水面下はきな臭い……かもしれない。
短いので2話同時更新しています。 (2/2)
アダン神官がしょんぼり退出したのを見送ったあと。
リーシャさんがふんと鼻を鳴らして
「予想通りでしたわね」
と言ったのに、
「姫、はしたないですぞ」
と、ワールさんがツッコミ入れてました。
「いいじゃないの、このくらい。呆れて当然でしょう?」
「神殿の強欲に呆れるのと、姫がお行儀悪くするのは別の事ですぞ」
さすがワールさん、遠慮がない。
ワールさんはリーシャさんのお父さんの腹心だけあって、リーシャさんがよちよち歩きの頃から知ってるそうです。言ってみればじいやさんポジションらしい。
そしてリーシャさんもすっかり慣れてるからか、
「予想はしておりましたけど、やはりひどいものですわね」
と、じいやさんのお小言を全力スルーしてました。
「何もしてこなかったくせに、いけ図々しいとはあの事ですな」
正直すぎるくらい正直な感想を言ったのはトゥワン。
俺も同意はするけど、アダン神官がお偉いさんからの私信と称して持ってきたあれ、予測の範囲内ではあったよね。
「これまで何もしてこなかった事は棚に上げて、利を貪ろうとは」
トゥワンはそういうけどね。
「管理者氏を止めもしない神様と、その神殿のやる事だからね。何かまともなことを言ってくると思うほうが、間違ってると思わない?」
「……ああ、期待してらっしゃらないのですね」
リーシャさんがため息をついた。
「うん、全然期待してない」
言うてすまんが、そういう事です。
「神官さん個人はまともだろうけどね」
少なくとも、子供に読み書きを教える人としては及第点。好奇心旺盛でここに馴染む努力は出来そうだし。
だけど、それ以上の評価はできません。
「うちとしては、アダン神官が契約を守って子供たちにちゃんと授業してくれればそれでいいよ。それ以上は無理じゃないかな」
神官さんだって組織の中の人。神殿組織がやろうとしないことを、神官さん個人が出来るはずもなく。
「割り切ってますね」
「まあね。神殿がまともな集団だったら、そもそも24回50組も『勇者』を寄越すのを見過ごしたりしないだろうし」
それだけの回数の召喚を放置してたんだから、はなからやる気はないよね。
「これまで召喚を止めようと思わなかったのか、止められなかったのか、どっちかだろうからねえ」
「後者でございますわね」
リーシャさんがあっさりと言い切った。
「万神殿も王家の庇護下にございますので」
「ああ、スポンサー様のご意向には逆らえないわけね」
たいして潤ってるようには見えないけど、あの地区にしては良い庇護者なんだろうね。
「こちらから派遣させていただいた方が、良かったのでは?」
慎重に口を開いたのは、耳長族のアーガスさん。
アーガスさんはうちの農場に勤務してる人じゃなくて、山向こうの国から情報収集に来てる人。今は目立たないようにここの服を着てもらってるから、アダン神官は全然気が付いてなかったみたいだけどね。
「教育レベルとしては、おいおい考えたいところなんですけどね」
魔法・蒸気ハイブリッド機関を作れるだけあって、あっちは独自に数学や工学を発展させてます。
もちろん、知識を輸入するのは大歓迎なんだけど。ただ、言語の問題があるからねえ。
「近い将来、中等科を作る時にでも相談させてください」
子供たちにはまず、こちらで話されている言葉の読み書きを教えないとね。
「やはり、ご予定が?」
「ある程度、地元で教えられる方が良いですから」
そりゃ、子供らがここを出ていきたいならそれで良いんだけどね。
ただ、学校が無いから選択の余地なく親元を離れざるを得ないなら、それはちょっとどうかと思う。
それにアーガスさんたちも、これまでは教員の派遣を嫌がってたからねえ。
それが神殿が依頼を受けたと聞いて、こうして掌を返してきたわけだから、はいそうですかありがとう、とは言いにくい。どうせ裏があるわけだし。
俺の知ってる地球の歴史でも、北アメリカで先住民の文化を滅ぼすために、子供たちを寄宿学校に集めて、英語だけをしゃべるように強制して言語と文化を途絶させた事例があるし。
同じような方法をとってこないと思うのは、甘すぎる。用心は必要です。
「なるほど、優秀なお子さんには機会を提供してもよろしいのではないかと思いますが」
「それもいずれそのうち、ですね。まずは基礎をしっかり教えてあげないと」
留学したい子がいたら出してやれれば良いと思うけど、基礎教育まで握られるつもりはない。
子供の教育にも縄張り争いが絡んでくるから、色々めんどくさいんだよね。
魔王「うちの農園で縄張り争い続けるようなら、何か考えないといけないかもね」





