出ていないとのこと。


「……アパートも引き払ってたと」


 住んでいたアパートは家賃滞納ということで退去の扱いに。家財道具の処分は、家族が『金だけ出すからそっちでやれ』と不動産屋に丸投げしようとしてトラブっていたとのこと。

 大学も、学費滞納で退学。


『実家だという住所にも連絡してみましたが、えらい剣幕でしたよ』


 詳しいことは話してくれないけど、ため息交じりの言葉からすると、どうやら問題がある家族だったご様子。


「お手数かけました」

『いえ、保護していただけてありがたいですよ。水野大翔さんと鈴木結衣さんについての第二報も助かりました』


 第一報は斎藤さんと一緒に送った連絡ね。


『そろそろ打ち止めという話でしたよね』

「今回の被害者は、終わりかなと」


 被害者全員の行方が分かったわけじゃないけど。

 日本の警察が把握してるのは、捜索願が出された人たちの事だけだし。誘拐されたことが誰にも知られないまま、こちらで知り合いの一人も作らずに亡くなってしまえば、いつのまにか行方不明になった人の出来上がりだ。いなくなった事すら誰にも知ってもらえず、ひっそり消える人になってしまう。


『他の場所で誘拐された方の情報はありませんか』

「現時点では把握してません」


 そりゃ、日本で行方不明になる人は他にもいるからねえ。警察だって他に被害者がいないか興味はあるだろう。

 今回の小島みたいに、行方不明になったけど無視されてた人もいるし。


『そうでしたか。そういえば、こちらにお戻りになるご予定は』

「今のところ、ありませんねえ」


 俺自身を送り返せるかどうかはかなり微妙だし、やれたところでやる気もないです。


『直接お話を伺えるとありがたいんですがねえ』

「う~ん、とりあえずはそちらから電話連絡をいただけるようになるだけでも、楽になるんですけどねえ」


 今のところ、俺の方から電話するしかないんだよね。

 事前に電話するタイミングを連絡しておいて待機してもらう以外に、直接話す手段はないです。


「逆探知、できました?」


 警察だってもちろん、努力はしています。ちょっと話を引っ張ってるのも、逆探知の時間稼ぎという意味があったりする。


『やっぱり無理だそうでして』

「頑張ってもらえると、うちも嬉しいんですけどねー」


 異世界への電話のかけ方を解明してくれたら、助かるんだけどなあ。俺から連絡しない限りどうしようもないというのは、やっぱり面倒だし。


『島田さんの本籍地周辺からの発信という事にはなってるんですが』

「あのへん、無住地区なんですよねー」


 具体的に言うと、氏神様の祠の近くが発信源として捕捉されてるんだとか。


 実際はどんな場所かといえば、21世紀に入る頃には無住化した山奥の村で、定期的に掃除に行くのも俺が最後の一人。俺がこちらに来る直前には道も崩れかけていて、軽トラで村に行けるのは今年が最後だろうなあ、なんて思ってたんだよね。

 昔は電気も電話もあったんだけど、俺が最後に掃除に行った時は、携帯電話すら通じなかった。


 そんなところからの発信なんてもちろん、本物のはずもない。俺からの電話は怪奇現象と化してます。


『そうなんですよねえ』

「電気も止めてからずいぶん経ってますし」


 おかげで掃除のための水汲みが大変だったんですが。まあ一回で懲りたんで、それ以降は軽トラに発電機とポンプとタンクを積んで行って、沢から水を汲むことにしたんだけどね。


『もうちょっと密に連絡とっていただけるとありがたいのですが』

「いや私も仕事ありますんで」


 農家は暇ではないのだよ。


──────────


 警察に連絡も取れ、大翔君と結衣ちゃんの帰宅については警察からも連絡を入れてもらうことで話がついたわけですが。


「……やっぱ、そうなるよな」


 涙ぐんでるけど無理して笑ってる一名。


「心当たりはあるのか」

「親と仲が悪くて。大学もアパートも、バイト代でどうにかしてたから。親は払ってくれない」


 これ、もしかして。


「実家にいれば屋根は貸してやるって言われて、メシだけしぶしぶ食わせてくれたけど」


 しぶしぶ、だったわけか。


「大学も、昼間は高いからさ。こっそりバイトして金貯めて、自分で払えるところに入ったんだけど、俺、あんま貯金ないからさ」


 小島が通ってたのは二部、つまり夜間の学部。働きながら勉強する学生の財布にやさしい所が多い。

 それでも、自分で家賃から何から払ってとなれば、やりくりは厳しいだろう。

 大学側だって何らかの救済手段は持ってただろうけど、期限内に戻れなければ、どうにもしようがない。学費の引き落としが出来ていればまた別だったろうけど、預金残高が足りなくて、それもできなかったということか。


