上には上がいます。色んな意味で。
こっちの世界だと『力』の存在を感じ取れる人が時々いるんだけど、直接目で見られる人というのは案外少ない。
異世界人なのに『見えちゃう』人は更にレアだと思うんだけどね。斎藤さんはその超レア人材でした。
「目が……!」
俺の力を直視した斎藤さん、悶絶してました。
「しばらく目を休ませるしかないですよ」
高輝度LEDを直視するようなもんだからねえ。
普通の光を見てるわけじゃないので、後遺症が残ることはないらしいんだけど。
五分くらいしたらようやく目が見えるようになったようで、涙目になりながらも復活してました。
「無茶しちゃダメですよ、まだ本調子じゃないんだから」
「……どこが『ただの人間』だよ」
「生まれも育ちも普通の日本人ですよ?」
ちょーっと管理者氏とドツキあい出来るようになったりしましたけど。
「あんまり気にしないでください。大したことじゃないんで」
「日本人が魔王やってるとか、大したことだろうが!」
あ、地が出てますよ斎藤さん。
「ん~、魔王と言ってもねえ、成り行きでこうなってるだけですから。そもそも、俺は誘拐された人を帰すのが仕事なんで、人間の国の都合なんか知ったこっちゃないですからねー」
「……はぁ?」
「だからね、俺のことをここの人間が何と呼ぼうが、俺の仕事は変わらないんですよ」
人間を贔屓してる管理者氏にとって、俺は気に食わない存在だから、まあ色々言ってるらしいってのは知ってるけどね。
とはいえ俺はその管理者氏の尻拭いをしてるわけだから、管理者氏も嫌がらせ以上のことはやれない。管理者氏が何かしてきたら、俺も容赦なくドツくことにしてるし。
「……管理者?」
「人間の国だと主神って言われてる神様ですかね。ここと異世界をつなぐ通路の管理者です。一部の人間への贔屓がひどすぎて、信仰も失ってて、召喚やらかしすぎたりして他の世界の神様にフルボッコされたりもしてますね」
「魔王がなんで、そんなこと知ってるんだ」
「そりゃ、管理者氏をフルボッコしたの、俺の上司ですし」
「上司?」
「そ、上司。うちの氏神さんなんですけどね、管理者氏が俺をここに呼びつけようとした時に出て来てボコってましてねー」
たまたま祠にいる時に引っ張られそうになったから、よけい出てきやすかったんだろうね。氏神さんの神域でちょっかいかけたことになるし。
「氏神?」
「うん、氏神さん。俺が祠の掃除してた時にこっちに呼びつけられそうになりましてね。で、目の前でそんな事されたうちの氏神さんが激おこになりまして」
さすが山の集落を守ってきた神様だけあって、熊なみのパワーで管理者氏をボコっておりました。
先祖代々祀ってきた氏神様があそこまで荒っぽい存在だとは、その時まで俺も全く知りませんでしたが。山奥の小さな集落だけで拝んでた名もない神様でさえあのパワーなんだから、もっと広い範囲をカバーする神様たちの力が知れるってものです。
「ぼっこぼこにした後で、管理者氏より偉い神様と、氏神様より偉い神様が出て来て、お話合いしたってわけです」
俺にしろ、俺の担当だという神様たちにしろ、管理者氏に呼びつけられて仕事しろと言われても『知るかボケ』以外の答えはなかったからねえ。
「まあ色々あって、条件決めて俺が派遣されたってわけです。だから、氏神様が今の俺の上司ですね」
「……ずいぶん端折ったんじゃないか」
「細かい説明しても仕方ないからねー」
特に、管理者氏が邪神落ちしたら俺が始末する、という契約については言っても仕方ないし。
同類がやらかしたんだから、この世界の神様たちが責任もって管理者氏を始末しろよ、と思ったんだけどね。こちらの神様たちにとっては、俺に処罰する権利を与えることで、うちの神様たちの顔を立てたという事になるそうで。
人間である俺に裁く権利を与えることで、裁かれる立場に立った管理者氏のメンツは丸つぶれ。こちらの神様も、本来なら同格の管理者氏が屈辱的な扱いを受けたら『舐められないように対応する』のが常のところ、黙って見守ることを強制される。
そうなると、こっちの神様たちの反感買っていろいろありそうなもんだけど、そのへんは上司の上司あたりで話が付いてるんだそうで。
なお管理者氏が邪神堕ちした場合、管理者氏を封印して力だけ搾り取るもよし、滅ぼして力を奪うもよし、と言われています。
どっちにするかは決めてません。たぶん滅ぼしとく方が良いんだろうけど。
「魔王というより、神の眷属なのか……」
「そこらの定義は、あんまり考えすぎないほうが良いですよ?」
そもそも『魔王』の定義自体あいまいだからねえ。
「とりあえず、管理者氏はうちの上司どころか、俺と喧嘩して負けるくらいの存在なんで、管理者氏が駄々こねてもゴリ押しでお帰しできます。安心してください」
「主神と喧嘩……?」
「円匙でお話合いをちょっと」
「……それのどこが人間だよ」
「細かいことは気にしちゃダメですよ。あ、来たな」
斎藤さんがなにかぶつぶつ言いながら考え込んでいるところに、竜馬が走り込んできた。
「ぎゃ」
そしてまず頭を俺にすりすり。
「こら、ターク先生が下りてからにしなさい」
ターク先生を迎えに行ったのはちゃっかりドラゴンです。やって欲しいことを言えば動いてくれるし、走り回るのが大好きだから、ちょうど良いんだよね。
「ははは、あいかわらず甘えてるな。大丈夫だよ、慣れてるから」
ターク先生には往診で竜馬を使ってもらってるからね。俺にすりすりしてる奴の鞍から身軽に下りてました。
「それで、一人死んだという事だったが」
「ああ、この建物の中です。素手で接触した者などはいません」
「死んだ状況は判るかな」
「朝、見に行ったら死んでいたとの報告でして」
周りに食べ物の残りや包みが落ちていたそうだ。
死体はそのまま建物の中に置いてある。
「判った。たぶん、いきなり食べたせいだとは思うが、先入観を持つのはいけないからね。呼んでくれて正解だよ」
「お願いします。で、入り口はこっちで、出口は勝手のほうになってますので」
中は基本的に一方通行で、出口のところで除染します。
「いつも通りに見ておくよ」
ターク先生は雨衣に似た防御服の上下を着こんで、手袋とマスクと帽子を着用してから、死者の出た家に入っていった。
魔王「俺のことはさておき、ここまできて残念だった人がいる事を気にして欲しいんだけど」





