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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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本業に腕を振るってみるなど。

たぶん本人も忘れかけてますが、島田(まおう)が異世界にいるのは召喚(ゆうかい)された人の面倒見るためです。

 未成年を保護したらまずやるべきこと、といえばもちろん、保護者への連絡です。


 実は中村君のご両親へは一報済み。ただし最初の連絡は魔術的にとったもんだから、どこまで信用されてるかはわからない。

 というわけで、次の連絡はもちろん、現代的手段になります。これなら中村君にも使えるしね。


「……これ、電話ですよね!?博物館で見たことあります!」


 中村君がなんか感動してるけど、俺も黒電話なんて日本で使ったことなかったから、よくわかります。


「ここから電話できるんですか」

「うん、ちょっと不便だけどね」


 管理者氏にちょいと()()()()をして、保護時に連絡が取れるよう回線も用意させました。

 もっとも管理者氏は技術オンチ過ぎて何が必要かを理解できてなかったから、こちらで適当にゴリゴリやって、コスト全部払わせる形で落ち着いたんだけどね。ちなみに魔法でつないでるので、通話に必要なのは魔力です。


「ご両親の連絡先、わかる?」


 もし携帯の番号が判らなかったら、最初と同じかなりレトロな方法でやらなきゃいけない。いわゆる『夢枕に立つ』って方法なんだけど、あれなんだか胡散(うさん)臭くて好きじゃないんだよねえ。


「家に電話あるんで、その番号なら覚えてます」

「あ、固定電話あるんだ」


 最近はスマホがないと親の連絡先もわからない子がいるから、これは非常に助かります。


「はい、おばあちゃんが一緒に住んでた時に使ってたのが、そのまま残ってて」

「ああ、なるほどねえ」


 高齢者だと家の電話が欲しかったんだろうなあ。

 とりあえず中村君が覚えてた電話番号にかけてみると、2コールで相手が出た。


『はい、中村です』


 少し震えてる女性の声。中村君のお母さんだろう。


「もしもし、先日ご連絡差し上げました島田と申します。ご子息と変わりますね」


 あんまり気を持たせても仕方ないから、さくっと代わる。


「ほら、お母さんとつながったから」

「え、あ、はい!……えっと、お母さん?」


 あとはまあ、好きに話してもらいましょうかね。


──────────


 中村君が家族と話している間、事前説明通り自動翻訳魔法は切っておいて、見守り役は白牙族の若手にお願いしておく。

 プライバシーがあるからね、話は判らないほうがいいでしょ。

 必要があれば呼ぶように言っておいたから、用があれば声がかかるだろうし。というわけで隣の部屋で書類仕事をしていたら、やっぱり声がかかりました。

 中村君の顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってるけど、見ないふり。


「あの、うちの親が、島田さんと、話したいって」

「ああうん、いいよ」


 受話器を逆さまにして差し出しちゃうあたりが現代っ子だよね。


「お電話代わりました、島田です」

『ええと、息子がお世話になりました、中村です』


 今度は男性が出た。お父さんだろうね。

 電話の向こうでは、お母さんが泣いてる声が聞こえているけど、聞こえなかったことにしておきます。


「いえ、こちらに逃げてきたので保護しただけです。もう少し早く保護できればよかったのですが、力不足で申し訳ない」

『同じ電車に乗っていたらしい子が、駅で保護されたので、心配してたんですが、息子は無事だそうで……』


 ああ、勇者(笑)君たちと鈴木君ね。彼らは容赦なく帰したから、出現地点は誘拐されたのと同じ場所になります。

 騒ぎになるのはまず間違いないので、時間だけは終電後にしておいたけどさ。


「とりあえず、命に係わるケガはしていません。ただ、やっぱりかなり疲れてるようでして」

『……なにがあったのか、お伺いしてよろしいですか』

「ええ。狂信者に誘拐されて、脅されて、近くの領地に攻め込むために行動させられてましてね。侵略先がうちの農場だったんで、近くに到着した時点で保護させていただきました」

『農場?えっと、息子の話だと、国だということなんですが』

「あ~、狂信者どもには国だとか言われてるみたいです。めんどくさいんで私は農場だと言い張ってるんですけどねー」

『あの、魔王様とか言ってたようなんですが……』

「そんな呼び方もありますけど、名乗ったことはないですよ。実質的にただの農場主ですし」


 本業は農家です。これは譲れません。


「最初の連絡方法が胡散臭くてすみません。実は、中村君の魔力パターンからお二人を探したもんですから、あの方法が手っ取り早くてですね。びっくりされたと思うんですが、お知らせしたとおり待機していただけて助かりました」