「金が無いって、キツいよな」

「……こういう時は泣いて良いんだぞ?」


 自分がいなくなっても探そうともしない親兄弟に、恨み言さえ出てこない。


 家族には何も期待していないという事実が、小島の育った環境の悪さを物語っていた。

 近親者には何もあてにできないと諦めて、自分で何とかしようと頑張って、進学したわけだ。

 そんな努力を召喚(ゆうかい)した馬鹿野郎どものせいで全部台無しにされたのに、そいつらを責めるより先に出てきた言葉が『金が無い』。


 自分で自分の問題をどうにかしなきゃいけない、と考える習慣が身に染みついてるんだよね、これ。

 まだ二十歳になったばかりなのに、誰かを頼らず生きていくことを叩き込まれすぎている。


「泣いたら、立ち直れなくなりそうでさ」

「そっか」


 昔の職場にも、こういう奴いたからなあ。


 高卒で就職したから、まあいろんな奴がいたよね。親兄弟と同じ職業だからって入ってきたのもいれば、俺みたいに任期だけ頑張って金を貯めようというのもいたし、衣食住がついてるからという切羽詰まった理由で職を選んだ奴もいた。


 切羽詰まってる奴の中には、親から経済的にネグレクトされてるのもいたわけで。

 あいつらはとにかく、他人に頼るのが下手だった。

 誰かが助けてくれる、という発想がそもそもないんだよなあ。誰かに大切にされたり、助けてもらったり、という記憶がほとんどないから、助けてもらえる状況を想像できないというのも大きいらしい。


「……戻っても家がないな」

「そうなんだよな……実家も、頼れねえし。行っても追っ払われるだけだろうから」

「実家ってどこ?」

「都内だけどさ」


 聞き出してもらった話からすると、小島の育った家はけして金持ちではないが、子供二人を進学させる程度のことはできる収入のある家庭だ。少なくとも、兄を私立医大に行かせるためにローンを組める程度には、ちゃんとした収入があるらしい。

 その気になれば、小島のことももうちょっと面倒見てやれたはず、と判断するのは難しいことではなかった。


「俺、出来が悪いからさ。親も、俺に期待すんのやめてんだよ」

「テキストもなにもない状況で現地語を覚えた奴が、出来が悪いとは思わないけどね」


 たぶん小島には響かない言葉だろうけど、俺の本音はこれ。


 こいつはけして頭の悪い奴ではない。これまで周りに馬鹿にされたり、無駄に比較されたりが多すぎたのか自己評価は低いが、性格だってまあまあ悪くはないだろう。

 それに、『言いなりになって武器をとるのは嫌だ』と決めて実行した根性は見上げたものだ。戦闘訓練を放棄した方法にはご意見のある奴もいただろうけど、ふざけた態度の反抗的な奴は殺されかねない環境で、それでも逆らったのだから、たいしたもんだと言わざるを得ない。


「覚えなきゃ、メシ食えないじゃん」

「そこで挫折する奴も結構いるんだよ」

「そうかぁ?」

「君と同時期に追い出されたタニグチさん、喋れなかったんだとさ」

「そりゃ、翻訳魔法っての使えたからだろ」


 そればかりでも無いんだけどね。

 ま、その辺は話しても通じないか。


「で、自力で言葉が覚えられるくらいなら、うちの仕事も覚えられるんじゃないかと思うんだが?」

「え?」

「帰ってもホームレスになりかねないんなら、いっそうちで働かないか」

「……子供もまとめて襲うようなやつだぞ、俺」


 追放された日の事だね。


「それについては今どう思ってる」

「記憶、消してえ」

「つまり、まともな倫理観は残ってるってことだよな」

「でも、あれはありえねえって……」

「一生恥ずかしがってるんだね、それが罰だと思えよ」

「でもよ……さすがに、無くねぇか、あれ」

「俺、救助した人を放り出す趣味は無いんだよね」


 こいつはけして「助けてくれ」とは言わない。言えばどうにかなる事が理解できていない。

 何とかしたければ、こちらから手を差し伸べるしかない。

 ……大人になったばかりの若者だし、そのくらいの手助けはしたっていいだろう。


「戻ってホームレスになるのと、うちの農園で働くのと、どっちが好みだ?給料は出すぞ。衣食住もついてる」

「給料あるの?」

「仕事してもらうのに給料出さないとか、無いから。で、どーする?」

「俺、働いても、いいのかな」

「働く気があるなら歓迎する」


 聞き取りに当たったスタッフからも、悪い評価は出ていない。試験採用期間を設ける必要はあるけど、なんとかなりそうなんだよね。


 小島は何か言おうとするように口を動かして、しばらく沈黙。

 こういう時は返事を急かさない方がいいので、俺も黙って待つ。


「……お願いします」


 かなりたってから、ぽつっと返してきた。


「OK、雇用条件とかは後で詰めるからな。体力が回復するまで、客って扱いになるぞ」

「え?いいのか、それ」

「だいたいそういう事にしてるんだよ。飯だってまともに食ってなかったんだろ?」

「それは、まあ……」

「うちは農園なんでね、食いものはある。働けるくらい元気になってもらうぞ」

「……うん」


 時々、妙に幼い反応を返すんだよなあ。

魔王(しまだ)「勇者(笑)みたいな下種(げす)だったら、助けないけどね」

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