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責12




カツーン

響く足音に意識が戻る


目が見えない事がこんなに不安になることとは知らなかった

誰に言うでもないが

声が出ないのも…




食事、か…?

解放…

いや、長いように感じるがきっとまだそんなに経っていない

可能性はない

…誰かが近づいてくるのをただただ待つ



誰だとも問えない

鉄格子が鳴る音に身動ぎをする






「オリゼ、貴方の部屋にある熊笹茶、少々使わせてもらいますね」


なんで…

そう出した声は空気を震わせることも響くことも叶わない


そんなにあの味が気に入ったのか?

疑問も投げ掛けられない…

とりあえず軽く頷くように頭を下げれば





「では使わせてもらいますね…ああ、それとビショップはもう来ません」


"なんで?!"

思わず頭を上げて叫ぶ


何でもないように付け加えられたその台詞に

心臓がぐしゃりと潰れる

軋み痛む



なんで…?

なんで来ない?


まさか…

もう来ないって…

もう来ないって…



殿下は…

無礼打ちなんてしないと…

何処かで期待してた

安心してた……

信用してたのに!



いや来ませんと言った…

ならばビショップは生きている可能性がある

マルコは既に処断したのか…

まて、それならばもう命はない筈


ならば執行されていない…と考えるか…

もしくは…

死罪でおかしくないそれが減刑になった?



ならば…

ならばオニキスは…?

あいつの事だ肩代わりしたかもしれない

それでもビショップは来れないならば…


いや、まて。

本当に無礼打ちがなされるなら…

普通の貴族じゃない…王族も王族の皇太子だ

減刑がされても死罪が死罪ならば…

オニキスが負ってもそれでも賄えないならば…ビショップ共々

共倒れだ…

屍が1つ増えるだけ



…っ

駄目だ!

そんなことは…そんなことがあってたまるか!


痛もうが何だろうが関係ない


"止めてくれ"と

叫ぶが

届くはずのない声

振りほどけない枷

まだそこにいるアコヤを引き留めることすら出来ず

ただ代わりに鎖が煩く鳴るだけ





ぎぃ…


見かねたのか

戸を開ける音が響く


もしや…

淡い希望を持つ

嘘だと言ってくれ


そんなことはそもそもないと…

二人とも無事だと言ってくれ


想像しているようなことはないと

俺への免罪符のための演技だったと




どれでもいいから言ってくれ

近づいてくるアコヤに

そう動きを止めて待てば




「…何をしているんです、怪我が増えるでしょう?」



目の前から聞こえてきた声

冷たく単に俺の行為を…状況を俯瞰したもの

そこには、

先程の言葉の撤回も…

俺が安心できる材料も提示されない。


待ち望んだ答えとは違うそれに身動きをすれば

出来る限りの訴えを表現した。


…それすら許されなかった。



近づいてきた気配は、

足音は…

労りも温かさも与えてはくれない


ただ四肢を押さえられ…

鎖が引き絞られて遊びが無くなっていく

加えられた戒め

何処も自由にならない…

完全に動かなくなった体


離れていく手…

無情にも戸が閉められる音





「…用は済みましたので私は戻りますが、貴方はそこで引き続き反省しててくださいね」


こちらの心情も無音の問いも気にすることなく告げられた

一方的な宣告

まやかしの希望が塗り潰されていく






そして足音が再び止まることも

戻ってくることもない


…遠くに響く扉の閉まる音

暗闇が濃く落ちる音






…嫌だ…もう嫌だ


また暗闇

また無音

止まらない思考


…もう充分だ



何処からか

悪い思考が這い寄って来る

もうオニキスは学園に居ないかもしれない

あの手当してくれた手も

粗野な物言いも…俺を心配して怒る声も


もう一生聞けないかもしれない




無理だ

知らない間にもしかしたら…と、

ここで何も出来ず

そんな恐怖と戦い続けるなんて…

暗闇は…




せめて目だけでも…

声だけでも…


目が開けば

うっすらとでも床くらい見れるだろう

声が出せれば

静寂を破れるだろう


少しでもこの悪循環の思考を、

より良いものに…

活路が、

光明が見えるかもしれない…



ただ1つ

動く口を…

何の甲斐もない

音を発する機能を果たさない、

万が一にも聞く人すら…


それでも叫んだ

叫び続けた…

慟哭

感情の発露に任せて口を開いた…


しまいには

口を動かすことすら…儘ならなくなる

無駄に渇れた喉の代わりに

乾いたはずの目隠しだけが潤ってまた重くなっていった…




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