表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/95

爆走ドラゴン便。

 小島はまあまあ落ち着いてるから、問題は男性の死因と斎藤さんの異常の原因ですが。


「両方とも、栄養失調が原因だよ」


 というのが、ターク先生のお見立てでした。


「亡くなったほうは、予想通り一気に食べたことが原因だろうね。明らかな死因になりそうな所見はなかったよ」


 感染症なし、外傷無し、内臓の損傷無し、脳内の出血無し、だそうで。

 ターク先生が使う医療鑑別(かんべつ)魔法だと、けっこう(くわ)しく死因を調べることができるんだよね。鑑定や鑑別と言った魔法の常で、使う人の知識が無ければ何の役にも立たないんだけど、さすがにターク先生ともなると魔法の効きも抜群です。

 なお、同じ魔法を俺が使っても『状態:死亡』くらいの情報しか出てきません。俺があの死体を見てわかる事って、死んでるかどうか程度だからね。


「焼却処分は不要になりそうですね」


 廃村ステージの中を歩きながらそんな話をしていると、うら寂しさが募る。


「ああ、そこまでしなくていいかな。火葬にはするんだろう」

「はい、遺骨の返還を求められたら対応したいので」


 土葬にしちゃうと返すの大変だからね。火葬の場合は身元の確認が面倒になるみたいだけど、そこは遺骨返還が最優先です。

 火葬が禁忌(タブー)になってる文化圏の人だと話が違うけど、亡くなった人は日本人のようだし、先に荼毘(だび)に付しても大丈夫だろう。


「それで、生きてる方も栄養失調が問題っていうのは?」

(わず)かだけ必要だが重要な栄養素が足りなかったらしい。脳にも影響が出ている。彼一人だけに症状が出ているのが不思議だが」

「あ、それなんですが。どうやら子供たちに食糧を分けていたようで、あの人だけ極端に食べてなかった可能性がありそうですよ」

「……それが原因だろうな。脳以外にも問題が出ているが、あれで歩けたのは奇跡だよ」

「そこまで(ひど)いんですか」

「我々と同じ症状が出るなら、少なくとも(だる)さはあったと思う。あと何日かで、立つこともできなくなっただろうね」

「それで、治療出来そうですか」


 もし必要なら、斎藤さんだけ優先的に帰還させることになる。


 俺の力は高校生二人の帰還のために使う予定だけど、管理者氏をこき使えば、斎藤さんを帰すことは可能。管理者氏が途中で暴れるリスクがあるんだけど、そうも言っていられないかな。俺のほうが強いから、いざとなったら張り倒すつもりで使うしかないかも。


「緊急に必要だと判断して、注射薬を使ったよ。すまないが後で発注する」

「判りました、請求はこっちに回してください」


 召喚(ゆうかい)された人の救助は農場としての事業じゃないので、俺個人の支払いになります。

 山向こうの国で生産開始されている注射薬は農場(うち)の診療所にも導入してるけど、輸入品なので若干お高い。次に納入されるまでの時間も長いから、そうバカスカ使えるものでもないと思う。もっとも、誰にいつ何を使うかの判断は全部、ターク先生にお任せなんだけどね。


「理解の早い雇用主でなによりだね」

「俺は先生の判断に従いますよ。緊急帰還させるかどうかも含めて、医者としてのご意見を伺いたいです」

「できれば、彼と同種族の医師の手に任せたい。重症の異世界人だ、より安全な治療を受けるべきだよ」

「判りました」


 緊急帰還が決定しました。


──────────


 病人の緊急送還、はこれまで無かったわけじゃないので、簡易送還陣の用意はあるんですが。

 斎藤さんの場合、先日の勇者(笑)こと山本蒼兎瑠(そうる)君のように一刻を争う重傷というわけでもないから、時間的猶予(ゆうよ)は多少ある。術者(おれ)にも被術者(びょうにん)にもちょっと負担が増える簡易送還陣ではなく、正式な送還陣を使った方が良いだろう。

 ここは監視拠点だから、簡易送還陣しか用意してないけど。


 というわけで。


「鑑定よし、入村許可はこれだ」


 ターク先生に発行してもらった医療鑑定済み証を持って、ちゃっかりドラゴンの鞍上の人になりました。

 農場主の俺と言えども、有資格者の証明がない限り検疫の例外にしないルールにしてあるんだよね。ここまでやっておくと、よそから来た連中に身分を盾に騒がれても、上から下まで従うルールだとゴリ押ししやすくなります。


