自給自足の冬、けして暇にはなりません。
村の社会科見学、続き。
午前中に二か所回って、昼食をはさんでから、午後もまた工場エリアの視察のわけですが。
「ここは外から見学だけね」
アルコール工場は菌の管理があるので、醸造に直接かかわる場所は立ち入り禁止。視察は培養室の外の廊下からです。
「これって酒蔵ですか?」
「それに近いかな。飲む酒じゃなくて、工業用アルコール作ってるんだよ」
「材料、人が食べられるものに見えないですね」
樹脂窓越しに見える菌の植え付け工程を見ながら、宮田君が言った。
「日本で言う第二世代バイオエタノール作ってるからね。材料は草の茎なんだ」
食用にできるデンプンや果糖を工業用アルコールにするのは勿体なさすぎるからね。
固い繊維を分解してアルコールを作る菌を使ってます。
菌を植え付けて繊維を分解させて、キノコが生える前にアルコールを抽出しちゃう方法なんだけどね。菌糸が十分伸びてアルコールが増え、かつそれを消費しちゃう前という絶妙なタイミングを見極めて処理する必要があるんで、けっこう熟練がいる作業だそうで。
もとは山間に住んでた赤牛族の支族が細々と伝えてた地酒の作り方なんだけど、酒としてはあんまり上等なものではなく、俺が接触したときにはもう風前の灯火って感じになってました。作るのにコツがいるのに出来上がりがたいして美味くない酒だから、需要が減ってたんだよね。
工業用としては十分だろうと思ったんで、なんとか継続してもらったけど。
バイオエタノール製造の維持をお願いしてから、アルコールの用途が広がって需要が伸びるまで10年くらいあったから、その間は完全に赤字。まずい酒なんか作ってどうするんですか、と聞かれたことも何度もありました。
「そんなに使うんですか?」
「アルコールって用途広いからねー」
村で作ってる冷蔵庫もアルコール冷却です。
「ランプとかの燃料もですか?」
「アルコールランプはほとんどが過熱目的かな。明かりにはあんまり向いてないよ」
基本的に光量はあんまり無いんだよね。なので、特殊なマントルを付けて光量を増やす必要があります。まあそれも作ってるけど、照明用にはアルコールよりも藻から取る油を使うことが多いかな。
それとここらは石油も石炭も無い土地し天然ガスも取れないから、加熱器具として重宝してます。薪や木炭を使って料理するほど手間をかけたくない場合なんかには、アルコールこんろも活躍中です。
「魔法で全部どうにかする、てわけじゃないんですね」
「俺一人ならそれで良かったんだけどね」
魔力のあんまりない人もいるからね。
「もうちょっと電力事情が改善したら、色々楽なんだけどねえ」
まだまだ改良の余地があるんだよね。
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「一つ聞いていいですか?」
最後の一か所に向かう途中で、北島君が手を挙げた。
「なに?」
「ここ、けっこう鉄使いますよね。鉄も作ってるんですか」
「うん、作ってるよ」
製鉄所があるのは村じゃないけどね。鉄鉱石の運搬コストがあるから、鉱山寄りのところで作ってます。
ちなみにここでは製鉄も冬の産業。加熱送風したほうが木炭の使用量が減って効率よく鉄が作れるんで、空気が冷える冬にやるのはどうよって話もあるんだけど、魔法併用で加熱送風できるからね。働き手の確保がしやすい冬の仕事になってます。
送風時の安定した過熱が欲しいので設置型の魔法を使うから、あんまり安く作れるわけじゃないのが難点。とはいえ木炭は供給量に限度があるし、今の方法に落ち着いたわけですが。
「文明レベル全然違いますね」
人間の国は馬具すらろくに開発されてないからねえ。
いっぽうで、ここと山向こうの国はすでに蒸気機関が実用化されてます。
産業革命時代と中世初期を比べるようなものだから、そりゃ違うよね。
「ここで使えるようになるまで大変だったけどね」
もちろん、一部は山向こうの国から導入しました。
鉱山に置いてある揚水ポンプと蒸気機関なんかがそうだね、あれを俺一人で再現するのは無理だったと思うし。トラクターも自主開発じゃなくて、小さいメーカーさん見つけての共同開発品だし。
こっちの技術ももちろん売りつけてるけど、この世界の技術も結構使ってます。
「そういや、人間の国ってあんまり鉄が無いんだっけ」
戦略物資でもあるから輸出してないけど、屑鉄でも輸出したら儲かりそうではあるんだよね。
こっちに攻め込んでくる『勇者』には金属鎧を着せたりしてるんだけど、実はあれ、貴重な鉄を使ってるらしい。
「領地によっては、農具とかには全然、鉄を使ってないって聞いてます」
「リーシャさんのところは別っぽいですけど」
「あ、彼女のところはそこそこ豊かだからねえ」
バカ王子一味によるリーシャさん殺害未遂の一件があるから、リーシャさんの実家と王国の仲は悪いらしいけど。
「それ以外は、すっごい微妙なんですよね」
まあそうだろうねえ。
魔王 「鉄と蒸気の力って偉大だよねー」





