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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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今日も平和な魔王領。(Side: 宮田大樹)

逃げてきたもう一人、宮田大樹の目から見た魔王領はと言いますと。

(Side: 宮田大樹)


 魔王と呼ばれてるのが実は日本人の普通の人だったとか、魔王領がかなり暮らしやすい土地だとか、そういう事が判っちゃうと、僕らの苦労って何だったんだろう、ってなるのは当然だと思う。


「うん、僕も同じこと思った」


 なんか遠い目になってる渡辺君が、しみじみ呟いていた。


「あんなに苦労してさ、敵だからやっつけろとか言われてた相手がこれなんだもん」

「渡辺君もなんだ?」


 お風呂でお湯の準備を手伝ったりしてくれてた渡辺君から、彼がここに来た時の話は聞いていた。

 僕らと同じで、やっぱりいきなり神殿に召喚されて、無茶な訓練の後に森に行かされたってことだった。僕らよりも早く、森に入って一週間で逃げだしたそうだけど。


「うん。逃げて良かったと思った」

「どう考えても、魔王って僕らの敵じゃないよね」


 同じ日本人で、逃げてきた人を返してくれる人だし。


「でもよ、逃げ出さずに言いなりになって攻めてきた奴、どうなんの?」


 一緒に逃げてきた北島が、首をかしげてた。


「あ、そういうのも帰すよ。ただ、準備整えて帰すとかはやってくれないってさ」

「どゆこと?」

「だからさ、攻めてきた時のきったないカッコとファンタジー装備のまんまで、日本に放り出されんの」


 想像してみた。

 ……うわぁ。


「やっべ、それ黒歴史にしかなんないじゃん」


 北島の感想のとおりだよね。


「しかも、もとの場所に戻すんだってさ」

「えーなにそれ、僕らだったら駅のホームじゃん、それ」


 召喚された日、僕らは朝の電車を待って並んでいるところだった。

 連れてこられたのは、たまたま同じ電車に乗る予定だった十数人。小学生からサラリーマンまでいたんだけど……


「……あの、さ」

「なに?」

「死んじゃった人は、どうなるの」


 無茶な訓練、というかほとんどイジメとしか思えない最初の十日で、三人が死んでいた。

 目の前で死んだのを見て、心を折られた人がほとんどだった。


 あれから神殿と王国の連中は、死んだ人を見てげらげら笑ってた奴を特別扱いし始めた。


「……それは、どうにもならないんだって」


 渡辺君は、少し間をおいてそう返事をしてきた。


「そう、だよね」

「島田さんも、死んだ人を生き返らせるのはできないから」

「そっか」

「……できたら、良かったんだけどね。って、島田さん、前に言ってたんだよね」

「出来ないのは、魔王の責任じゃないだろ」


 北島も、元気のない声で言った。


 この国を守って安全な場所を作るだけでも、けっこう大変なはずだし、普通の人なんだから限界はある。

 僕も昔だったらここで『やる気が無い魔王が無責任』と言ってただろうけど、この3ヶ月で考え方が変わった。

 神殿や王国の連中みたいなのは、隙があれば殴りこんできて、暴力を振るいまくる。あいつらを寄せ付けないだけでも大変なんだ。


「あのさ、魔王も、遠くにいる人を日本に返すのは、できないんだよな?」

「うん、無理だって」

「自力で逃げてくるしか、無いってことだよな……」

「そうだね。僕としては、北島君たちが逃げてきてくれて、嬉しいよ」

「あんがと」

「僕らが逃げ出すきっかけ、作ろうとしてくれてたよね」


 僕たちを監視してるカメラ付ゴーレム。監視についてきてた兵士には見えなかったみたいだけど、僕らには見えてたあれが、少しずつ情報を教えてくれた。


「ダークエルフの人たちも兵隊を襲撃するチャンスを狙ってはいたんだけど、襲撃したら召喚された人が殺されちゃったことがあるから、どうしても慎重にならなきゃいけなくて。自力で逃げてもらう事になって、ごめんだってさ」

「え、なにそれ」

「誘拐された人を救出するために襲撃したら、王国兵が逃げるために、盾にされた人がいたんだってさ」

「あ~……あいつらなら、やるよね」


 森で襲撃されたら、あいつらは基本的に逃げる。

 その時に盾にされる……十分ありうる。というかあいつら、ぜったいやる。


「やるよな。……ま、いいよ。あいつらとは縁が切れたんだし」


 北島が吹っ切るように言ったのは、僕も同感だった。


「じゃ、そろそろご飯食べに行こう。今日は二人とも、お客さん用食堂に案内してって言われてるから、こっちね」


 居住エリアだよと渡辺君が説明してくれた場所は、大きめの平屋がいくつも並ぶ村だった。


「ここらは共同生活用の設備があるエリア。家族で住んでる人達は、あっちの住宅に住んでるから、ここらは僕ら独身者の寮とかがあるよ。ご飯とお風呂は、ここで働いてる人はお給料から天引きで料金支払えば使える」

