農場は基本、自給自足です。パンツも含めて。
社会科見学のお時間です。
とりあえず冬の体制に移行して、こちらの大晦日に当たる冬至までは試験稼働期間。半年以上休止してた工場なんかはいきなり本格稼働できるもんでもないし、いつものんびりやってます。
「え、すぐ動かしちゃダメなんですか?」
「休止させてた機材なんかはチェックしながら動かすんだよ」
動かしてみたら何かしら機械にトラブルが発生しました、なんて良くある話だからね。
そしてこの立ち上げの時期に俺が視察するのは例年の行事なんだけど、今年も社会科見学の若者が数名同行中。
まあ毎年誰かしらくっついてくるんだけどね、今年は帰国予定の北島君と宮田君がいっしょです。
希望は出してきたけど却下したのが、アダン神官。神官さんは情報管理上の理由で、立ち入り禁止区域を設けてあります。工場は全部立ち入り禁止です。
「新年までは試験運転ってことにして、ゆっくり稼働率を上げていく。新年の祝日が終わったら、フル稼働に移すんだよ」
「新年までやらない理由って、なんかあるんですか?」
「動力の配分の都合と、新年の休みでどうせ止めちゃうから」
まあこのへん決めたのは俺じゃないんだけど。俺は持ってこられた書類にサインしただけです。
「例外が製糖工場だね。収穫直後から動いてるよ」
材料の甜菜が運び込まれてから、既にフル稼働状態。
とはいえ、これも材料が尽きるまでしか動きません。農場で採れたものを処理するだけだから、一年中動かす必要もないしね。
食品を作るだけあって水の質も重要になるから、製糖工場は工場エリアの中でも川上にある。敷地内には小さな工場と、糖液をとりおわった甜菜滓の乾燥場があるだけのささやかなものだけど、これのおかげで甘いものに困りません。
もちろん、資金源としてもそれなりに有力ではあるんだけどね。
「干してあるこれ、どうするんですか?」
ずらっと干してある甜菜滓を見て、宮田君が首をかしげて聞いてきた。
「動物の餌にするんだよ」
草食の家畜の餌だね。
「捨てないんですね」
「うん、基本はリサイクルだよ。こうやって家畜に食べさせられる部分は飼料に回すし、剥いた皮や切り取った葉っぱなんかも肥料にしたりするんだ」
飼料が多ければ、秋に屠殺する家畜の数を減らせる。
昔の欧州では秋に豚を潰して貯蔵したそうだけど、あれ、冬の間に食べさせる飼料が足りなかったせいらしいんだよね。ここでも同じようなもんで、貯蔵しておける飼料が少なければ、養いきれない家畜も増える。そういう家畜は、良く肥えてる秋のうちに肉に変えなきゃいけない。
ただし肉にしちゃうと、貯蔵しててもいたむリスクがやっぱりある。いっぺんに処理するのも手間がかかるし、なにより来年以降に繁殖させられる数が減るから、越冬させられる数はあんまり減らしたくない。
「なんか農場っぽい話ですね」
北島君が変な感心の仕方をしてるけど。
「うちは農場だからね?」
自家用のあれこれを作る必要があったから工場建てたけど、基本は農場ですよ?
──────────
製糖工場で製造途中の蜜を味見して、それから製糸・織物工場エリアへ。
ここは糸の材料加工が始まってる。
「なんですか、これ」
「虫の繭だね」
残念ながら蚕はいないんだけど、似たような糸が使える蛾はいるので、その繭から糸を取る加工場が一か所。
あとは丈の高い草を水に浸して腐らせて、残った繊維だけを使う方法もあるんだけど、これはもっと気温の高い時に加工が済んでます。繊維だけ取って糸にする作業までは、加工しやすい夏の間に終わらせるんだね。この草から糸を取るのは白牙族の伝統でもあって、デニムっぽい布の材料です。加工方法しだいで木綿っぽくもなるし麻っぽくもなるのが凄いんだよね。
一方で、繭からとれる布の方はと言いますと。
「絹に似た感じの布が出来るんだよ」
これは赤鱗族が持ってきてくれた技術です。
赤鱗族も含む有隣族が不器用だと思ってる人間も多いんだけど、実は彼ら、かなり器用なんだよね。
もともと鱗の色が鮮やかな赤鱗族は、この絹っぽい布を派手に染めて、晴れ着に使う風習があるんだそうで。新年の祝いの席なんかには、赤い鱗に鮮やかな黄色や青の服を着た赤鱗族が華やかさを添えてます。ぶっちゃけド派手。同じ有隣族でもアースカラーやモノトーンを好む黒鱗族とはずいぶん違います。
「高級品っぽいですね」
「きれいな糸が取れたら、高級織物にもなるみたいだね。でも普段着用がほとんどだよ」
蛾が羽化しちゃって穴空いた繭も有効活用するんだけど、そういう繭から取れる糸ってあんまり質は良くないそうで。
ま、普通に下着やシャツにするんだから、別に良いんだけどね。
「普段着なんですか?シルクですよね」
「シルクに近いけど、あれよりずっと丈夫らしいよ。あと、お湯につけてもあんまり縮まない」
そのへんどうなってるのか、理屈は知らないけどね。あんまり気にせず洗えるのが良いところらしい。
「ちょっと手触りのいい下着あるでしょ、あれの材料」
「え、俺ら普通に着てますよね?」
「うん。着心地悪くないでしょ」
「ええ~、なんか高級品っぽいんですけど。良いんですか、パンツなんかに使って」
「でもそれ以外の素材のパンツ無いからね?」
あきらめて穿いておこうね?
魔王「特産品のパンツ、履き心地は悪くないはず」





