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責13






呆れた顔のオニキスから目をそらす

特に何を言うつもりも無いようだが、少し気まずい空気が落ちたところだった


アコヤが

戻ってきた

食後の紅茶等だろうな…

…見慣れたティーセットや食器のながで異彩を放つ湯呑みが乗っている


「それで、様子はどうだった」



律儀なアコヤの事だ、

オリゼにこの不味い茶を拝借すると言いに…

それを言い訳にどうせ様子見をかねて行ったのだろうと、

そう思って聞けば




「…あれだと持ちませんね

ビショップは来ないと言ったら暴れましたから…ただでさえ辛い体勢だとは思いましたが、拘束を足して鎖の遊びを無くすしかありませんでした」



「…アコヤ」

「何か御用命ですか?」


何のことはないと、

気にしたような振りも見せない姿はいつも通り

だが…

口直しのフルーツを差し出しながら伺いをたてる様子に

その器をむしりとるように受けとる



「…アコヤ、あいつを出してやれ」

「…よろしいのですか?計算上は一週間と…」


「"ビショップが来ない"…ここでのやり取りを知らないあいつが聞けばどんな想像になるか少し考えれば分かることだろ…さっさと行って連れてこい!」



「はっ」


短く言って退出していくその姿を苦々しく見つめていれば

余計な事を口走りやがって…

計画など、

俺が恨まれて策が頓挫することも頭を過る

だがそれよりも大事なことは…

オリゼ自身の状態


俺が易々と…

自らの指示を変更するなどあってはならないと言うのに…

未だ有事が怒ったとは冷静に考えれば言えない、

それでも友が心配だと感情的に声を出した


普段から考え考慮してきた…

己の影響力も、

立場も…振る舞いも

そんなものは自制の役に立ちはしなかった…






「ちっ…」


「…マルコ、落ち着け」


その言葉に怒りが増していく

何故冷静で居られる?

オリゼの状況も俺の策も全て知っていて…何故優雅に足を組んで座ってられる、

薄情にも程があるだろ…

お前は

他でもないオリゼの親友だろうが!


「よくもそんな事を言えたも「…いいから…いいから落ち着け、オリゼは大丈夫だ」…」


地の這うような声が、己から発せられる

滅多に…

俺の築き上げてきたイメージとは違うそんな声音にも眉1つ動かすことはない

それでもオニキスは怯むことはない、


それどころか…

先程までの口調とは違う

宥めるような…丸い労るような響きに

出かけた言葉を失った





「…何故そんなことが言える」


代わりに出た言葉


一転…

自身が…思ったより弱い声にオニキスが薄く笑うのが分かる

笑うなと…

愚弄するなと、

そんな感情すら浮かんでこない



「…いいか、あいつはああ見えて強い。俺が許せないだけでもっと傷が増えようと耐えられるし、どんなに心折れようと何処かはちゃんと自分を保ってる」


「杖で…100回ほど打った後でもか?」

「ああ…ビショップがそうも言ってたな…まあその程度我慢は効くはずだ」


思案顔

そうか

オリゼの傷の手当てをオニキスに依頼した

オニキス本人が行けはしなくても

その傍仕えならばと…

オニキスの名代として、

傷の処置をあいつが受け入れやすくするために俺が頼んだのだ



そしてアコヤと引き起こした失態

主人に己の行動を報告をした。

だからオリゼの状態は、

オニキスはあいつの傷の事もどんな状況下にあるか聞いて把握している…


それでも、

把握していたからこそ

彼処までオリゼの事を心配していた筈だ。

だがその状況は変わった

更に悪いものに変化したのにも関わらず平静を保てる


その根拠は?

…まさかオリゼならば大丈夫だと信用しているのか?

その胆力に、

精神的な強さを…

持ち直すことも容易だと信頼している?




「そう…」

「変なところだけは察しも良い…

暴れたのならばさっき殿下の言っていた策も意図通り気づいている筈だ…普段はその思考能力は全くと言っていいほど発揮されないがな」


ぼけーっとしてる

そう付け足して言うオニキスの台詞に思わず吹き出す

そんなこと、

笑っている場合ではないというのに…

つい…




「…分かったなら落ち着けるな?あいつがマルコを憎むようなことには絶対ならないから安心しろ」

「だが…」


「俺がこうしている、腹も満たされピンピンしてな?

