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責20



もう既に起きていたようだ

オニキスはベッドのクッションにもたれながら身体を起こしている


伺うのが遅れて申し訳無かったと下げた頭を

溜め息混じりに上げさせられれば

コーヒーを催促された…


漸く経って

飲み終わった差し出されたコーヒーカップを受け取って立ち上がる

着替えの手伝いはしなくていいとやはり言われて部屋を辞す






手に持った物を洗い、ビショップの部屋に返しに行く。

そうこれらは…借り物…

ティーセットもコーヒーの器具も全てその都度借りていた。


…給仕する茶葉も茶器も知識も、なにもない

初日の昼過ぎに部屋に戻ったオニキスにコーヒーと言われてどうすればいいのか分からず、叩いた扉。

あの侮蔑の目をしながらも…言われた言葉はつっけんどんながらも助言以外の何物でもなかった。

不慣れどころかほぼなにも知らない俺が、お陰で形だけでも仕えられたのは

ビショップのお陰だ…

そう、俺が立ち回れる様に力を貸してくれた。




コンコン…

「入っていいぞ」

「失礼します、借りていた物を御返しに上がりました」



「そこに置いてくれ…今日で最後だろ?」

「…はい。お世話になりました」


立ち上がることもなく、

ただ部屋の中で正座をしている姿

この一週間…

これ以外の姿勢を見たことはない



「見習いなりにやったんだろ?」

「…何も…部屋の掃除も世話も録に出来ませんでした…」


すみませんと頭を下げて、カップ等を返す

もっと手際と算段と時間配分が出来れば…自分の力量と理想の姿の解離に悔しくなる。



最近まで蔑みはしなくとも、オニキスの侍従であるのに…

あたかも己が主人であるかのように当然のように頼み事をし、

我が儘も利かせ、後始末もさせていた

それもオニキスが俺に許していたからだが、

侍従の…ビショップからすれば横暴以外の何物でもなかっただろう

そして、

それもこなせたこの人は…優秀だ


俺には…出来なかった

本を読んだ程度では…その知識の生かし方すら分からなかった。





実家の自分付きの侍従が如何に仕事が出来たか…

振り回して、迷惑かけても平然とそつなく俺の要求を飲んでこなしてきた。


…頭が下がる

簡単な仕事なんかじゃない

水回りの裏の仕事から主人の趣向や学術まで把握して教えられるまで勉強する。

何かあればその都度、割り振りと優先順位を組み換えて…


果たして自分がそこまでできるようになるか…自信がない

今回の一週間…オニキスは厳しかった訳じゃない

主人に侍ることが中心、つまり不慣れな裏方の仕事やその他の雑用をすることは最小限に心配りしてくれていた


…そのつけは禁足が解けたビショップが全て負うことになる

その謝罪だ


「…見習いで二日アコヤさんに付いて回っただけだろ、期待してない。後は俺がやっておくから気にするな…」

「…しかし…」


「部屋中心に侍っていると言っていたが、主の意向に沿ったのとと同義だろうが。

主の心配りを恥じるのなら今後出来ればいい。

…そしてそれをするのは主にではなく、この一週間主に詫びる機会を与えてくれたお前の主人へだろ?」


違うか?と立ったままの俺とは対称に正座を保つビショップから

…その体勢からも何故か俺こそがそうしているような感覚に陥る。

怒られている気がする…


様々な物を借りるために、交換条件だと経緯を洗いざらい話した。俺の責に全てなったと…

オニキスを反省室で庇えなかったことも詫びた…お前の主人は誰だと怒られたが。




日々のオニキスの様子も、給仕の指示が出ればそれをそのまま伝える。

ビショップはそこからオニキスの意を汲んで予想して…軽食だって、食事の内容ですら組み立てて説明してくれた。しかも俺はそれをそのまま伝えるだけで料理もしない…調理場任せだ。


洗濯も洗濯場に丸投げ…

普通なら主人の意向や好みに細かく答えるために手を加えたり…

季節のものや流行を取り入れたり…

洗濯1つでも香を焚き染めるくらい…俺には出来なかった

柔らかく洗い上げることも、気分に合わせた服装選びも…何も

何も出来なかった。

本にかかれた入門書の内容ですら…


「…おい、感傷に浸るのはいいが早く主のところに戻れ。怒られはしないだろうが…待たせるのは侍従としては5流以下だぞ?」


「…」

「この一週間で分かった…その顔は5流以下ですらないって思ってるな?」


「よくお分かりでいらっしゃいますね…流石です」


ひねくれた思考を言葉にそのまま…謙譲語まで使って。

何流かは俺には分からないが遥か高みにいるビショップに言われても…そう皮肉を込めて言った


「ったく…本当可愛いげがないな。いいから洗濯場と調理場に行ってから早く戻れ。こんなところで油を売ってる暇なんてないのは分かるな?」

「…っ、はい。」

「分かったなら早く出てけ」


もう話すことは今はないとばかりに目を閉じる

…瞑想でもしているのか

その姿に一礼してアコヤに伝言、朝食と洗濯物を取って部屋に向かう





オニキスのところへ戻るとテーブルに座り、既に本を読みながら肘をついて待っていた…


「…お待たせしました。」

「席につけ。おまえも一緒に食べろ」


「…畏まりました」


何度も繰り返されるこのやり取り

お前の分もだと…二人分持ってこいと言われ、疑問に思いつつサーブした


…始めはまがりなりにでも侍従だと…仮にも主人と同じ席につくのはと拒否をしてみたものの一蹴

次からは自信の分は簡素にと…パンとチーズのみにすれば交換させられて自身が豪華な一食を食べるはめになった。

それからはもう諦めた…

目の前のオニキスがオムレツを口に運んだのを見て、自分も食べ始める。


スペイン風だ。

野菜とチーズが入ったオムレツ…腸詰めソーセージに焼きたてだろう白パン

コンソメスープに、デザートにババロアと紅茶

全て一緒に提供



紅茶も…立ち上がることも諌められたのだから後で持ってくることも横で注ぐこともない。

抽出が良いタイミングでそのまま座ったまま…食べるのを中断して対面のオニキスのカップに注ぐ。

食事も終わっていないし食べ終わる頃には冷める。因みにレモンもミルクも砂糖も…セルフサービスだ


食事を再開

そう言えば…携帯食料か

どうしたものか…



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