「なんか、すっげー整ってるんだけど」


 道路は砂利を固めてあって、人間の国みたいに泥んこになったりしなさそう。固い路面にはちょっとだけへこみが付いてるから、車があるんだろう。


 そう思ってたら、渡辺君が道路の端によってと言い、寄ったところで普通の自動車が通って行った。


「……車!?」

「数はないけど、緊急用に作ってあるんだってさ」

「魔王さんが作ったの?」

「原理を教えたのが島田さんで、実際の細工は他の職人さん。まだ生産数が少ないから、普通は動物が()いてるよ」

「あ、自動車以外もあるんだ」

「荷馬車もあるよ」

「そういえば、人間の国で馬車ってあんまり見なかったよな」


 不思議なんだけどあの国、荷車を引くのは牛の仕事なんだよね。


「馬用の引き具がないかららしいよー」

「え?」

「人間の国にある荷馬車引っ張らせるための道具って、全部、牛用なんだってさ。それを馬に使っちゃうと、馬の首がしまるから、荷物引けないんだって」

「……なにその馬鹿っぽい理由」


 そんな理由で馬車が無かったとか、なんかすごく間抜けなんだけど。


「他の種族は割と知ってることらしいけど、ほら、人間って他の種族の言うこと聞かないじゃん?」

「あ~……」


 うん、あの国の奴に物を教えてくれる種族っていないよね。

 すぐにマウントとりたがる、ウザい連中だから。


「お客さん用の設備はこっちね。靴は脱いでねー」


 立派な平屋の家が、案内された先だった。

 太い木の柱を使ってる古民家っぽい家だけど、中は明るいし使われてる木も新しそう。


「これお客さん用なの?」

「島田さんの家の一部なんだけど、この西(むね)は来客用なんだってさ」

「それ国賓用って言わない?」

「気にしたら負けだよ?」


 僕らがしばらく暮らしてた、人間の国の城とは雲泥の差だった。

 あっちは石造りで窓も小さくて、昼間でも薄暗い所ばかり。壁が厚いせいで見た目の割に中は狭くて、臭いもこもりがちだった。

 ここは日本の古民家と、どこか別の国の平屋を混ぜたような作り。


「てゆーか、大河ドラマの歴史ものに出てくる『館』っぽくないか?」

「あ、たしかに。お城とかにもこういう構造あるよね、天守閣じゃないとこだけど」


 外に面した廊下を歩いてるあたりとか、似てるかもしれない。

 歩いて辿り着いたところが和室じゃなかったのは、ちょっと意外だった。


「椅子なんだ」

「床に座るのは苦手な種族もいるからね」


 僕が呟いたのに答えたのは、別の入り口から入ってきた魔王さんだった。


「さっぱりしたかな、お疲れ様。君たちは長い事まともにご飯を食べてなかったみたいだから、消化のいいものを少しずつ食べていこう」


 そう言いながら座るように勧めてくれて、僕らが腰を下ろしたところで、コロコロした体系の女性がワゴンを押して入ってきた。

 耳が長いからエルフなんだろうけど、エルフって種族を聞いて想像するような胸の大きい美女じゃない。耳の形が無かったら、ただの近所のおばちゃんにしか見えないような人だった。

 そのおばちゃんエルフが僕たちの前に置いたのは、小さいパンと、いい匂いをさせてるスープだった。


「栄養失調の人にいきなり普通に食べさせると、死んじゃうこともあるからね。だから、今日はこれだけ」


 申し訳なさそうに魔王さんが言ったけど、僕はそんなの全然気にならなかった。


 だって、スープだよ?細かく刻んであるけど具もちゃんと入ってるし、匂いも凄く良い。しかも温かそうに湯気もたってる。


 かっちかちのビスケットを水で流し込む、餌としか呼べない食事がずっと続いてたから、ちゃんと食器に盛られて、温かくて、いい匂いがしてるだけでもう十分だった。

 小さめのスプーンは、たぶん、全体の分量が少ないせいなんだろうなあ……と、(すく)ってみてからおばちゃんの気配りに気が付いた。

 一気に食べちゃいたいけど、それが出来ないようにしてあるんだ。


「ちょっぴりしかないから、味わって食べてもらおうと思ってねえ。何日か経ったら、ちゃんと食べられるようになるからね?」


 魔王さんに何か声をかけられたおばちゃんは、そう僕らに言った。


「だから、少しずつ、胃を慣らそうねえ」

「……うん」


 なぜか一気に、視界が曇った。

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