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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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無いところには無い、にしても限度ってものがある。

 運ぶと言っても直接接触は避けたほうが良いので、斎藤さんの事は浮遊(レビテーション)で移動させる。

 子供二人の前では調べにくいこともあるし、行先は別棟。といっても被救助者に用意してある建物の数に限りがあるので、選択肢は一か所になる。


 つまり小島のところなんですけどね。個室単位で管理は出来るから分離は可能だし、他にすぐに使える建物も無いし、仕方ない。

 出来れば無人のところを使いたかったけど、無いものは無いし。


「なんだよそれ」


 運んで行った斎藤さんを見て、小島がまず言ったのがこの一言でした。


「何って、君も知ってるでしょ斎藤さん」

「そりゃ分かるけどよ、なんで浮いてんの?しかも寝てるし」

「浮かしてるから。調子悪いみたいなんで寝かせたんだけど、うつる病気だったら困るでしょ、だから触らないようにしてるんだよ」


 顔色もあんまりよくないけど、これは昨日からだからなあ。今日の言動に関しては、何が原因なのか良く判らん。そして


「そんなやべーの俺んとこ持ってくんなよ!?」


 うん、小島は元気だね。


「何をいまさら」


 襲撃した時点で接触あるでしょ君ら。


「まあ、そうだけどよ……」

「一応、小島君も近寄らないでねー」


 小島はとりあえずおいといて、誰も使っていない個室に斎藤さんを寝かせる。

 呼吸は安定してるけど、何かが脳に影響して暴れ出した可能性がある以上、楽観視は出来ない。とはいえ俺に出来ることが有るわけじゃないのが困ったところだよね。


 同じ部屋に閉じこもるのは止めるようにターク先生から言われてるので、斎藤さんを寝かした部屋にはとどまらず、部屋の外から監視することにする。狩猟用の獲物探知魔法を使ってれば、壁一枚隔てても生きてるか死んでるかは分かるからね。

 建物の外で魔法を発動したまま待つこと小一時間。斎藤さんが寝ている間に、ターク先生の仕事が終わったと連絡が入りました。


「あーはい了解。そっちに行くわ」

『いえ、ターク先生がそちらの患者も診に行くそうです』


 そりゃ助かります。

 そしてしばらく待っていると、診療カバンを手にしたターク先生がちゃっかりドラゴンといっしょにやってきました。


「あれ、遊びに行ってなかったのか」


 ターク先生を下ろしたちゃっかりドラゴン、いつも通り頭をすりすりしてます。


「それよりもお駄賃が欲しいんだろうね」


 ターク先生は苦笑気味。


「あーはいはい、あいかわらずしっかりしてるなあ」


 この巨体で小さな砂糖の欠片なんか食べごたえ無いだろうと思うんだけど、本竜が気に入ってるし、まあ良いってことにしますかね。

 砂糖を舐めてから、ちゃっかりドラゴンはご機嫌で遊びに行きました。


「で、もう一人がいきなり暴れ出したという事だったね?」


 遊びに行く奴の尻尾が角を曲がって見えなくなったところで、ターク先生が仕事の話を始める。


「はい。とりあえず眠らせてあります」

「状況を教えてくれるかな」


 簡潔に報告すると、ターク先生は片手で顎をなでながら難しい顔になった。

 これ、ターク先生が思考をまとめてる時の癖なんだよね。邪魔しないのが一番です。


「熱が出たりといった様子も無し、か……」

「一見すると元気ではあったんですよね」

「異世界人と我々に同じ常識が通じるかどうか、はあるがね……診てみよう。魔王は近寄らないように」

「あっはい」


 魔王なんて人はいませんよ?