『え、あ、ああ、びっくりしたというか、変な夢を見たなと思ったんですが、妻も同じ夢を見たというので、やっぱり気になって。それで、お知らせいただいたとおりに』

「気にしていただけて良かったです。電話がつながらなかったら、手紙を差し上げようと思ってたんですが、手紙だとお返事いただくのが面倒ですし」


 というか物質転送めんどくさいんだよねえ。手紙を転送しても、次は返事をどうやって受け取るかという問題があるし。


『は、はあ……あの、電話ってことは、どちらから?』

「あ、日本じゃないですよ。非通知になってるでしょう?」

『ええ、はい』

「いわゆる異世界ってところです。かなり無理矢理つないでます」

『え?』

「先に保護された子たちの情報、なにか入ってきてませんか」

『ええと、警察の方から、ちょっとだけ伺ってますが……』

「変な話ばかりだったと思いますし、説明しにくいんですよね。とりあえず、ご子息の無事をお伝えするのが最優先だと思いましたので、こちらの状況についてはまあそんなもんだと思っていただければ」

『はぁ……』


 中村君のお父さんのことは、煙に巻いたような状態だけど、まあ仕方ない。


 自分の子供が行方不明になった良い年した大人が、一発で異世界とか信じるようなら、そっちのほうが問題です。お父さんは極めて常識的に、でもなんとか状況に対応しようと努力してるのは良くわかるし、これ以上の対応は求められない。


「で、ここからが重要なんですが。どのタイミングで、お送りしますか」

『え?』

「中村君も、そちらに送ります。その場所なら、直接帰せますよ」


 場所はすでに探知済み。誘拐された駅から5分も歩かない場所に自宅があるので、最大魔力量をぶちこめば家の中にも戻せる範囲だ。

 これ、ご両親の『夢枕』に立った時に調べたんだけどね。

 かなりコストがかかる方法だけど、やってやれないわけじゃない。


『帰していただけるんですね』

「もちろんです。ただ、かなりエネルギーが必要なので、何日か準備にいただきたいのですが」

『それは構いません、帰ってきてくれるなら』


 スピーカーモードで聞いてたのかな、お母さんの泣き声が号泣に変わった。


「どうせなら、ご家族の都合のいい日に合わせましょうか。ああ、あと、中村君には何日かこちらにいてもらう事になるので、アレルギーとかあったら教えてくれません?」


 どうせなら、親御さんから情報貰っておきたいし。

 お父さんもしまいに涙声になってたけど、なんとか打ち合わせは済みました。


──────────


 そして転移当日。


「じゃあ、その手紙はご両親に渡してね。こっちは警察の人に」


 中村君に持たせる荷物と書類の最終チェック。

 そう、忘れちゃいけない警察への連絡ってもんがあります。丁寧に送り返す場合は、ここまで面倒見るんだよね。

 今回は書類も全部日本語で作ればいいから、楽でした。アラビア語とかタイ語とかスワヒリ語とかを使う国の人の場合、仕方ないから英語で書いてるんだけど、文法とかぜんぜん自信ないんだよねえ。


「いろいろ、ありがとうございました」


 帰還陣の上に立って、ぺこりと頭を下げる中村君。

 ようやく夜も眠れるようになって、ごはんもきちんと分量を食べられるようになったから、あとは自宅療養でいいだろう、とはターク先生の言。ターク先生の書いた診断書は俺が日本語に翻訳して、()()()()()()ご両親あての書類に含めておいた。


 あとは中村君が気に入った果物のお土産。寄生虫なんかがいたら困るので、さくっと殺虫魔法をつかって無害化してあります。


「うちに帰ったらゆっくりするんだよ。じゃ、始めるから」


 目を閉じて直立不動になった中村君がなんか微笑(ほほえ)ましかったけど、とりあえずコメントはしない。

 特に清めてある敷地の一角に、金属鏡が一枚。注連(しめ)縄で結界した空間は一見何も無いけど、ここ数日かけて蓄積した力が出番を待っている。


「我、千別(ちわき)山守(やまもり)末裔(すえ)、島田優紀が伏して願い奉る」


 神様、聞いてください。

 そっちの世界から攫われた子を、戻してやります。


「時空の狭間(はざま)の深淵より、我らが兄弟(はらから)の子を守り給え、暗き淵を渡らせ給え、子を待つ父母(ちちはは)の下に還したまえ」


 どうか、無事に戻れますように。


「我が名にて命じる、この者を送れ!」


 最後の一言は、待機していた力に命じるもの。

 経路はすでに示してある。安全に、確実に届けるよう、力に方向づけて。


 帰還陣が白く輝き、そして中村君の姿が消えた。

魔王(しまだ)「丁寧に帰すのは、手間かかるんだよねー」

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