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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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森の移動はドラゴン便で。

 ゆっくり水分補給させてる間に小島が起きて騒ごうとしたので、(さる)(ぐつわ)をかませて黙らせて。

 そうしてるうちに接近してきたのは、竜馬(ライディングドラゴン)4()()


「ぎゃ」


 先頭に立って他の三頭を率いてきたのは、里帰り中のちゃっかりドラゴンでした。

 予定より早く来たと思ったら、案の定これがリーダーやってましたか。


「お手伝いに来たか、よーしよし」

「ぎゃ」


 頭を()りつけて甘えた後、俺の胸の高さに頭を下げて、口をパカっと開ける。


「お駄賃ね、はいはい」


 砂糖の(かたまり)を一つ、開けた口にぽいっと放り込んでやる。

 こいつの図体を考えたら親指大の砂糖なんて大したことはないはずなんだけど、小さい頃から好きなんだよねえ、これ。


「もっと大きいのは、うちに帰ったらな」

「ぎゅ」


 良い子のお返事です。


「あの、それ、ドラゴン……」


 大翔(ひろと)君がもそもそと呟いたけど、人間の国ではあんまり見かけないよね。

 ドラゴンと言ってもファンタジーに出てくる羽がある生き物じゃないけど。どっちかというと恐竜に近いかな。


「馴れてますね……飼ってらっしゃるんですか」


 と、これは斎藤さん。


「ああ、はい。ライディング・ドラゴンって呼んでますね。悪路(あくろ)走破(そうは)能力は高いですから、森の中向きなんですよ」


 馬は意外に繊細(せんさい)だし、牛はそんなに早くない。その点、この種はずぶとくて割とどこでも突っ込んでいく上に速い。

 慣れないと乗りにくいという面はもちろんあるけど。


「乗った事は無いですよね?」

「ないです」


 三人とも、乗った経験なし。ま、これは想定の範囲内。


「じゃ、こっちの(かご)にのってもらいます。大翔(ひろと)君と結衣(ゆい)ちゃんはこっちね」


 体格としては似たような二人だから、大柄な竜の左右につけてある籠に乗って貰えばバランスが取れるだろう。

 この籠は騎乗技術が無い人を運搬するのによく使われてるもので、中は座席(シート)状になっている。籠だけあって隙間風が凄いのが欠点だけど、竜馬の負担を考えて軽量化する都合もあってこうなってます。ま、座る人に毛布をかぶってもらう事になるんだけどね。

 三人にはすでに渡した毛布の他に、籠の中に用意してあった毛布も使ってもらう。

 小島は何かもごもご言ってるので、


「心配しなくても連れて行ってやるから、黙って荷物になっててくれ」


 と言いながら浮遊(レビテーション)をかけて毛布で巻いて、一頭の背中に(くく)り付ける。

 斎藤さんは一人乗り用の籠へ。

 俺は火の始末をしたあと、いつも通り、ちゃっかり屋の背中の鞍にまたがる。


「行きましょうか」


 ゆっくり戻るとしますかね。


─────────


 体力の限界が近い三人でも耐えられる速度で移動したので、拠点に戻るまでだいたい一時間半かかりました。

 竜馬(ライディングドラゴン)たちにとっては、のんびりお散歩ペースです。それでも揺れる籠座席にいて消耗したのか、三人ともすぐには立ち上がれなかったけど。


「……村の廃墟?」


 森に飲み込まれそうになってる廃村、を偽装してるからね。屋根が落ちた家にツタが絡まって草に埋もれてたり、柱しか残ってない家の跡があったり、なかなかの演出だろうと自負しています。


「あ、中身は機能させてますよ。こっちです」


 そんな中で、まだ屋根が落ちていない家畜小屋風の建物に案内した。


 外から見ると家畜小屋っぽいけど、中は床も張ってあるし、明かりもつくようになってます。

 そして三人を案内したときには、オイルランプにはすでに火が入っていて、暖房も()いてありました。

 準備してくれた面々は姿を見せていない。人間以外の種族だから、いきなり会うのは避けてもらってるんだよね。


「……あったかい」


 ぽつっと言った大翔(ひろと)君は、まだ毛布をかぶったままですが。


「まずお風呂入って来て」


 そう。この建物、実は入浴設備があるだよね。


「えっ?」

「ずっと体洗ってないでしょ?」


 さすがに、不潔な状態で物理的に接触するのはまずいからね。


 実はここに至るまで、俺は小島を含む四人に直接触れていない。必要に応じて浮遊(レビテーション)なども使って対応しています。

 人間の国の街中で過ごしていた四人だから、どんな病原菌を持ってるか判らないからね。本人は病気になってなくても、ヤバい病原菌がくっついていないとは限りません。まずはここで清潔にしてもらって、服も着替えてもらいます。


「ああ、そういうことでしたか」


 説明したら、斎藤さんは納得したようにうなずいた。


「というわけで、申し訳ないんですが今日直接農園にお連れするのは無理です。何日か経って、全員健康であることを確認してから移動してもらいます」

検疫(カランティン)、ていいましたっけ。あれですよね」

「はい、あれです」

「なんですかそれ」


 質問したのは結衣ちゃん。


「病気を持ち込まないように、しばらく離れて過ごしてもらう仕組みだよ」


 斎藤さんが説明していた。


「昔のイタリアで、船が伝染病を持ち込まないように、船を沖合で40日待たせてたんだ。それをカランティンて呼んだのが始まりだったかな」

「待ってたら病気が無くなるんですか?」

「病気がなければ何も起きないからわかるし、病気の人がいたら治るか死ぬかで他人にうつらないようになるから、それを待つんだよ」

「ふーん、そっか」


 なんか薄いリアクション。

 ……うん、結衣ちゃんはかなり危ないかな。これまで色々ありすぎて、心を守るために反応が鈍くなってる可能性があるね。


「待機中に病気になったら、ちゃんとお医者さん呼ぶから大丈夫だよ」


 ここはちゃんと言っておいてあげたほうが良いね。

 そして、結衣ちゃんは俺の説明にも反応が今一つだったけど、


「医者がいるんですか」


 と、斎藤さんは普通に反応していた。


「農園に診療所あるんで。いい先生ですよ」

「……助かります」

「じゃ、お風呂も用意できてるから順番に入ってきてください。手順説明しますね」


 単なる入浴じゃなくて、除染も兼ねての事だから。

 入口の脱衣室と、入浴後の着替え場所が分けてあるくらいだし。説明しとかないと使いにくいだろうからね。

魔王(しまだ)「ゆっくりしていってね!」

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