「じゃ、ちょっと準備してきます」

「気を付けて。君がいない間に、子供たちも診ておくよ」

「よろしくお願いします」

「ぎゃ」


 ちゃっかりドラゴンはすっかりやる気。


「行くぞ、このエリアを抜けたら全力だ」

「うぎゃ」


 設備がある廃村偽装エリアを抜けたところで、全力疾走を指示。


「ぎきゃ」


 嬉しそうに一声鳴いてから、ちゃっかりドラゴンが力を足に込める。

 そして爆走。

 どうやら竜馬(ライディングドラゴン)は成長すると魔法が使えるらしく、トップスピードまで出すと新幹線並みの速さになるし、短時間だけどジャンプして滞空出来るようにさえなるんだよね。森の()を跳び越えて、山腹をえぐる勢いで岩壁を走って、最短時間で村に向かう事が可能になる。


 その代わり、乗り心地は最悪になるけど。


 なお本竜(ほんにん)は楽しんでます。激突しそうな勢いで大木や岩壁に向かっていくけど、そこで怖がって制動したりすると逆に危ないです。別に無理してるわけじゃないからね、余裕で避けられるんだよね。

 途中の山道もなんのそので駆け上がっていくんだけど、全力での跳躍を繰り返すもんだから、ちゃっかりドラゴンがどこかを蹴って跳ぶたびにGがかかる。そのまま乗ってたら腰を痛めそうなんで、俺も魔法併用で身体強化が必須です。


 そんな他人にお勧めできない状態で爆走することしばらく。


 村が見えてきたので減速を指示すると、ちゃっかりドラゴンはご機嫌に速度を落とし始めました。

 こいつにとっては「ちょっとお散歩」くらいの距離だし、たまに全力で走ると気持ちいい、としか思ってなさそうです。


「おかえりなさいませ」


 ちゃっかりドラゴンが見えたところで気が付いていたのか、村の門で待っていてくれたのは総務部保健課の職員、有尾族のガンサさんでした。

 ほぼ人間と同じ姿なんだけど、純血種なら長い尻尾を持ってる部族で、人間の近縁種らしいです。少なくとも人間と子供を作れるくらいには近いそうな。ガンサさんはお祖母さんの一人が人間だそうで、尻尾がちょっと短め。


「ただいまです。はい、これ確認してください」


 鞍から下りて職員に医療鑑定済み証を渡して、確認してもらう。有資格者がこれを確認しないと、村には入れない事にしてあります。


「たしかに確認しました、どうぞお入りください」

「ありがとう、ご苦労様」

「魔王様こそ、お疲れ様です」

「このあと、すぐ戻るよ」


 俺が言ったのを聞いて、ちゃっかりドラゴンは嬉しそうに尻尾を振り振り。俺を乗せて全力疾走する機会ってあんまりないから、楽しんでます。


「何があったんです?」

「一人、緊急に送り返す必要のある病人が出たんだ。ダイキとユウトの送還に影響が出ないようにやるから、それなりに準備が必要でね」

「そういうことでしたか。死者も出たと連絡でしたが」

「そっちはいきなり食べたせいで死んだらしい。ターク先生の見立てだと、疫病とかじゃないらしいよ」

「先生のお見立てでしたら、間違いないでしょうね」

「感染症じゃなくて良かったよ。念のために、しばらくは離れて生活してもらうけどね」

「わかりました。除染はこちらです」


 一応は鑑定証を持っているけど、俺もちゃっかりドラゴンもいったん丸洗いされる手順になってます。

 ガンサさんがわざわざ来てる理由も、半分はそれ。彼女は除染の監督もしてるからね。


 手順通りに服は全部着替えてシャワー浴びて、ついでに除染用の魔法(これは俺が良く知らない奴)をかけられて、それから新しい服を着る。ちゃっかりドラゴンの鞍は俺が浮遊(レビテーション)で外して、本竜はそのまま丸洗い。なんか気持ちよさそうにしてるので、嫌いじゃないっぽいです。


 着替えが済んだら私邸に戻って、緊急送還用の魔法陣を描いた布と、管理者氏召喚場所作成用の笹っぽい植物4本、それと縄と用意。

 簡単に食事も済ませたところで、同じく食事を済ませてきたちゃっかりドラゴンが私邸の門前に到着。

 荷物を括り付けたら、また鞍上の人になって。


「じゃ、また行ってきます」

「お気をつけて」


 村を出るまではゆっくり歩かせてたけど、村の門を出たら全力走を指示。

 嬉しそうに尻尾をぶんぶん振ってから、竜馬(ライディングドラゴン)はフルパワーで走り始めた。

魔王(しまだ)「素人にはお勧めできない、それがドラゴン緊急便です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