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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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18/95

歓迎パーティーは森の『魔王領』で。(1)

ちょっと長め。

 人間の国に隣接しているのは人間からは大雑把(おおざっぱ)に『大森林』とだけ呼ばれている森だけど、実際に管理しているこちらとしては、いくつかの区画にわけていたりする。


 人間の立ち入りが時々ある区画、マサカリ岩と呼んでいる岩場の隘路(あいろ)よりもあちら側は、人間も立ち入ることがある一種の緩衝(かんしょう)地帯。もちろん人間の国(あちらさん)と話し合ってそう決めたわけではなく、こちらで決めて侵入を(はば)んでるだけなんだけどね。


 そしてダミーの『魔王城』があるのは、マサカリ岩の向こう側。原生林を保護した区画じゃないんだけど、原生林を参考に整えた昼なお暗い足元の悪い森の中に、禍々しい黒い岩でできた、尖った塔に囲まれた城が作ってあります。

 その周辺、人間の国側には『城下町』も一応あるんだけどね、だれも住んでません。

 城も含めて全部張りぼて。住民っぽく魔導人形(ゴーレム)が動いてはいるけど。


「……城下町にも行けなかったかー」


 定期報告を受けて、思わずそう言っちゃったのも仕方ないと思ってほしい。


 第一陣は、城下町の前に設置した『村』に到達した時点で神官見習い君がリタイア宣言。監視の兵士が神官見習い君の殺害を企てたので、魔導人形(ゴーレム)と各種トラップで制圧。

 兵士一名が死亡したけど、残りは無事に逃げて行った。そのまま人間の国に報告してもらおう。


 そして第二陣のほうは、『魔王国』エリアにまで到達してさえいない。

 城下町以外のダミーの村は全部で7つあるんだけど、その村が設置されてるエリアにすら入れてないってことね。

 根性の悪い勇者(笑)組は勇者君を欠いた今、明らかに行軍速度が低下している。


「勇者君も、戦力としては大きかったからねえ」


 損耗(そんもう)させる目的で魔導人形(ゴーレム)をけしかけるんだけど、それを撃破(げきは)していくのに勇者君の力がかなり有効だったんだよね。

 人間の国では魔導人形に使ってる魔石を欲しがるから、魔導人形をけしかけるのは半分(ほどこ)しみたいなところもあるんだけど。


 なお、人間の国では『魔物を倒すと魔石が手に入る』と言われてますが、それは魔導人形を倒した時だけの話。魔導人形の動力源として動力源兼CPUとして使われてるのが魔石なので、魔導人形じゃない動物を殺しても魔石は手に入りません。

 ま、あんなのは材料さえあれば作れるんだけどね。人間の国には製造技術が無いってだけの話。


「第二波は兵士の損耗が激しくなっておりますね」


 当初は騎兵2名を含めて19名いた監視の将兵のうち、8名が脱落して今では11名。残った11名もそのうち3名はすでに負傷しており、脱落寸前と判断して良いだろう。そして残った兵士もやる気ゼロに近い状態。

 先行していた第一波よりも損耗数が多いのには、もちろん理由がある。


「騎兵なんか連れてくるからだよ」


 そう。第二波はよりによって、騎兵を2名も含んでいた。


 騎兵という事はすなわち、馬がいるということだ。

 そして馬は生き物だから当然、食料と水が必要になる。

 馬は草だけ食べてれば大丈夫だと思ってたら、大間違い。人を乗せて戦うための馬だから、一日に必要なカロリーは相当多い。具体的に言うと麦なら一日だいたい3㎏要ると計算するから、その運搬だけでも大仕事。

 そんな大食いの全日程分の餌なんて一度に持って行けないから、()()調()()できなければ、あとから補給部隊が餌を持ってくることになる。

 そして森の中の『魔王領(ダミーエリア)』には、連中が略奪できるような物資は置いてません。


 となると、連中がやらなきゃいけないのは補給部隊の編成と物資輸送。こちらとしてはもちろん、そんな補給部隊をまず攻撃するのは基本中の基本。


 それにあの騎兵2名、根性悪勇者(笑)どもを抑えるのは上手だったんだよね。彼らがいることで勇者(笑)集団がチームとして機能してた面もあるので、こちらとしては騎兵を無力化できればチームの空中分解も招けるとも踏んでたわけ。


 かくして騎兵への馬糧補給は早々に止まり、騎兵は役立たずに。

 もちろん当人たちも補給が途絶える危険は百も承知なので、補給が無くなったと判ると『王は契約を破った』と喚いて撤収していきましたね、騎兵。撤収中のところを更に森の中で襲撃して、ボロボロの状態で帰ってもらったけど。

 帰れた時点でかなりこちらは手加減してたんだけど、手加減した理由はもちろん、人道上の理由なんかじゃありません。ボコっておいてボロボロの状態で帰還させれば、補給を怠った王宮と、騎兵を派遣した貴族の間でいさかいが起こるからね。人間の国で騒ぎを起こしてもらうために帰してるんだな、これが。


 森の肥やしにするより有効活用できるんだから、使わない理由はどこにも無いよね。


「第一村に到達する可能性はまだあるのかな」


 勇者3名に兵士8名、補給なし。この状態でどこまで維持できるのか疑問だけど。


「兵は脱走を企てておりますから、あとしばらくすれば消滅する部隊であろうかと」

「早期に消滅させるか、多少なりとも引っ張るか、どうするかなあ」


 村まで来させれば、既設の送還陣で勇者は送り返せる。俺にとっては手間がかからなくて便利なんだけど。


「このままでは兵どもが持ちますまい」

「じゃ、強制的に第一村に行かせるか」

「かしこまりました」


 ちょっと追い込みましょうかね。


──────────


 送還陣はちょっと特殊なものだから、設置してあるだけでは起動しない。

 というかそう簡単に起動して誰かがどこかに飛ばされても困るので、起動キーを持っている誰かが近くに行かないと動かないようにしてある。この場合、その『誰か』って俺なんだけどね。


