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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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新たなる来訪者(ただし平和なほう)

 まずめったに無い事なんだけど、この農場にもたまには立派な来客というものがあるわけでして。


「わざわざご同行下さったんですか」


 リーシャさんのお父さんの腹心、という立場のワールさんも、ちゃんと迎えなきゃいけないお客だったりする。

 まあなにしろ将来の独立国の中枢を担う一人だから、下手に扱うわけにいかないし。

 ただし今回は、リーシャさん経由でお願いしてた教育係の神官を連れて来てくださっただけだけど。


「お忙しいところすみません」

「魔王様、威厳というものをお考え下さい」


 こそっと小声でリーシャさんが何か言ってるし。

 対面にいるワールさんは慣れてるのでなんか笑ってる。ワールさんの隣にいる神官さんが面食らってるけど。


「いまさら取り(つくろ)ったって、そんなもん出てこないって。何回会ってると思ってんの」


 一応、服だけは背広っぽいものにしてるけど。

 お客さんに会う時に着る、作業に使ってない作業着もあるんだけどね。こちらの事を知ってるワールさんだけならそれでも大丈夫なんだけど、今回は神官さんがいるので、もうちょっと堅苦しい格好しています。


「いえ、こちらこそ拝謁(はいえつ)の栄を(たまわ)り光栄に存じます。このたびは、ご相談いただきました件でアダン神官を紹介させていただきたく(うかが)いました」

「どうぞ、かけてください」


 神官さんともども、応接用の椅子をすすめておく。

 ここは武家屋敷の座敷を参考にしてる客間だけど、床に座るのが苦手な種族もいるので、応接セットが用意してあります。まあ相手によっては取っ払っちゃうんだけどね、ワールさん相手にそんな演出はいらないので座ってもらうことにしてます。


「アダン神官はおなじみの神殿とはずいぶん違うから、驚いたでしょう」

「あ、はい。見たことのない様式です」


 実はさっきからこの神官さん、ものすご~く嬉しそうにそわそわしてるんだよね。


 村に入った時から好奇心いっぱいで興奮気味だった、とは(すで)に報告を受けてます。怖がってないならなによりです。


「あの、これは陛下の母国の様式ですか」

「陛下はやめて、俺ただの農場主だから」

「え、あの、魔王陛下ですよね?」

「まだ独立宣言してませんから国じゃないし、俺は王様じゃないです」


 『国』を名乗ると色々メンドクサイのよ、この世界。辺境の森の中の自治区という扱いのほうが、色々縛りが無いんだよね。

 山向こうの諸国とはそれで折り合いがついてます。落としどころが見つかるまで大変だったけど。


「魔王様?」


 なんかリーシャさんのほうから冷気が発せられた気がする。横は見ないようにしよう。ワールさんはそんなリーシャさんを優しく見守るモードに突入してるし。


「えーと話を戻して。うん、これ故郷の建築様式の一つだね」

「ずいぶん明るいですが、紙貼りの扉で冬は寒くならないのですか」


 この客間がある建物は、玄関を入ると取次(とりつぎ)・中の間・座敷(板の間だけど)の3つの部屋がつながっている構造になっている。部屋の間を仕切っているのは板の引き戸で(襖は作り方が判らないからこうなりました)、開け放せば3部屋が続きで使える、典型的な日本の古い家のわけね。

 で、各部屋の南側は全部、障子にしてあります。

 その外側に表廊下があるから、雨でも問題にならないです。


「ああ、それね。これの外側に、もう一枚あるんだよ」


 リーシャさんが俺の説明に合わせて障子をあけてくれた。

 広縁みたいな表廊下には、表庭に面した樹脂製の戸を入れてある。ガラスみたいにほぼ透明だけど断熱性もけっこうあるし、割と安価に作れる上に割れにくいので重宝してます。


「えっ、ガラス……!さすが、魔王陛下ですね」

「だから陛下ちゃう」

「こんなに広い面にガラスをお使いになれるとは」


 あ、俺のツッコミを聞いてなかった。まあいいか、敬称はおいおい直してもらうとしよう。


「俺の故郷だと割と普通だけどね」


 江戸時代の建物にはもちろん無い構造だけど、母の実家は明治時代に改良してガラス戸が入ってたからね。そっちを参考にしました。


「庭も見えるし、今日はそう寒くも無いから、開けておきますかね」

「是非!」


 なんか食い気味に言ってる神官さん、これ絶対ここで生きていける人だよ。


─────────


 ワールさんと神官さんの正式な挨拶が終わったら、ちょっと周囲をご案内という流れになる。

 さすがに見学に行くのに背広は堅苦しいので、接客用の作業着に着替えました。メーカーの社長が着てる作業ジャンパーみたいな感じかな。うちは農場なのでこれも正式な服の一つです。


「え、そのお召し物は」


 神官さんびっくりしてますが。


「うちは農場。俺、農場主なんで」


 仕事に使うものとは分けてるから、パリッとしてるけどね。


「はあ……」

「神官さんだって、農作業用の服、あるんでしょう?」

「労働着はもちろん、ございますが」

「それといっしょですよ」


 ワールさんは慣れたもので、きちっとした服だけど動くのに差しさわりが無いものを選んでいる。


 リーシャさんはワンピースで、いつもよりちょっと裾の長いのを選んでるけど、これはたぶん神官さんをびっくりさせないための対応だね。この農場内だと女性がズボンを()いてるのも膝が見える丈のスカートを()いてるのも普通なんだけど、人間の国ではいまだに、成人女性は足の甲まで隠す長いスカートを()くものとされてるそうです。

 だから今日リーシャさんが着てる脹脛(ふくらはぎ)が見えるワンピースも、人間の国に行けば『足が丸出し』と非難されること請け合いなんだとか。


 足首が見えるスカートでそれなんだから、ズボンなんか()いたら『神の決めたもうた役割を捨てて男装した』と処罰だそうで。

 なかなか窮屈(きゅうくつ)で大変そうです。


「人間の国とは風習も違います、慣れてください」

「はい、それはもちろん。それにしても衣服ひとつ取ってもこれほどまでに違うとは、知る機会を下さった我が女神に感謝しなくては」


 あーうん、この人なら大丈夫だわ。何かカルチャーギャップがあったら、拒絶するんじゃなくて大喜びで食いつくタイプです。

 何を見ても喜ぶんだから、なんというか案内しがいがある人ではあるよね。

 好奇心旺盛だから、機密漏れが心配にはなるけど。

魔王(しまだ)「森の魔王城?それはただのダミーです」


「客間」の構造はこんな感じです

挿絵(By みてみん)

一応、護衛が突入して制圧するための構造は有ったりします。

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