害獣対策は万全。
森の中の農場ですから。
俺の普段の日課は、農作業と書類仕事がメインである。
魔王城の操作はオプション。
侵入者の排除は、農園やってれば害獣駆除があるから、それの延長かな。
収穫が終わった畑でトラクター(ただし魔力で動く)を動かしながらそんな話をしていたら、
「勇者が害獣扱い……」
と、翔君が微妙な顔になっていた。
翔君は佐奈ちゃんの次に逃げてきた子で、今のところ日本に戻らないことを選んでいる保留組。
未成年だったから、親御さんに通信をして了解を得ての残留だけど。
どうも翔君、学校に良い思い出が無いみたいなんだよねえ。翔君の親御さんからは、落ち着くまでこちらに置いてやってほしいと言われてます。そろそろ受験生のはずなんだけど、良いのかね。
「害獣より悪い。イノシシやシカなら食えるけど、勇者は食えない」
「まさかの肉以下ですか」
「だってさあ、俺、自給自足のスローライフがしたかっただけなんだよ?」
最初は一人で開拓を始めて、その後、成り行きで少数の耳長族を受け入れて、共同生活を始めただけだったんだよなあ。
こんなに避難民が増えると思ってなかったんだよ。
頭数が増えたから開拓する範囲を広げて、大人数になったからトラブルが無いように決まりを作って、なんてしてるうちに、ここまで大きくなっちゃっただけ。
「自給自足の農園主にとって、畑を荒らす奴は害獣だし、肉にもならん害獣は価値が無いの当たり前でしょ」
電気柵や落とし穴を駆使して大型害獣からも農地を守っているんだが、厄介なのが人間。
あいつら、容赦なく設備をぶっ壊すからね。
「電気柵……あれを電気柵と言いますか……」
そこ、微妙な顔をしない。
「しょうがないでしょ、こっちには日本で売ってる電気柵みたいなの、ないんだし」
ただし魔法技術は存在する(世界の管理者氏に教えてもらった)ので、それで代用してます。
「雷撃魔法のトラップと、魔術砲台で固めた防衛線が、電気柵替わり……」
「効率的だと思うけどなあ。日本みたいな法律無いから、飛び道具で仕掛けしといても怒られないし」
「きっちり堀もできてますよね、外側……」
「落とし穴作っておかないと、入って来ちゃうのがいるし」
イノシシなら電気柵だけなんだけどね。そうもいかないワイルドな環境が整ってるので、守りは万全です。
害獣死すべし、そしてお肉になって我々の腹を満たすが良い。うはははは。
「なんか庶民的な魔王様ですよね……」
「魔王様なんて人はいませんよ?」
そんな話をしてたら、敷地を囲む土手に着地しようとするツヨアシトビウサギが見えた。
あいつらジャンプ力あるから、堀をギリギリで飛び越せることもあるんだよね。
畑をほじくり返すし野菜を食いつくすから、農家の敵なんですよ。ま、土手の外周に仕込んだ雷撃魔法でバチっとやられるけど。
「あ、落ちた」
バチっとやられて落ちた先は当然、土手の外。群で動くウサギどもだから、3匹ほど落っこちるのが見えた。
そして懲りずにジャンプした奴が見える。ふむん。
「夕食のローストにしよう。風弾、浮遊」
跳び上がった奴を撃ち落とし、堀に落ちた3匹といっしょにこちら側にもってくる。電気柵は直接接触しない限り何もしないし、飛び道具は俺の力を認識すれば攻撃してこないからね。
あいつら4匹となるとけっこう重いから、土手のこちら側にいったん落とす。エネルギー効率の良くない浮遊を使い続けたくないし。
「翔君、悪いけどトラクター頼める?俺はあれの血抜きしちゃうから」
「あ、はい」
翔君に運転席を譲って、ウサギの回収に向かう。ちょっと距離もあるし畑の中を歩きたくないから、短距離転移。
大型犬くらいのサイズがあるウサギに軽量化の術をかけて、また短距離転移。
水路のところに持って行って、ウサギの頸動脈を切って小川にドボンと付けたら、またトラクターに戻る。
「もう終わったんですか」
「うんにゃ、今は血抜きが終わるの待ってるだけ。流水で冷却しながらのほうが、肉が傷みにくくて良いからね」
鹿やイノシシとちがって、半日あれば血抜きが終わるのもあいつらの良いところです。
農作業が終わるころには、いい具合に血抜きも終了してました。
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家に戻ったら庭先で超大型ウサギを解体して、毛皮はいつもの職人のところに持って行ってもらい、肉は調理当番に渡して、内臓は犬にやる。
以前に生肉食べさせたせいで病気になった犬がいたので、うちの犬には茹でたものをやってます。
外の犬用大鍋で茹で上がるのを待つ間に、そわそわ待ってる犬はモッフモフで可愛い。でかいけど。
「犬じゃなくてオオカミだと思うんですけど」
「似たようなもん」
俺には逆らわないし、俺がダメだと言えば攻撃しない。利口なわんこの群だと思っておこうよ。
ボス争いを挑んでくる奴を、きっちり倒す必要はあるけどね。
「狼じゃなくて、魔狼です」
翔君に説明してるのは、犬の管理を手伝ってくれてる白牙族のデーンだ。
白牙族はその名前の通り、下あごの犬歯が大きく成長するヒト型の種族。身長は男性で2mくらいになり、一見すると太って見えるけどかなり筋肉質な身体の持ち主だから、犬と取っ組み合っても勝ち目がある。
彼らに限らず、こっちの諸種族はたいてい本当に大きいんだよなあ。
「なおさら危なくないですか」
「魔王様には絶対服従ですよ、この子たちは」
「だから魔王なんて名乗った覚えはないんですが」
「諦めてくださいよ」
あっさりスルーされました。うぐぐ。
火を通した内臓を出してやると、犬たちは冷めるのを待つ間にパタパタ尻尾を振っていた。
『まて』がちゃんとできるうちの犬はやっぱり頭がいい。最高。
「よし、食べて良いぞ」
程よく冷めたころに声をかけると、いっせいに餌に飛びついた。
狩ったウサギの内臓だけではもちろん足りないので、他のエサも一緒に出してるけど、やっぱり新鮮な内蔵が好みのようだ。ガフガフと声をあげてたいへんワイルドですが、そこもまた可愛い。
犬の相手をしたいところだけど、家の中でも仕事があるのであきらめた。
魔王「農場を荒らす奴は全部害獣、無問題」