「おい、誰かいねえのか!」


 村の入り口から、なんか雑な怒鳴り声が響く。この世界の言葉だから、残存した兵士のだれかだろう。


「生きてる奴いるか!?」


 これは日本語。声からすると、剣士君だろう。


「これ見て生きてる人間がいると思うとか、おまえ馬鹿じゃないの?」


 これも日本語。魔法使い君だね。


「魔法使いなんだからまず感知くらい使わねえか、普通?」


 他人の神経を逆なでにすること最優先の発言、これは神官見習い君だな。


「ぁ?そう思うならおめーが使えばいいだろ?できねーんなら指図すんなよ」


 なんというかこの期に及んで喧嘩するのが最優先とはねえ。

 ま、そういう連中だと分かってはいたけどさ。


 こうやってモニターを見てる俺が詰めているのは、『村』の中でも『魔王城』寄りにある門のそばにある拠点。幻影魔法と精神魔法が周辺に仕掛けてあるので、敵意のある人間はスルーして当然のボロ小屋があったかも?程度に認識するようになっている。

 そしてこの『村』のコンセプトは、『魔王城の近くにある、何かに襲撃されて滅びた村』だ。崩れかけた木の柵で囲われたエリアに掘立小屋のような小さな家が散在していて、その中で一軒だけ二階建ての家がある、見捨てられた村の姿に作ってある。その周辺には荒れた畑が広がり、森の中でひっそり朽ちていく最中の人の痕跡、といった様子に見えるわけ。


 まあ全部ニセモノなんだけどね。『畑』の雑草の中には、こういう環境でしか育たない植物が植えられてるし、掘立小屋もキャンプ用狭小住宅として使えるものが混じっている。一見すると「まだ使える家が残ってる」だけに見えるけど。

 そして「まだ使えそう」に見える家の一軒が、送還陣設置場所だ。


「おめぇらうるせえよ、とりあえず食い物と水だろ」


 日本語で言い争う三人をたしなめたのは、リーダー格の兵士だった。


「食い物なんかあるのかよ」

「この様子だと、捨てられてから半年は経っちゃいねぇ。どっかに食料が残ってるかもしれねえ、家探しすんぞ」

「水はどうすんだよ」

「村なら井戸の一つも掘ってるもんだ」


 よしよし、その調子で動かしてくれ。

 ここ数日はまともな休息も取れてなかったようだから、全員がひどい顔になっている。補給も途絶えたから兵士もハードビスケットと水以外を口にしていない。


 そろそろ全員、限界だろう。


「じゃ、水だけ探そうぜ」


 まあそういう結論になるだろうねえ。

 これは仕方ないだろう。兵士たちは補給部隊が持ってくる食料を食べてたのに、勇者組(笑)はずっとハードビスケットと干し肉と水ばかりになってたんだから。

 たまにこっそり小さな獲物を食べてたようだけど、見つかれば『王家の森で密猟した』と殴られてたからね。

 三人とも、自分たちにはまともな食糧が回ってこないと理解している。それで家探しなんかしたくもないだろう。


「怠けてんじゃねえ、メシが要るだろ!」


 兵士が怒鳴るのに、三人は兵士を(にら)み返していた。


「どうせ俺らの分は無ぇんだろが」

「おっさんの飯を俺らが捜す必要ねぇだろ」

「おれらいつもの食って寝るわー」

「寝床探そうぜ」


 この三人だけではなく、兵士も寝不足と空腹と疲労で判断力は完全に落ちている。

 だからっていきなり抜刀することないと思うんだけど。


「っぶね!」


 切りかかられた剣士君、危なげない動きでかわしてました。


()けんじゃねぇよ!」


 それは無理があると思うよ、うん。


()けるに決まってんだろバーカ」


 そりゃそうだ。

 剣士君が兵士の剣を避けてひらひら動いてる間に、残った兵士は村に散っていた。

 各個撃破ですね、もうこれはお約束ですね。しかしなんで彼らはバディを組まないのか、それが不思議です。


「戦術もまだ未熟なようですから」


 今回の支援部隊としてついてきてくれた黒鱗族のゲールが、俺のつぶやきにそう答えてくれた。


「人間が他種族に勝ててるのが謎だよね」


 技術力も低いし、なんでこの種族がこの地域ではこれだけのさばれるのか、不思議で仕方ないんですが。

 『管理者』氏の依怙贔屓(えこひいき)が影響してるんだろうけど。


「彼らはとにかく増えますので」

「数の暴力って、やっかいだよねえ」


 子だくさんの人間たちと違って、他種族は生涯に持つ子供の数はせいぜい2~3人。人間なら同じ家族から跡を継げない兄弟3人を兵隊にするなんてざらにあるけど、他種族は戦う者の数も少ない。

 純粋に頭数が違い過ぎるんだよねえ。

 そんな話をしているうちに、ゲールの部隊が兵士たちを鎮圧。今回は麻酔銃を使ったから、こちらの損害はゼロ。


「お、あっちもけりが付いたかな」


 剣士君にかわされてわずかにたたらを踏んだ兵士を、魔法使い君が杖でぶん殴ってKOしたところだった。

 なんかずいぶん思いっきり殴ってましたが、恨みが籠ってるなあ。倒れたところに蹴りも入れてるし。


 そして三人は兵士をそこに放置して、村の中心部に入ってきた。

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