だから、それだけでオリゼが勝手に推測しただけだと証明出来る…身の潔白と迄は行かないが誤った判断を下していないと示せるだろ…

それに…

逆にお前の弁解も聞かずに俺が不条理に権力を行使したと疑ったのかと、俺を信じなかったのかと殿下側から責めすら出来るぞ?」


「オニキス、

俺をなんだと思ってる…そこまで鬼畜ではないつもりだぞ?」


「まあ…軽口が利けるなら安心だな?」

「…済まない」



平静を欠いた

オニキスに当たった…取り乱した

俺を笑わせて、

思考を取り戻させた…

そう、

ブラックジョークまで言って…


そうか、

感情で停止していた脳の機能

それが回り始めて…

臍を噛んだ。

オリゼを信じきれていなかったのは、

俺の方かと。

オリゼの友として…同じ立場だと思っていた、

そのオニキスに俺は負けたのだと感じた

オリゼに信用させておいて…

俺は何をやっているのだろうと。





「…どういたしまして?

そう言えば…殿下の傍仕えはなんでオリゼが持たないなんて言ったんだろうな」



疑問だと、

本気で不思議そうに呟くオニキスに

半目になる。

此処までオリゼが壊れる事を全く懸念していないとは…な

全く

何なんだと…

負けたと悔しく感じるより訝しく思えてくる




「…侍従と学生用の反省室はかなり違うぞ?」


「噂には聞いてる…滅多に使われないとも。

だが…ビショップから聞いた限りでも実質は暗いだけだろ?」


まあ…

密室という点では暗いか明るいか

確かにそう言ういいかたもできるだろうが…

聞いただけではな、

…実際に見ればそんな心証も吹っ飛ぶだろう



「…主従契約と言っても差異はある。

待遇にも関わってくるのは知っているだろうが、俺のはかなりきついぞ?」


「急に何だ?」

「名目も含めて貴族子息に通常する待遇ではない」



「名目?」


「監視目的と、人質だ。

その対外的な名目は同時にオリゼの心を縛る…それと」

「…なんだ?」



「そこらの代々継いでいる侍従見習い以下、

講義や自由に動ける代わりに賞罰に関しては釣り合うように厳しいものにしている」

「…おまえな」


溜め息混じりに聞こえる台詞は

…心底呆れたと言いたそうだ。


そんなこと、

オリゼでなければただの優遇措置

失態や、

規則に乗っ取った動きを…働きをする。

薄利である賞を目指す、

その厳しい罰を回避しようと抑止力になる筈だ


分かっていても…

これしか方法はなかった。

こんなことになるならば、俺が後悔するならばしなければ良かっただろうとオニキスは言いたいのだろう…


オリゼがその抑止力を考慮に入れず、

信条に従って行動することは分かりきっていた筈だと…

例え、

それが規律や契約に違反するものだとしても…

それでも己の信じたものや大事にしていることを守れなくなるならば…

自らを省みず行動に移すことも、

その危険性を知らない筈はなかったのにと…




「…そんな目をするな、仕方ないことだ。

それに先程オリゼは大丈夫だと言ったのはオニキス、お前だぞ?」


「…きついってそう言うことだったのか」



普段自由時間など無い侍従

それが見習いとなれば…無いと言っても過言ではない。

その対価に釣り合うような賞罰の厳しさ…

それは上に立つオニキスにも分かったようだ


それに加えて…

反省室は反省室だろうとその点に関しては解離したままの認識のオニキスに

どう説明しようかと思っていると





扉のノックの音

入ってきた姿は…

アコヤに抱えられて入ってきた姿は

何時もの強気で天邪鬼な雰囲気は何処にもない


掛けられた上着

アコヤのものだろう…

オリゼには大きいそれでも…覆いきれずそこからだらりと垂れている左腕は

シャツが切られ血の滲んだ包帯が剥き出しになっている




ゆっくりと床に下ろされて座位を保とうとする姿

アコヤに上着を掛け直されるも

体の軸がぶれるように倒れ掛ける様子に思わず声が出そうにになる

オリゼが右腕で体を支えた拍子に開いた襟元

喉元に見える魔方陣

視界のせいもあるのだろう、平衡感覚を取りずらそうにしている

  



「…オリゼ話がある、アコヤ」

「…畏まりました」


俺の指示でアコヤが陣を解こうとオリゼの目の前に膝をつく


その手に…

軽く手を喉元に添えられた感覚に体を揺らす

それは…紛れもなく反射、

体の防御反応だ。

視界が利かないその状態では仕方がないか…

思った以上に、

いや正直に言えば…想像していなかった


オリゼが理性を保っている様を、

そんな姿に…

魔力を注ぎ意の通りにアコヤが陣を消す様を眺めた




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