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責6





「アコヤ、軽食と紅茶を」

そう言って出ていかせた自身の側仕え


同様に膝まずいたままの侍従も

オニキスのために動こうとしたのだろう

主、傷を…とそのままの体勢で言いかける


「発言を許可したつもりはない、俺が許すまで部屋で反省してろ。いいな?」

ハッとして

頭をあげて主人を見るその表情は

哀れそのものだが、

何か言おうと口を開こうとする…


「ビショップ、これ以上俺に恥をかかせる気か。下がれ」

それでも上訴しようとする様に見かねたのだろう

冷たくいい放つオニキス





まあ、これだけで済むのは奇跡だろうが…

普段そんな扱いはしていないのだろう

ショックを受けたのだろう畏まりましたと小さく返して

歩き出す背中は肩をすっかり落としたようだ…


大切に扱っているのがありありと分かる

退出したのを確認して

目頭を押さえ溜め息を漏らす目の前の主人






「温情に感謝する」


そのままの姿勢で動かないオニキスを放置して

持ってこさせたものを食べていると


漸く動き始めた様子に手を止めて

目を向ける




「元はと言えば全部オリゼが原因だろ?」

苦笑しながら

オニキスにも軽食と紅茶を勧める


「…悪いな、明らかにこじつけだろうあれ…」

そう言ってパンとベーコンに手をつけていくオニキスを見て

自分の分は食べ終える


追加で出てきた

ミンスパイをつまみながら紅茶を飲んでいく

確かにこじつけだ

そもそも侍従同士で傷が開いただけ。

もうひとつの理由だって本来はオリゼ…オニキスが減刑を乞える事じゃない

ただの戯れ言

張り手三回ほどで済むわけはない


俺が怒れば、

そもそも情状酌量等しない。

加えて…

皇太子の、王族の愚弄はそれだけ重い罪。

本来であれば俺個人が許してもこうはならない…

それでもこれで手打ちに出来るのは、

俺の父がオリゼに関しては裁量を任せてくれているから


それを理由に、

俺の判断の効力を持たせることが出来るからだ





「互いに苦労する」


食べ終えたところで声をかける




「朝食もまだだった…本当朝からこんな面倒なこと起こしてくれるなんてな…」


「…そんなことをする侍従じゃないだろ?」


重い溜め息を吐きながら姿勢を崩すオニキスを咎めはしない

…それだけの緊張を強いられた事は分かるからだ、

それにオリゼの親友だしな…


それに、

オニキスの傍仕えも…柄が良いとは思わないが、評判は悪くないと聞く

侍従の評判は、少なからず主人の俺らの評判にも関わる


逆もしかり

主人の評判によりその爵位だけでなく侍従の力関係も変わるそうだが…

それは置いておくにしろ、知っている情報によればかなり良い印象は持っていた






「…自慢じゃないが、出来るやつだ。普段はこんなことなんて万が一にもしでかさない筈だ」


「ああ、それには同意する……なあアコヤ?」


丁度追加の紅茶を注ぎ終えた側仕えに問えば