 と突っこむには雰囲気がシリアス過ぎました。


「じゃ、今のうちに子供たちの様子を見て来てかまいませんか?」

「むしろお願いしたい。ここしばらくの患者の様子を聞いてくれるとありがたいな」

「判りました、聞いてみます」


 というわけで、再びターク先生とは別行動になりました。


──────────


「おはようございます」


 子供二人と斎藤さんに割り当てた建物の中では、子供二人が仲良く朝食の片づけをしているところでした。


「おはよう、眠れたかな?」

「はい」


 疲れが残る顔だけどそう答えたのは大翔(ひろと)君。結衣(ゆい)ちゃんのほうは、微妙に反応なし。


「あの、斎藤さん見なかったですか」

「さっきちょっと話したよ」


 さて、二人にどう話したもんか。


「戻ってこないんですけど、朝のスープ、冷めちゃいそうなんですよね……」

「今は別の建物で休憩してるんだ、ちょっと疲れてるみたいでね」


 なんかおかしくなったと言う必要は無いだろう。


「あ、そっか……やっぱり」

「やっぱりって、何かあったんだ?」

「えっと……斎藤さん、ぼくらに食糧を分けてくれてたんです」

「……ぎりぎりだったよね?」

「はい。貰える食べ物が、一日に、パン一個なんてこともあって。でも、ぼくらは成長期だから食べなさいって分けてくれて」

「……斎藤さんも食べてなかっただろうに」


 餓死覚悟だったのかもしれない。ずいぶん無茶をする。


「野草とか、木の皮とか、そんなのも集めて食べてたので、ぜんぜん食べてなかったわけじゃないんですけど。でも、斎藤さん食べてた量ってすごく少ないんです」

「それで良く動けたなあ」

「すぐ疲れちゃうんです」


 昨日の三人の歩く速度を思い出せば、良く判る話です。全員、限界に近かったんだろうね。


「斎藤さん、ぼくらの前では、無理してたんだと思います」

「だろうねえ。一週間くらい食べてなかったんだっけ?」

「パンが一日一個になったのは、もっと前です」


 どうせ放逐(ほうちく)する人間だから、やらせる仕事も減る時期になれば食べ物を与えるのも勿体(もったい)ない、と考えたんだろうね。

 人間の国の生産力では、養える人間の数は限られる。

 長い冬に備えて、食べ物を節約したかったんだろうけどねえ。だったら召喚なんかして人口を増やすなと言いたい。


「そうかぁ、みんな苦労したなあ。もう安心して良いよ。今日はお医者さんが来てくれてるから、診てもらおうか」

「斎藤さんを先にしてもらうって、出来ますか」


 大翔君、こんな時でも気遣える良い子です。


「もう診てもらってるよ。じゃあ斎藤さんが終わったら、君らも診てもらおう。しばらくここで待てるかな?」

「はい」

「ちゃんと暖かくしててね。薪は遠慮なく使うように。火傷だけ気を付けて」

「わかりました」


 まったく反応のない結衣ちゃんが気になったけど、俺に出来ることはないので、そのままターク先生のいる建物に戻った。


 俺が到着すると、ターク先生は土間のテーブルについて小島と話をしてるところでした。


「あれ、小島君、こっちの言葉判るんだ」


 今は翻訳魔法がかかってない状態なんだけど、会話が成立してました。

 とはいえスムーズとはいいがたいから、さくっと魔法をかけておきます。俺と小島の会話は日本語です。


「覚えなきゃ生きてけないじゃん」

「覚えられない人もいるからさ」

「俺、翻訳魔法は使ってもらえないことけっこうあったんで」

「なんでまた」

「あいつらの命令聞きたくなくて、剣とか使わなかったんで。そしたら、力仕事とか汚れ仕事ばっか振られるようになってさ」

「あ~、下働きだから翻訳魔法なんて要らない、て言われたとか?」

「あ、それそれ。でも話わかんないと困るから、必死で覚えた」


 さらっと言ったけど、相当苦労してるよね、これ。


「それはまた、ずいぶん努力家だね」


 と、これはターク先生。


「うぉ、翻訳魔法かかってるすげぇ。っと、ドリョクとか俺好きじゃないんだけど、そう言ってもいられないからさ」

「たいしたもんだよ」


 あの国で下働きをさせられてたとなると、待遇はかなり悪かっただろう。


「もう必死でさ。だまってると、メシが無かったりしたし。だから、喋んなきゃって」

「よくやったね」

「そうでもな……あれ、おかしいな、なんで泣いてんの俺」


 乱暴に目元を拭った小島は、何とか笑顔になろうとして失敗していた。


「メシが、食いたかった、だけで、ドリョクなんて、してな、い」

「君はじゅうぶん、頑張ってきたんだ。生きてここにたどり着いてくれて、私もうれしいよ」


 ターク先生の落ち着いた声に、小島がしばらく顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

 召喚(ゆうかい)されてからずっと、生き延びる努力で精いっぱいだったんだろう。あの国で下働きなんかしていたら、どれだけ努力してもなかなか認めてくれないし、それどころか罵られる事だってあっただろう。

 必死で生きてきたことをターク先生に認めてもらって、涙があふれて来たってところかな。


「……すんません」


 小島が落ち着くまでにかかった時間は十分くらい。小さい声で恥ずかしそうに言った小島の前に、薄く入れたお茶を出してやる。


「あったかいものでも飲むといいよ」

「これ、いい匂いっすね」


 小島はお茶を少し(すす)って、恥ずかしさを隠すようにコメントしてきた。


「匂いだけじゃないぞ、必要なビタミンも入ってる」

「え、なにそれ」

「いきなり食べるとまずいって説明したよね。だから最初にビタミンとかミネラル補給するよ」

「メシは?」


 少し不安そうにしてるけど、これまで食べられなかったんだから食事には執着して当然だよね。


「最初はちょっとだけ。一週間くらいかけて、少しずつ増やす」

「……食べさせてくれるんだ」


 なんかものすごく嬉しそうな顔になってました。

魔王(しまだ)召喚(ゆうかい)した人にはちゃんとメシくらい出せと言いたい」

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