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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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魔王領の特産品、えびしんじょの事。

豊かな湖にいる生き物とは。

「あ、あの神官見習いは帰したんですね」

「色々ギリギリっぽかったからねー」


 中村君を帰還させた翌日、北島君と宮田君が社会科見学から戻ってきました。

 冬支度の手伝いを含め色々見せてもらったらしく、けっこう楽しかったらしい。湖で採れた『魚』にはかなりびっくりしたようだけど。


「普通の魚だと思ってたんですけど」

「干しちゃうと見分け付かないからね。採ってる所を見ないと判らないでしょ」


 実はあれ、(ひれ)の代わりにすごく短い手足が付いてるんだよね。干すとかなり体積が減るから分りにくいけど。


「魚類じゃないんですね」

「あっちの分類だと何になるんだろうね、あの魚」


 少なくとも俺の知ってる魚類じゃないのは確かだけどね。


「変なエビもいたし、さすが異世界って感じですよね」

「ああ、アノマロカリスモドキね」


 上の湖には、アノマロカリスみたいな触腕(しょくわん)を持ってる甲殻類(こうかくるい)っぽい生き物もいるんだよね。

 大きいもので1mくらいになるんだけど、食用になってるのはだいたい30~50センチくらい。ただし、そんなに人気はない。


「食べた?」

「焼いて食べました」

「味、どうだった」

「うーん、なんかあっさりしすぎてて」


 なんというかこう、出汁が少ない感じの生き物なんだよねえ、あれ。


「たくさん獲れるのに漁師さんが全然喜んでないから、どうしてかなと思ったんですよねー」


 そんなに美味しくないから、ありがたみ無いんだよね。


「ただ量は取れるからねえ。すり身にして、他のものと混ぜて団子にして、汁物に使うんだよ」

「かまぼこっぽいのが入った鍋も食べたんですけど、それですか?」

「うん、たぶんそれ」

「え、どれのこと」


 お、北島君は分からなかったか。


「じゃがいもとニンニクが入ってる鍋、あったじゃん。あれ」

「かまぼこ入ってたっけ?」

「あれだけ食ってたのに忘れてんの?」


 あ、食べるのは食べたのね。


「味にインパクトないから、印象に残らないかもねー」


 記憶に残らないくらい、大した味がしない。

 ま、味はどうあれ、食料は食料だからね。お腹を膨らませるための材料としてはわりと使える。


「あれでも料理としては改良されてるんだよ」

「え、あのカマボコがですか」

「うん。昔は食べようがないと思われてたから」


 俺が入植した頃は、上の湖のあたりには住民もほとんどいなかったけど。

 で、その数少ないご近所さんも、あのアノマロカリスモドキは他に食べ物がないときに渋々食べるまずいエビ、くらいの認識だったからあんまり食べてませんでした。

 俺は好奇心で食ってみたんだけどね。


「身が多いけど、どうもぼやけた味だからねえ。大量にとれて邪魔になったから、肥料にするほうが多かったかな」


 畑には良かったけどね。

 芋を育てるにはちょうどいい肥料になります。木灰でカリを足してやる必要はあるけど。


「肥料……」

「日本史で習わなかった?昔の日本でも、干したイワシを肥料に使ったりしてたでしょ。あれのアノマロカリス版」

「異世界と日本がミックスしてるし」

「使える知識はなんでも使う、これ鉄則」


 俺としては、芋が育てばなんでもいいんです。


「それでも、最初に持ち込んだ種芋の半分はだめになったけどね」

「え、持ち込んでたんですか」

「一応、準備期間があってからの派遣だったからねえ」


 いきなり拉致しようとした管理者氏を俺がボコり、そこをうちの神様がさらにボコって条件を決めた後、準備期間を設けてこっちに来たからね。物資もそれなりに用意してはいたんだよなあ。


「……あの、島田さん、ここに来る時に過去にさかのぼったって聞いたんですけど」

「あ、その話。聞いたんだ」


 そりゃまあ話題にはなるか。

 上の村、俺が最初に入植した場所の周りに発展したからね。最初は(やぶ)と林だったんだけど、今はそれなりに畑や牧場になってます。


「はい。で……ほんとなんですか?」

(さかのぼ)ったというか、ちゃんと同期をとらなかったみたいだね。やり方次第だけど、ずれた時間に送り込むこともできないわけじゃないんだよ」


 管理者氏は『ちょっと手が滑った』とか抜かしやがりましたが。

 ま、その後に剣先スコップ片手にちょっとO・HA・NA・SHIしてやったら、わざとやったとゲロったけど。

 なに、俺の剣スコだって『ちょっと手が滑った』だけのことだし、気にしなくていいと思うんだよ、うん。


(さら)われた人の面倒見てとか言ってたくせに、人里離れた場所に落っことされたからねー。おまえの尻拭いしに来たの判ってないなら放置プレイすんぞとボコって、50年くらい放置したかなあ」


 物理的に、人間の国に手の出しようがない場所にいたからね。

 こっちは管理者氏のことにかまわず、農地開拓に励みましたとも。

 ボコったついでに管理者氏から魔法の知識をコピーしておいたので、色々便利でした。


「……知識のコピー?神様の?」

「神様っつーかそろそろ邪神に堕ちるところなんだけどね、あれ。しかもかなり狭い範囲で信仰されてる格の低い神だし、そんなに恐れ入る必要もないよ」


 ここ複数の神様がいる世界なんで。

 なんでかあの管理者氏が別世界とのアクセスを管理する権限を持ってるけど。


「でも、神様ならいろいろ知ってそう」

「ところがそうでもなくてね。農業も含めて、産業系は全然ダメ」


 無知もいいところですよ、管理者氏。


「え、それで神様なんですか」

「魔術だけは多少知ってたねー」


 特に知識があるわけじゃないんだよなあ、管理者氏って。

 まあ役に立つような神様じゃなくても構わないけどね、日本人としては。頼むから何もしないでくれ、と(なだ)めておくだけの神様なんて、日本にもいっぱいいるし。


「だから、人間の国があんなに遅れてるんじゃないかな?崇めてる神様が、そもそも技術に興味ないし」

「あ~……」


 こっちだと、神様=指導者みたいな面があるんだよね。

 で、管理者氏は技術音痴で向上心も無い。

 そりゃあ、ひいきにしてる連中もお察しというわけです。


「あの、島田さん。そんなに長くこっちにいるのに、見た目は若いですよね?」


 お、気が付きましたか。


「そりゃ、管理者氏と殴り合える存在になっちゃったからね」


 いろいろ情けない管理者氏だけど、あれでも一応、神様と呼ばれる存在だからねえ。

 それと剣スコで語り合えるようになってた時点から、どうも年は取らないっぽいんだよね。

 怪我で死なないのか、飲まず食わずで生きていられるかどうかは、試す気もない。


 でも、ただの農場主ですよ?


「……不老不死の人は「ただの」農場主じゃないと思うんですけど」

「死なないとは限らないよ?」


 だって試したことないからね。

魔王(しまだ)「新鮮なアノマロカリスが特産です。えび真薯(しんじょ)が美味いよー」

住民「「「「そこはクリーム煮じゃないの!?」」」」

魔王「クリーム煮にしたら淡白すぎて美味しくないからね?」

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