らしくもなくカチャリと音を立てる…


申し訳ありませんと側仕えらしからぬ失態を詫びるそれに

今回限りは無かったことにしてやると言い捨てた




「…確かに」


その様子に合点がいったと笑うオニキス


アコヤの評判は良い

それは周知のことだ…まあ俺の、皇太子付きの側仕えだそれなりじゃないと困るのはあるが…

それですらこんな状態なんだと更に露呈した。


互いの傍仕えが、

普段決して起こさない失態をするのは…




「見なかったことにしてほしい」


そうオニキスに言えば分かっていると頷き、

お互い様だと溜め息をつくその姿

暗黙の了解を互いに確認してから、紅茶に添えられた焼菓子に手を伸ばす



「そういえば今までこうやって話したことはなかったな…先日を除き、か」


昔から共通の友が、

オリゼがいるのにと言外に言えば…



「俺はそんな柄じゃないし、家柄も家業的にもと弁えてたつもりだ。今回の件でそうもいかなくなったが…」


メレンゲ菓子に手を進めながら答える

ここ数日で一気に互いに老けたようだ…


俺から恩恵を受けた立場では、

そして此処まで深く関わったのだから距離を開けておく訳にはいかないと分かっている様だ

中立の家柄、

家業的にもそれが望ましいと今の元当主の意向からオニキスもそう振る舞っていたのだろう…


まあ、その当主の指示がなくても同じだったろうな…

そもそも、権力にすり寄ってくる達でもない…

だからオリゼのことがあったとしても、

こうして食事を共にする気にもなったのだが。


話してみたいとすら、

思っていたのだ



「確かにな…俺はいっこうに構わなかったんだかな」


「あいつには言えないが…皇太子の面子もあるだろ?」

「なんでオリゼには言えないんだ?」


「あいつが自身を出しに殿下にすり寄る奴等の繋ぎになるわけないだろ…

例え下心や策がない親友の俺らにしても、俺らにその気が無かったのも手伝って紹介しなかったのは、

殿下の気を不用意に煩わすことを嫌った、避けた…きっとそう言うことだ」


「なる程ね、オリゼらしい」




「それと…俺、いや俺らか。友人として釣り合わないってほっといてくれって…授業でやった魔力量の検査以来だったか。明らかに距離を置こうとし始めたのは…」


苦い顔をしながらも、

その光景を思い出しながら話すオニキスの声は色がない

平静を保ちながらはなそうとしていることが窺える…


「"面子"を保つためにか…」


「そうだ…馬鹿なやつだろ?」


「そうだねえ…でもオリゼの良い部分でもある

優しいよ、此方の気持ちを推し量ることを…分かっていて勘定に入れないところは勘に障るけど」



そう、オニキスの体面を考えて離れようとする

家柄目的で、

そんな思惑を含んだ関係を求めた友ではない

それが分かっていても離れようとしたのは、オニキスのことを想っての行動

此方がそれを望んでいなくてもだ…


そしてそんなオリゼに、

面子に関わる俺をオニキスに紹介などするわけはない…




「そっちは…いや、聞くべきじゃないな」

「ああ、その頃のこと?

