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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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冬の定期業務、あるいは本業のこと。

 今回の拠点は『魔王城』城下ではなく、森の外周にある廃村に見せかけた観測基地。


 追放された被害者はまっすぐ森に入ったりしないから、『魔王城』やその近くの『村』は今回の作戦にはあんまり向かないんだよね。

 被害者はこっちの世界にそんなに馴染みが無いから、知ってる村や町を回りがち。そして訪れる先々で石を投げられて、追い払われる。触書には追放された異世界人に石を投げて追い払うべしとあるし、娯楽も少ないこちらでは、『罪人の石追い』もまた楽しいイベントの一つと考えられている。


 誰も遠慮なんかしないし、(かば)いもしない。

 そうしてろくな食料もなく寒い中を追われ、怪我や飢えで死ぬことを期待されるわけだ。


 ……勝手な都合で召喚(ゆうかい)して来て、勝手な都合で追い払って死なせる、それが人間の国のやり口。もちろん、管理者氏の影響は強く受けている。


『赤リーダーより青リーダーへ、感どうか、どうぞ』


 拠点で装備点検をしているところに、連絡が入ってきた。


「青リーダーより赤リーダー、感よし。どうぞ」

『赤リーダーより青リーダーへ、定時連絡。回収対象者の追放日時を確認した。対象者は明日昼に王都南城門より追放予定。どうぞ』


 通信機の前にいたガーヴがこちらを見た。


「チームの安全が第一で。続報あれば知らせてほしいな」

「了解。青リーダーより赤リーダーへ、安全確保を最優先に、情報収集及び報告を継続せよ。どうぞ」

『赤リーダーより青リーダーへ、安全確保最優先し情報収集及び報告を継続する。どうぞ』

「青リーダーより赤リーダーへ、安全を祈る。以上」

『赤リーダーより青リーダーへ、そっちも気を付けてくれ、以上』


 通信が切れると、それまで淡く光っていた結晶の光が消えて、ただの石のような見かけに戻った。

 盗難予防も兼ねて、使っていないときは石ころにしか見えないようになってるんだよね。起動するのも認証済みの魔力で個体識別してるから、使えるひとは限られてるし。


「南城門から追放、ということは、こっちに追い込んでくるつもりはあんまり無さそうだね」


 人間の国は未開発の土地が多いから、東西南北どっちに行っても原生林に近いうっそうとした森がある。人間が利用しているのは森野辺縁部だけで、ちょっと立ち入ればもう人の痕跡なんかないのが普通。人間の存在できる場所は、点と線でしかないのが現実だったりする。


 そしてその『点と線』の外に追い出してしまえば、サバイバルは困難になる。


 ここの人間でも無理なんだから、召喚(ゆうかい)された人にはさらに無理。道具も食料もなしに放り出されたら、十日もせずに肉食獣の腹に収まることになるわけで。


「わざわざこちらに追い込む手間をかける必要もないと判断しましたか」

「今年は森も不作だし、どこに追い込んでも死ぬと思ってるんじゃないかな」


 樫の実も不作で森のドングリで太らせる家畜の育ちが悪く、冬から春にかけて肉不足になりそうだ、という情報が入ってきている。

 畑の生産力があまり無い人間の国にとって、森の不作は死活問題。今年はドングリだけじゃなくて森から得られる食糧全般が少なかったから、春には餓死者が出ることも考えてるだろう。


 そんな森の中にはもちろん、不慣れな素人が採取できる食糧なんか残っていない。


 豊かな年なら、多少手間をかけて『魔王領』に追い込んで来たこともあるんだけど。今年ならどこの森に追いやっても餓死させられると踏んだんだろうね。


─────────


 回収作戦自体は、大したことはない。

 追い出された人を、夜になってから回収するだけ。捕獲してここに連れてきて終了です。

 昼間のうちに殺されたりしないように、注意しないといけないけど。


「出てきたね」


 門楼(もんろう)だけは立派な城門から、兵士に槍で小突かれ追い出されている人が十数名。

 全員、目の粗い布で作られた粗末な服を着せられている。ジュートのジャガイモ袋並の防風性能しかない服で、保温機能も皆無に近いそれは、雪がふりだしそうな曇り空の下で着るには向いてない。

 足元は裸足。石かなんかで切ったのだろう、すでに傷がついて流血してる人もいる。なんとか城門に入れてもらおうと兵士にすがろうとした男性が乱暴に突き飛ばされ、槍の石突で殴られていた。

 戻ろうとはしないが、城門を出たところで立ち尽くしている人もいる。

 現地人だろう何人かは、城門を出てすぐ移動し始めていたが、たぶん彼らは『仲間』がいるんだろう。


「私を誰だと思ってるんだ!こんなことして無事で済むと思ってるのかぁ?!」


 兵士相手にチンピラまがいの物言いをしてるのは、日本人のおっさんだった。


「私は王族にコネがあるんだぞ!」

『おめーは追放だ追放』


 翻訳魔法が切れてるおっさんの日本語に動じる様子もなく、兵士は嫌そうな顔をしながらおっさんをもう一度槍で殴っていた。

 キレたおっさんが奇声を上げて兵士に殴り掛かったけど、腰も入ってないパンチが戦闘職に通じるはずもない。あっさり手をひねりあげられて、痛い痛いと喚いているところで尻を思いっきり蹴飛ばされ、城門の外で地面に這いつくばっていた。


「あのおっさんの観察は継続してくれ。俺はあっちの集団を追うから」


 おっさんが喚いているのは()()()だけど、俺やうちのスタッフには翻訳魔法を使っているので関係ない。


「かしこまりました、お気をつけて」

「君らもね」


 隠蔽(いんぺい)魔法も併用してアンブッシュしてるから、気づかれる心配はかなり低いんだけど、慢心できるようなものじゃないからね。

島田(まおう)「お仕事はしてますよ?」

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