魔王領?いえ療養地です。
ちょっと短め。
食べながらぼろぼろ泣き出した二人になんとか食事をさせて、翔君に部屋まで案内してもらって、とりあえず一仕事片付いた。
「すっごい泣いてましたねー」
「安心したんだろうなあ」
他人事みたいに言ってるけど、佐奈ちゃん、君も最初は大泣きしたからね?
「部屋に足りないものを聞くようには言ってあるけど、たぶん要望は出てこないよなあ」
「あ~、最初は出ないですよね。お布団があるだけですっごい嬉しいですし」
割り当てる部屋はちょっとしたお客さん用なので、主寝室はベッドとロッカーダンスとテーブルセットが置いてあるだけだったりする。
ちなみに今回の二人にはツインの部屋を割り当てました。
シングルを希望なら、あとで動かせばいいからね。
「ほんっと神殿と王国の連中、ろくな事しないですよねー」
ラーナさんも含めて、あの二人と直接会った人から話を聞いた後で、佐奈ちゃんがふくれっ面で言った。
「まともな連中ならそもそも、よそから子供を攫ってきて、森にけしかけたりしませんよ」
これはフヴァルさん。
「かわいそうに、あの年の男の子が食べるものも食べられなかったんだよ?人一倍食べたい頃じゃないのかい」
これはラーナさん。
「で、二人とも栄養状態は悪そうってことで良いんだね?」
「ガリガリですよ」
ラーナさん、服の手直しのために間近で見てるからね。
俺がみた感じでも、顔がげっそりしてて、手も筋張ってて、明らかにまともに食べてない状態だったけど。
「しょっぱいビスケットと干し肉だけあてがわれてたようですし、しばらく栄養を取らせて休ませる必要があります」
これは医療所のターク先生の意見。
ターク先生は街の耳長族で、人間に追われるまでは街で診療所を開いていたそうだ。種族問わず診ることのできる貴重な人材で、農園に数人しかいない貴重な医者の一人である。
「どのみち、家に帰すにしても、今の状態では落ち着けないのではないでしょうか」
「いきなり帰したら、今までの生活と日本のギャップでメンタルやられるかも」
佐奈ちゃんが言った通りだろう。佐奈ちゃん自身、逃げ込んできたここで『安全な生活』に慣れるまで、しばらくかかってたし。
逃げ込んできた人たちに必要なのは、落ち着くための時間だ。
理不尽に誘拐されて、暴力で脅されて、森の中を死にそうな目に合いながらひたすら逃げる生活から、平和な日常にいきなり戻れる人は、あんまりいない。平和な生活に戻れるためには、心が落ち着くまでの時間がいる。
もっと具体的に言うと、何もないところでいきなり逃げ出したい衝動に駆られたり、夜中に小さな音で飛び起きたり、悪夢で熟睡できないような状態が解消されるまで、安全で静かなところでの保護が必要だ。
だから、ここでは逃げてきた人たちを一時的に保護して、日常に戻れるまでの精神状態になるのを待つことにしている。
攻め込んできた奴にはそこまで配慮しないけどね。容赦なく一気に帰します。
その結果メンタルやられたとしても、俺の関知することじゃないです。
仕事を依頼してきた『世界の管理人』氏ともそういう契約をしてある。
なんせ『管理人』氏の最初の依頼は、彼が彼の御贔屓であるこちら人間たちに便宜を図った結果、起こった諸々の不具合を尻拭いしてくれってことだった。
自分が可愛がってる人間は何をやっても許すし、可愛い人間がやるなら異世界から人を攫ってくるのもOK。そしてそいつらがやらかして異世界の人間に危害を加えたのは全部、還す役割を持ってる人が尻拭いして、攫われた人に便宜はかってね、てやつ。
理由は、被害者のケアをしなかったら管理人氏の評価が下がるから。
そんなめんどくさい依頼は却下ですよ却下。
俺にメリットないし。
俺の派遣を最終的に受け入れたうちの氏神さんも、そんなふざけた条件しか出さないんならと管理人氏の上級神に色々密告してました。氏神さんの上司経由で。
というわけで上のほうで色々とお話合いがあった結果、害意のある奴をそれなりの対応で元に戻して構わない事、その結果メンタルをやられた場合は世界の管理人氏の失敗にカウントされること、となってます。
管理人氏がやるべき通行制限まで俺が代行しなくていい、という取り決めにもなりました。
もちろん、俺が派遣された時点で管理人氏の評価はダダ下がり。
ちゃんと世界の行き来を制限せずに他世界の住人に害をなし、後始末は他世界の住人に押し付けようとしたことで、マイナス評価になるわけね。
今でも被害にあってる人がいることからわかる通り、管理人氏はいまだに行動を改めてないので、今のままだと邪神認定まであとわずか、らしい。知らんけど。
マイナス評価されたくなければ、召喚そのものを禁止しろっつの。
「それじゃあの二人はここでしばらくのんびりさせて、療養させるということで」
「かしこまりました」
仕事の割り振りなんかは、もう少し二人の健康状態が改善してから、という事になった。





