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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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魔王様は機械化がお好き。

 勇者(笑)が森の中でベタな英雄ゴッコしてる間にも、うちの農場は作物が育つわけで。


「え、魔王が農作業するんだ……」


 新規滞在者の片方がそんなこと言ってましたが、


「北島君、うちは農場だからね?」


 あと、魔王なんて人はいません。


 そんなことはさておき、本日は収穫日です。

 今日の収穫は甜菜(テンサイ)にそっくりで甘みの強い野菜。地球の甜菜と同様に、太くなった根っこの部分が砂糖の材料になる。

 赤牛族が育てていたもので、彼らがこれを持ち込んでくれたおかげで、うちでは甘味に事欠かなくなりました。煮詰めるのに失敗するとえぐみが出るので、砂糖を作るときにコツがいるけど、そのへんは赤牛族がやってくれるから無問題。

 収穫の時は機械を使って畑をごんごん掘っていくから、かなり自動化してあります。


「トラクターあるんだ……」


 専用の甜菜収穫機(ビートハーベスター)は無いので、トラクターの作業機部分を取り換えて使うのがうちの機械です。


「機械化しなきゃこの人数で回せないからねー」


 人が増えたといってもたかが知れてるので、うちは機械化・自動化に力を入れてます。

 作業員が鍬もって手作業でどうにかできるレベルじゃないし。


「もとからこっちにあったんですか」

「原型はあったねえ。重量バランス悪かったから、改良したけど」


 車両部分と作業機部分を別のメーカーが作ってたせいもあって色々使いにくかったんだよね。

 地球でフォードがやったのと同じミスをこっちの大手業者もやってたんで、小さいメーカーに頼んで改良型を作ってもらいました。そのメーカーも今や農業機械の一流ブランドになってますが。


「……荷馬車もない国と、トラクターのある国があるんだ」

「君らの召喚されたあの国、ぶっちゃけ後進国だから」


 農場のある高地を抜けた反対側に、産業革命レベルの工業国があったりするんだな、これが。


 今代の『世界の管理人』氏の嫌がらせに耐えるために技術を発達させた非人類種族がいくつかいるんだけど、峠の向こうには彼らが作った国が何個かある。農園をここに作る時に多少OHANASHIをしたこともあったけど、うちの農場が人間勢力から国を守る防衛ラインになると認識してもらったから、今は割と良好な関係かな。

 俺が人間なんで、最初は警戒されたのも仕方ないよね。俺も相手の立場なら警戒するだろうし。


「人間の勢力圏は技術的にはかなり遅れてるんだよ」

「他種族を襲ってる目的って」

「魔道具の略奪、やらされたでしょう」


 人類圏に接する範囲にいた他種族から略奪するために、拉致された人たちの一部が使われているのは、俺も把握している。答えにくい質問だろうから、答は期待していない。

 なにしろここに定住した人達は、武器では劣るけど数が多くルール無視で暴れ回る人間に街を焼かれ略奪され、難民になってここに逃げ込んできたわけだから。そういう人の前で略奪に加担したかどうかは言いにくいだろう。


「良いものがある所から獲ってくるのは当然だと、狩猟と同じつもりでいるんですのよ」


 顔をしかめたのはリーシャ嬢だった。

 彼女は農作業はせず、砂糖生産の予定を決めるために見にきてるだけ。日焼けしないようにつばの大きな麦わら帽子を被ってるのが、質素なワンピースによく似合ってます。


「他の民の所有物である、という事を理解できませんの」

「え、森のものは所有権があるから勝手にとるなって言われてたんですけど」


 これは宮田君。


「森にあるものは全て王家のものだから、と言われませんでしたか?」

「あ、はい」

「自国の外のものも、王家のものだと思っているのです」


 世界の全てはオレのもの、ってやつね。


「他種族はまつろわぬ民、その持ち物は本来なら王家に属すべきもの。そういう考えなのですよ」


 井の中の蛙とも言います。

 小さい自分の常識の中では自分が一番偉いから、世界中どこでも自分が一番偉い、と思ってるタイプ。


「そんな中で、リーシャさんの家はまともだからねえ。おじいさんの代から変わったんだっけ?」

「ええ。祖父は国外を放浪してまいりましたから。おかげで、変わり者と呼ばれておりますわ」


 小さな常識に閉じこもることを良しとしなかったお祖父(じい)さんのおかげで、リーシャ嬢もそれなりの教育を受けてきたわけだ。

 外との交流を望んで領地の改革にも努めたリーシャさん家はお金持ちで、人間としては珍しく、他種族国家とも交易してる。そんな家を王家に取り込みたがった先代王妃の意向で、リーシャ嬢が王子と婚約してたわけですが、今の国王夫妻も王子もおバカ過ぎて理解できなかった模様。


 挙句にリーシャ嬢を追放してくれたんで、うちは有難い人材を拾えましたけどね。


「ま、そんな国にもうちの砂糖は売るけどね」


 分量としては微々たるものだけど、南方領域のサトウキビ由来の砂糖とはまた違う風味を持たせてるので、意外に高値で取引されてます。


「え、相手の喜びそうな商品なのに、売ってやるんですか?」

「魔王領の作物って、買ってもらえるんですか?」


 なんて素直で善良な少年達なんだろう、おじさん涙でちゃうよ?

 あと宮田君、ここ魔王領じゃないから。島田農園ね。


 その一方で、


「あら、だからこそ高値で売りつけるんですのよ」


 リーシャ嬢は迫力のある笑顔でした。


「サン王国はシマダ農園が魔王領のことだと把握しておりませんし、迂回路を通って荷を運ばせるだけでもう、別の地方からの品だと間違いますの。高く買わせる方法などいくらもありますわ」


 ……俺らは少年たちのように純粋じゃないからね、いくらカモっても心が痛まない連中である、と認識してるのです。

 むしれる所はむしっておくのが世間の波に洗われ()り切れたオッサンなのですよ。うはははは。


「あの連中はまともな地図さえ持ってないからねえ」

「おかげで助かっておりますわね」


 情報操作しやすいからねえ。

 手元に正確な情報を持ってない連中が相手だと、こちらとしてはどうとでもできます。


「あれでもわたくしの故郷がある国だと思うと、いささか複雑ですけど」

「あの王国はねえ……リーシャさん家の領地は苦労してるよね、情報統制もいるし」


 人類圏でただ一箇所、進歩し始めた地域がリーシャ嬢の家の領地なんだよね。


「我が家の実態を知られたら、蛮族が攻め入って参りますわ。それを考えればいたしかたない事です」

「もうちょっと守りやすい地形だったら、とっくに独立出来てただろうけどねえ」

「いずれは独立を考えておりますわよ?」


 甜菜を掘りながらする話でもないような気がしたけど、ま、いいか。

魔王(しまだ)「仕事は効率化しておかないと、のんびりする時間が減っちゃうからねー」

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