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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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帰り道でのこと。

 斎藤さんを送り終わったら、退避していた皆に合図。


 俺が確認して合図するまでは動かないように徹底してるんだよね。結界した中から見える光景が欺瞞(ぎまん)じゃないとは限らないから。

 管理者氏は時々、変に悪知恵を働かせることが有るので、安全への配慮は必要です。やらかせば俺がボコりますが、ボコる前に被害が出たら困るからね。


「お疲れ様でした」

「そっちも、準備ありがとう」


 さくさくと笹を抜いて縄を外して、地面はちょっと円匙(スコップ)を入れて荒らしておく。これは結界を壊すという意味でやってるから、ひと(すく)いだけ荒らせばOK。


 荷物をまとめたら全部ちゃっかりドラゴンの背中にのっけて、笛で呼んだ竜馬(ライディングドラゴン)3頭に俺以外が分乗して、拠点に戻ります。

 さすがに今回は距離も無いし、他のメンバーもいるのでのんびり移動。ちゃっかりドラゴンは特に速いんだけど、これ以外の竜馬(ライディングドラゴン)も本気を出せば乗り手の負担が増えるから、皆に無理させることになるんだよね。緊急時でもないのにそこまでする必要は無いです。


「一つ、良いかな」


 移動途中で竜馬を寄せてきたのはターク先生。


「はい、なにかありました?」

「子供たちのことなんだが」


 診察頼んでましたっけね。


「何か問題、ありましたか」

「男の子は、栄養失調くらいだな。女の子の方は、栄養失調の他に精神的な問題がある」

「早めに還す方が良いですかね」


 現実のギャップをどう埋めるかという問題が起こりがちなので、早く返せばいいというものでもないが、親元から離されているのが良くない事も考えなきゃいけないので、そこらの調整は難しいんだよね。


「帰還後の環境によるよ」

「ふーむ……」


 親御さんに接触しない事には、どのみち決められないか。


「ああ、それとひとつ注意なんだが。砂糖を食べさせたそうだね」

「ちょっとだけですが。まずかったですか」

「できれば、私が診察した後にして欲しかったね。二人の健康に影響はなかったようだが」

「すみません」


 そりゃそうか。ターク先生から見たら、俺だって素人だし。


「できるだけ、事故なく還してやりたいからね。理解してもらえると助かるよ」

「慎重さが足りませんでしたね、気を付けます」

「子供が喜ぶ顔が見たいのも、良く判るんだ」


 ターク先生は苦い顔。


(とお)を少し超えたばかりの子供だ、すぐにでも喜ばせてやりたい気持ちも良く判る」


 ターク先生も子供のいる人だから、親としての感情もあるんだろう。

 二人いた息子さんは人間の襲撃で亡くなり、ここに逃げて来てから生まれた娘さんは山向こうの国に留学してる。傷ついた子供や親元を離れた子供を心配する気持ちはたぶん、どこの世界も変わらない。


「食べられるようになったら、お菓子をあげようかなと」

「ああ、いいね。ちょうど新年の祝いもあるし」

「少しは、まともな思い出もあっていいと思うんですよ」

「そうだね」


 それ以降は、特に話もしないで周囲を警戒しつつ森の中を進む。

 敵影が無いのを確認するの、重要です。ほとんど人間が入ってこない森とはいえ、油断して良いわけじゃないからね。


「おかえりなさい」


 拠点で出迎えてくれたのは、黒鱗族のイケメンことラーズでした。


「ただいま。異常は無かったかな」

「現時点で異常ありません」


 ちゃっかりドラゴン以外の竜馬はここでスタッフを下ろし、厩舎に向かう事になる。


 フリーダムな奴は砂糖をねだった後、荷物を積んだまま倉庫に向かったけど。ちなみに自主的にやってます。

 倉庫の扉を開けてから、背中の荷物は自分で下せないので、俺に下ろせと要求してる。前脚が短いから、荷物を下ろすのは無理なんだよね。器用なんだか不器用なんだか分らん奴です。


 今回使った笹と縄は次の儀式に再利用するわけにいかないから、ここの通常資材に転用。送還陣はここに置いておけないので、あとで持って帰ります。


「村にはいつお戻りになりますか」

「予定通り。三人はここに置いとくよ」


 村の仕事は一段落してるし、2~3日はここにいても差し支えない。

 三人の隔離期間中、ずっと付き合うのは無理だけど。


 とはいえ、今日はまだ三人からの情報収集が必要だから、こっちに泊まるけどね。


──────────


 面倒を見ると言っても、ずっとべったり貼りついている必要は無い。

 三人からの情報収集自体も、俺が全部やるわけじゃないし。何人かで聞き取りしたほうが、色々拾えるからね。


 というわけで、俺は空き時間を利用して拠点の整備作業。通常整備はいつも通りやってもらうとして、今後の拡張計画のために周辺の確認をするのが今回の俺のお仕事です。

 今年は不作だったから、森には人間の痕跡が残ってる。食べ物を求めて行動範囲を広げたんだろうね。そうは言っても森の中も不作なんで、入って来ても徒労だったと思うけど、入ってみるまで判らないからね。あちこち探しまわった痕が残ってました。


「この冬は、あちらの状況は厳しいだろうな」


 収穫高についての情報は既に得ている。

 もともと生産性の高くなかった麦に、雨が続いた時期にカビが蔓延したのが不作の原因だ。黒いカビにやられた畑からは、普段の半分にもならない収穫しか得られていない様子。品種によっては、今回のカビで種をとることすら不可能になっている。

 来年以降も、状況は厳しいだろう。


「餓死者が相当出ますね」


 食べられそうな草はもちろん刈り取られてるし、特定の木の皮まで剥いでいっている。木の皮は砕いてパンに混ぜるそうで、一種の救荒植物と言ったところだろうけど……人間が栄養にするにはまったく向いていない。腹は壊さないというだけの、空腹を誤魔化すための(かさ)増し用だ。


「略奪に警戒が必要だな」


 まだ動けるうちに徒党を組んで略奪に移る可能性は、否定できない。

 農場まで上がってこられる可能性は、ほとんど無いけどね。ただ、農場(うち)はよくてもリーシャさんのところが心配ではある。


「あとは、あのカビを持ち込まれないように気を付けなくてはいけませんね」


 うちとは直接取引が無いけど、リーシャさんのところは神経をとがらせているし。


「そうだねえ」


 まだしばらく、人や物の出入りに警戒しないといけないだろうね。

魔王(しまだ)「うちが迷惑かけられない事が最優先です」

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