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ガチャ


寝に入って暫く、ようやくうつらうつらしていると扉の開く音に

意識が浮上していく

近くの衣擦れの音が遠くなっていく。

今までアコヤが世話を焼いてくれていたのか…






『アコヤ、様子は?』

「殿下」


ちらりと壁際でぐったりと寝そべっているオリゼを横目で見る。

一礼しアコヤもその視線の先を追う


「先程寝たところです。指示された件は完了しましたが…やはり衰弱しておられますね」

『そうか…』


手前に空になって重ねられた食器の様

枷類が一纏まりに置かれているのを確認する




『その様だな…しかし、こいつに素直に世話をうけさせるなんてどんな手腕使ったんだ?』


「…殿下の名前を借りました。

なんでも言うことを聞くと言った手前、殿下の指示を拒否できるのかと…無断で申し訳有りません」


頭を垂れるアコヤに

『ハハハッ…いい、頭を上げろ。それは面白い機転を利かせたなあ、ああその様を見てみたかった』

「恐縮です…ご要望で有れば是非御覧にいれましょう」


『楽しみにしている』

そう悪どい笑みを浮かべながら言う殿下




「程々にされませんと…」

『程々になんて生ぬるいな…

手を緩めた瞬間アコヤの方がやられるぞ?それと寮の…アコヤのとなりの部屋にあいつの荷物を運びいれておいてくれ。

新学期は明後日だし所望していたバックパックもそこでいいだろう』


「かしこまりました。しかし殿下、隣部屋というのは…」

『何が言いたい?対面もある、俺がDクラスでいる限り侍従はもう一人いるのが普通だ。侍従に貴族出身も居ないわけではない…意見があるなら聞こうか?』


間髪入れず被るように言葉を紡ぎ

さらに眉を下げたアコヤにそう畳み掛ける


「いえ、…しかし侍従としての資格がない上、如何されるのですか?」


『傍使えなら指導できるだろう?加えて、専門科の修了課程がなくても侍従になれる方法を知らないお前じゃないだろうに…惚けてかばいだてするつもりか?』


「…刻印後、傍使えの資格を持った侍従の指導と実務経験、専門科の試験の合格ですね。侍従見習いの刻印は殿下がなさるのですか?」

『其のつもりで算段してきた。指導は頼めるな、アコヤ?』

「…承りました」


『刻印後、二階の客室に運べ。明日の昼頃、こいつも一緒に魔方陣で学園に向かうが…』

返事をするアコヤの顔を一瞥し、歩みを進める





…カツ


『で、どこから聞いていた?』

目を細く開ければ目の前にマルコの足

上から落とされた言葉に再び目を閉じる




「…最初から」

一拍後、そう力なく体を壁づたえに起こし、膝をつき礼をとりながら言う

『ならわかるな?』

カサリと紙の音がした後

魔力の圧が大きくなり息が継げなくなる。


その魔力の注がれた魔方陣の紙を見て

ふらつきながらも返答代わりに左手の袖口を捲り差し出す


左手首の家紋と次男の黒の刻印

その隣の位置に紙が置かれる




…チリチリとした痛みにたえた数秒後、

除けられた紙の下には赤色の侍従の刻印とマルコの紋が浮かびあがっていた。

赤色は見習い…せめて侍従資格の緑までにはしないと何をされるかたまったもんじゃないな…そう心の中でひとりごちていると



『アコヤ、後は任せた』

そうやることは終わったとばかりに一言置いて、出ていった


   

ガチャリ

扉が閉まった音を聞いてすぐ崩れ落ちそうになる体を叱咤

邪魔をするプライド

そのままの姿勢で頭を垂れる

「……ご指導、のほどよろしくお願いいたします」

挨拶位はせめてしておかなければと、絞り出した



「あまり…指導は向いていないんですけどね、こちらこそよしなに」

そう苦笑混じりの声音で言われ



『あいつ…いや殿下の傍使えになれるほどの人材なら、今までその経験は少なからずあるんじゃないのか?下のものには好かれそうだと思うが…』


不審げにそう苦笑している顔を見上げ見れば

更にはクスクスと笑いだす始末…何がおかしいのかと眉をひそめる






「…オリゼ様、特例扱いと通常対応どちらになさいますか?」

ようやく笑い終え、真顔で問われた一言に合点がいく


「っ…殿下の指示された方で。俺に決定権はないはずだ」




先程のあいつの台詞から考えれば…

手を緩めるなはそういう意味で。


アコヤが意見を言ったのは何かしらの前例のせいで…

仮にも殿下の友人…友人と仮定すればだが、友人にとって好ましくないことになる、そういうことじゃないか?


自身がその立場に今からなることを考えれば悪い予感しかない

…先程の粥が喉にせり上がって来るような気分だ

殿下の名前を使ったあの言い回しというのもアコヤの性格的なものならば…





「察しがいいと言うのも酷なものですね…」

「っ…」


思考に意識を沈めていたうちに、目の前にきて腰を落とし視線を合わせられていた

顔を背ける暇もなく左手を捕られ立ちあがらせられる。




「いきますよ、客室に」

そう片手で俺を支えながら、開いた左手で魔方陣を消し、食器を拾い上げる。


先程の発言による震えか。

力の入らない体のせいということにすれば…そんなことは十全にわかられてるか

何も言ってこないことを幸いにして、もう片手は壁を支えに歩みを進める



ようやくたどり着いたらしい客室

着くなり、ベット横のベロア調の腰掛けに座らせられる


"昼間、また来る"

着替え、その他部屋の調度品は自由に使っていいとだけ言い残し、扉が閉まった。


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