歓迎パーティーは森の『魔王領』で。(2)
区切りが悪かったので、ちょっと短め。
村の中の建物の配置は、割と単純だ。
『魔王城』から伸びた『街道』が村のほぼ中心にある広場で終わり、その広場からなんとなく周辺に伸びた道にそって、1DKくらいの家が十軒くらい建ててある。広場に面してる最も大きい家でも日本の建売住宅よりちょっと狭いくらいの、鄙びた村といった風情だ。
ちゃんと観察すれば、あからさまにおかしい場所なんだけどね。
この『村』のコンセプトは「警戒心のある注意深い敵を損耗させるステージ」だから、ぱっと見には普通の廃村と勘違いするけど、気が付けばじわじわと不気味さが漂うように作ってある。
なにしろ周りに畑があるのに、農家らしいサイズの庭のある家がほとんど無い。農業をやるなら必要になる、作業スペースになる広い庭や、道具類を片付ける納屋、雨天時の作業場になる小屋と言ったものがないし、家畜小屋も異様に少ない。
周辺の森だって、普通なら燃料を取ったりするために木が切られて少し明るい森になるし、再生林の部分は広葉樹が生える。家畜に食べさせるドングリがなる樫の木が生えているのも割とよくある光景。
だけどこの『村』の周りにはそういった住人の痕跡はない。
まあ当たり前だけどね、ここステージだし。
侵入者がいなければキャンプ場兼薬草畑になってるけど、この使用目的であれば森にまで手を入れる必要はないからね。『気が付けば不気味さが増す、奇妙な生活感の無さ』を演出するのも大切ってことで、こうなってます。
「寝られるような家、あるのかよ」
三人組はお互いに文句を言いながら、『村』の家を眺めていた。
「ちっちぇえ家ばっかだな」
基本的に一部屋しかない家だからねえ。
人間の農村にある家を参考に作った、12畳くらいの部屋のすみっこに炉床が切ってあるだけの粗末な家。母屋の外にあるトイレはおまる代わりの壺に排泄物をためるようになっていて、これまた人間の国では珍しくない原始的なものです。もちろん、風呂はついてません。
「あそこにでけぇのあるじゃん」
「ぼろくね?」
喋りながら寄って行ったのは、広場に面した唯一の二階建ての建物。
それにしても不用心じゃないですかね、まったく周りを警戒してないんですが。
「これなら泊まって良くね?」
「寝る場所あるよな」
そんなこと言いながら、玄関の階段を上がろうとして。
板を踏み抜きました。
「おぁ!?」
「腐ってんじゃん」
「やっべ」
そりゃ~、その家は一部を除いて普通に放置してるからね。『鄙びた村の村長の家兼役場』をコンセプトにした建物で、一つだけ二階建てで正面玄関にちょっとしたポーチと階段が付いてるんだけど、人が手入れしない家って傷むの早いんだよね。
「これやめたほうが良くね?」
「でもよ、一番いい家っぽくね?」
「床抜けたらどうすんだよ」
「びびってんじゃねーよ」
いやそこは怖がっとけって。本物の朽ちかけた家なんて、下手すれば寝てる時に天井が落ちてくるから。
とはいえ、その家もトラップを仕掛けたうちの一軒なので、入ってくれるのは正直いって有難い。追い込む手間が省けました。
送還陣は、一番まともに見える部屋の床下に仕込んである。
そして予想通り、三人はその送還陣がある部屋を見つけて喜んだ。
「ここなら寝られる」
「お、ソファーあるじゃん」
「俺がそれ使うわ」
「俺が見つけたんだから俺のだ」
「うるせーよ強い奴が使うんだよ」
そして喧嘩。
君たち、少しは仲良くできないんですかね?
喧嘩しながらどこで寝るかを決めた後、三人はそこでハードビスケットと水を採ると、ボロ布と大して変わりない毛布にくるまった。
しばらくすると、寝息が聞こえ始める。
「じゃあ、やろうか」
ゲールに声をかけると、一つ頷いた。
見張り所になっている拠点を出て、今は静まり返っている『村』を歩き、三人が寝ている家の前に来る。
「監視を頼む」
準備が出来ているから大した手間じゃないと言っても、作業中はどうしても周囲の警戒を怠りがちだからね。
ゲールとその部下が動いたのを確認してから、俺は意識を送還陣に向ける。
送られる人間が特に保護をしない場合、送還陣の起動に言葉は要らない。
眼を閉じて自分の中にある力にアクセスし、ひっぱりだす。
意識の一部は世界に溶かして、そこにある力を吸い上げる。どこか遠くで『世界の管理人』氏が無粋な悲鳴を上げるのが分かるが、シャットアウト。
自分の力で汲み上げた力を整え、送還陣に流し込む。
送還陣が青く輝き、あたりをほの明るく照らした。
「……いつ拝見しても、神秘的ですね」
ゲールがそう言ったのは、送還陣の淡い光がすっかり消えた後だった。
勇者(笑)組、全員が日本に帰還しました。





