農園の仕事は多岐にわたります。
第1話も同時投稿しております。
侵入者を森で迷わせるなら、『森の民』耳長族こそがその任務に最もふさわしい集団だ。
というわけで、俺は後方配備に付いた黒鱗族の指揮官と軽く打ち合わせをして、昼間の仕事に戻った。
書類と書類と書類と書類が本日の業務予定である。
「……おかしい、俺は何でこんなに書類ばっかり見てるんだろう」
俺の職業、農家なんですが。
「あなたが王だからでしょう」
「王様じゃなくて農場主だぞ?」
馬を走らせて横断するのに4時間くらいかかる面積の広さを誇ってるけど、ここは俺が森の中に切り拓いた農場であって、国ではない。と思うのだが。
「これだけ様々な民が集ってしまったのですから、諦めることですよ」
秘書を務めてくれるオゥウェンにはさらっと流された。
オゥウェンも耳長族だが、こちらはトゥワンより色白で、森の暮らしにはトゥワン達ほど慣れていない部族。もともと自分たちの集落を作って生きていたが、神殿がけしかけた人間たちに街を焼かれて、森に逃げ込んできた。
怪我人を抱えて迷い込んできたので保護したのが、今から20年くらい前。
それ以来、ここの住人となっている。
耳長族に限らず、ここの住人はたいてい、人間に襲われて逃げ込んできた種族で人間嫌いだが……保護した俺が人間なのは気にならないらしい。
「農場主として経営はするけどさ、王様はやらないぞ?」
「はいはい、そういう事にしておきましょうか。ああ、こちらは矢ノ沢護岸工事の申請ですね」
「治水部に回して」
「了解しました。その治水部から、ダム建設検討報告書が来ております」
「後で読む、置いといて」
なんで俺に聞きますかね、皆さん。
まあ開拓したのが俺だから仕方ないんだけど……矢ノ沢と名付けた沢なんて、農場の端っこのほうだぞ。もはや俺が領有権を主張していいのかどうかわからんくらい、端っこだ。
4時間くらい書類の片付けに費やした後、昼食をとって、午後からは農場の見回りをすることにした。
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表向きの、というか住人としての俺の職業は農場主だが、実のところ俺の本業は別にある。
本業というか、俺がここに送られた理由なんだけど。
「今回のユーシャは第一波のようです。ユーシャ4に歩兵2、従卒4が同行し、現在ハヤセ川沿いに北上中」
トゥワンの報告はいつもの通り簡潔だった。
「第二波は南森外縁部で侵入準備中。ユーシャ4に対し、支援部隊と思われる騎兵2、歩兵13、従卒4が同行しています」
「第一波はお付きが少ないなあ」
これまでの経験からすると、勇者どもには必ず、監視要員が付いているんだけどな。
勇者一人につき歩兵2名ほどがいつもの割り当てだ。そして勇者チーム一つに対して監視要員の指揮官が一人。ある程度の身分がある将校には荷運びや身の回りの世話をする者が付いているので、従卒の数で将校の身元も見当がついたりする。
その点、今回の第一波は監視要員の数が少ない。
「いつも通り、『魔王城』に誘導中です」
「うん、それでいい」
初期の頃は農場に入り込まれたりもしたけど、今は専用のフィールドを作ってそこで歓迎することにしている。
ぶっちゃけ、農場を荒らされると困るからだ。こちらには非戦闘員も多いし、なにより生産拠点なのだから、狂信者に唆された蛮族に踏み込まれると迷惑なんである。
ついでに言うと、こちらに俺が呼ばれた理由である『召喚された人間を選別し、対象者を有無を言わさず元の世界に叩き返す』ためにも、専用の場があるほうが望ましい。
「第一波の監視要員が少ない理由は、気になるところだね」
「その点についてですが、今回のユーシャ第一波は、第二波のための捨て駒のようです」
「詳しく」
「は。ユーシャ第二波に接近し情報収集を行いました結果、連中の会話から、第一波はユーシャ集団でも弱卒とみなされるものから構成されているとの情報を得ました。第二波は神殿認定勇者、認定魔法使い、認定剣士、神官見習いの合計4名で構成されていますが、第一波は「イジラレ」「インキャ」集団であるとのことです。表現の意味は不明ですが」
「あ~、日本のガキどもらしい話だな……」
第一波は子供集団の中でのいじめられっ子。こいつらを捨て駒に使ってルート選択と罠潰しをして、普段から偉そうにしてるクソガキが第二波として楽に名誉を掻っ攫おうという計画か。
「第一波は速やかに『魔王城』にご案内だ。第二波は徹底的に叩こう」
「処分いたしますか」
「失敗するのに慣れてないだろうから、大失敗させれば十分だよ。といっても、森で迷って自滅するのは、相手の勝手だね」
「判りました、そのように計らいます」
「あるいは、迷子になって森の外に出て、逃亡と勘違いされる事態もあるかもしれないね」
「……逃亡を疑われるほうが、面白そうですね」
「徹底的に疑われるように、仕向ける手間がかかるけどな」
「お任せください」
トゥワンの言葉に、黙って聞いていた黒鱗族のゼーグが頷いていた。
これも短いです。
話の都合上、ここで区切ります。
次話は 2019/09/16 19時頃に公開の予定です。