冬は採掘の季節。
「う~ん、こんなに差が出るんだ」
「思ったよりずっと良い結果ですよ」
佐奈ちゃんの報告を聞いて唸ったら、佐奈ちゃんが嬉しそうにうなずいた。
「こっちでも、バットグアノって効果ありますね」
今年導入してみた肥料の結果報告なんだけどね。
これがかなりいい感じの結果を出してました。途中の売れ行きも良かったから期待できるかと思ってたんだけど、特に果物では予想を裏切らない出来と売り上げになってます。
「来年はもう少し、範囲を広げて使用したいんですが」
「うん、いいよ。とりあえずどのくらいを考えてる?」
試算した書類は貰ってるけどね。
「サンクァの4号品種は全面切り替えでいきたいなあと」
「お、冒険するねえ」
「害は無さそうですから。11号品種は現状維持です」
「オッケー、佐奈ちゃんが判断したならそれで良いよ」
果実の一部と葉野菜は佐奈ちゃんに任せる方が収穫が増えるからね。
「現状で、原料の採掘は順調だね」
今回、佐奈ちゃんが試した肥料は山の洞窟からとれる動物のフンが主原料のもの。長年堆積した排泄物や遺骸が発酵して出来上がった肥料なんだけど、洞窟から掘り出してこなきゃいけない。洞窟内にはフンを生産してるコウモリっぽい動物もいるから、動物が大人しい冬場じゃないと採りにくい。
かつ、それなりの分量が必要だから、運搬も大変。輸送に使える川もない場所なので、雪が降って橇が使えるようになってからの輸送になります。
雪が降る前から採掘は始めておいて、あらかじめある程度集積して起き、雪が降ったらまとめて輸送するというスケジュールを立ててたんだけど、なかなか良い感じに収まりそうです。
「10人ほどお借りしたいんですけど、良いですか?」
「機材は、あ、このリストね。これならいいよ、メンテ担当は一人入れてね」
「了解でーす」
「あと念のため言っておくけど、怪我しないように」
橇に荷物を積んで、斜面を移動するわけだからね。
「はーい」
荷下ろしに索道が欲しいところだけど、これが作れるは当分先だろうなあ。
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そして雪の季節に忘れちゃいけない、農園独自イベントが一つ。
「ギュワッ」
「え、野生!?」
「おー、今年も来たね」
野太い声で鳴いてる竜馬が一頭。
頭のてっぺんまでだいたい2mくらいの、緑っぽい鱗の生えた生きものが、例年通り役場前にお土産持ってたたずんでました。
「今年はラーゴかぁ、甘いもの好きだねえ」
目と目の間、鼻の少し上をさすってやると、気持ちよさそうに目を細めてました。
「グゥ」
「え、触って大丈夫なんですか?」
北島君が慌ててるけど。
「野生に返したんだけど、冬になると戻って来るんだよ」
そう。
この竜馬、親とはぐれて森で死にかけてたのを俺が拾って育てたんだけど、独り立ちしたあとも冬になると戻って来るんだよねえ。
自分の好きな果物持ってくるのも毎年のことで、食べてと言わんばかりに押し付けるから有難くいただくことにしています。
里帰りしてくるだけだから、気を使う必要もないだろうに。
「え~……なんで?」
「そりゃ、厩舎あったかいから」
ずいぶんちゃっかりした性格に育ちました。
いったい誰に似たのやら。
「冬の間だけ飼われに来るんですか……」
「山の中は寒いからねえ。あ、狩りは自分でやってるんだよ」
自分の食べるものは自分で調達する、という原則は守らせてます。いちおうこれでも野生なんだし、むやみに野生動物に餌をやるのは良くないからね。
「じゃ、行っといで。用意はしてあるよ」
「グッ!」
喜ぶと尻尾が大きく横に振られるんだけど。
それで雪をかぶってたベンチが一つ、吹っ飛びました。
「……戻してから行こうな?」
「グゥ」
しぶしぶ、といった感じでベンチを尻尾でひっくり返しなおし、座面の下に尻尾を差し込んで持ち上げて、元に戻す。
微妙に位置がずれてるけど、細かいことは気にしなくていい事にしておこう。
「……言葉、判ってるんですか」
ベンチを戻してから、ご機嫌に尻尾ふりふり厩舎に向かうちゃっかりドラゴンを見送りつつ、北島君がコメントした。
「うん、かなり頭いいんだよ」
あれが一般的なレベルかどうかは良く知らないけどね。
「通常の竜馬であれば、あそこまで指示に従う事は無いですけどね。少なくとも、ベンチを戻すことはできません」
と、ゼーグがなんか遠い目で言っていた。
「なんでか利口になったよね」
「あれだけ魔術強化した餌を与えておられれば、当然のことかもしれませんが」
「魔術強化って、なんですか」
と、北島君。
「強化というか、死にかけてたから餌をちょっと工夫したんだよ」
そしたら頑丈で利口な成体になりました。
なんでかは良く知らんけど、ま、結果オーライでしょ。
魔王 「冬はドラゴンの里帰りシーズンです」