明らかな言葉も行動もなかったが、そうしたそうにしていたね」


「…そうか」


何かオリゼからのアクションはあったのかと聞きたげな、

そしてそれは踏み込んで良いものではないと言葉を納めた…


まあ、話しても構わない

そう思って言ってみれば…


子爵子息と皇太子では立場が違うから、と…

そう納得してそうな反応に苦笑する





「オニキス、オリゼがそんな奴だと本気で思うか?」

「はっ…?」


「だから、権力にかしづくかって…そもそもオニキスだって格上だろ?」

「…レベルが違うだろ」


そう、子爵と男爵の家柄の差は大きい

それでも王家と子爵に比べれば些末になる…

オニキスが言いたいことは分かるが、

その権力差に判断が霞んでいて…事実にはたどり着いていない


頭脳明晰だと聞き及んでいたけど、

やはり此処までか…



これも子爵子息として叩き込まれた生来からの貴族思考

それを取り払う事は、

そもそも取り払って考えることを思いつきはしないのだろう


それは常識だから、

貴族として、王族として生きていく俺らに外して考えることは有り得ない




「そうだねと同意したいところだけど、それは一端おいておいて。

オリゼからみれば俺もオニキスも格上、

それだけの条件に置き換えて考える…良いね?」


「いや…それはあまりにも不敬が過ぎる」


「ならば、学園の理念を利用しようか…

此処では同学年の学生間に家柄の差はない、平民であろうと家の格の違う子息であろうとも同列に扱うと。

…例え理想だとしてもそう考えれば気が楽になるかな?」


「…ああ、それならば」


そう、納得出来る筈だ

オリゼにそう接しているオニキスならば…


格の違いは、許す側の上の家柄であって…と言いたいのだろうが、

それを言えばオリゼの立場がなくなる。

親友として仲が良いことは聞き及んでいるし、

学園内で見掛ける限り見下している様子もない…


なにより…

オリゼがオニキスにそれを理由に遠慮して距離をおこうとしたことに怒る理由が消えるからだ

親友足り得るのはこの学園の理想を利用したものだから。


学生の立場で家柄の格差を肯定すれば、

学園の理想を否定すれば…それはオニキスがオリゼに"親友"というものを強制させていることになる。


矛盾する…

オリゼからの自身(オニキス)に向けられた親愛の感情を否定する

そんな、無体なことを言える筈はない




だから…

俺がオニキスに家柄の差異を学生として認めはしない、

理想を強く否定してまで…俺を同列と、そう考えることを受け入れざる負えないだろう



「まあ、理想は理想であるけれど…

だから実際そうならないことは分かっているよ。

それでもオリゼはそれを利用してオニキスや俺と関係を持っている…友人を辞めようと離れていくこともそこに王族と子爵の差はない筈だ」


「ならなんで…」


「オリゼが俺と関係を持ったのは…

きっかけは兄であるアメジスがそれを口添えしたから、そこに何の交換条件も契約もないのにオリゼは勘違いして強制力のあるものだと未だにそう思ってる。

いや、俺の態度から鑑みて認識を改めている筈だから…今では思おうとしていると言うのが正しいのかもしれないけど…ね」


「…」

「だから、万が一にも兄に不利益が降りかからないようにとでも思った…それがないことは分かりながらも…

兄の気遣いを蹴ってまで、仲良くなった俺に何も言えなかったし行動に移せもしなかった」


「それ…聞いて良い話なのか?」

「困らない、

きっかけに過ぎないし後でその思い込みすら許さないと全否定するからね」


「いや…」

「ああ、

オニキスなら心配ないと判断しての物だから…これまでの俺の態度をみれば分かるでしょ?」


「分かりたくなかった…」



踏み込んで良いものではないと言葉を納めた

そんな内容に深く踏み込んでいることに気づいたのだろう

及び腰になるオニキスが、

なんでと聞いてしまった…話を更に促してしまった判断を間違ったとでも思っているに違いない



「まあ、そんな釣れないこと言うなよ…

オリゼの親友だからって、無条件で話すわけないだろ?」


「知りたくない…」

「くくっ…どこの貴族だってやっていること。

性格が合う合わないの問題の前に調査くらいしている、自身の立場の重さにはこれでも気を付けているからね…」


「御見逸れしました…ここら辺で容赦してくれると助か「しないよ?」…おい」



聞いたこと、

それは俺が構わないと言っても俺の…将来の王になる弱味

加えて俺がそう判断したのは、

気の迷いではなくオニキス自身の事と家について調査した内容を判断基準としているから…

つまりは、

此処までの話の流れから考えて取り込まれる事を危惧したのか、

少なくともこれまでの様に無関心で関わりが薄い状態に戻れはしないと察した


だから、

思わず飾らない言葉が出たのだろう…



「おいって…まあそれ位で良いかな?」

「…いや、聞かなかったことにして下さると…」


「そもそも礼を失している訳ではなくとも大半の発言が敬語ではない、加えて居ずまいも崩しに崩してるオニキスがそれを今更言ったところで大差はないと思うけど?

…気を抜いているよね、

過度の緊張から解けたとは言えそれを与えた俺に」



「…っ」


恐怖

それを過度な表現ではなく顔に張り付けたオニキスに表情を緩める

少しからかっただけだったが、

まあ…機嫌を損ねて俺の判断が変われば、

先程の事を白紙に戻して刑罰ものになればと危惧したのか…

血の気が失せていく様子に、

やり過ぎたかと反省もする。


「ふふ…本気にした?

そんな気があるならとっくにオニキスは此処には居ないよ、

…ああ、脅しじゃないからそんなに怖がらなくて良い。

懐に入れるつもりがなければ酌量はおろか、そんな相手に料理も振る舞わない

会話もはずまないし、学園の理想なんて持ち出さない。


ま、そんなわけでだ肩の力抜きなよー?

オリゼに関する話をするときは…気が抜けるし、その他の事が手抜きになるのも分かるからね?」

「…」


過度に柔らかくした口調

幼くすら聞こえる間伸ばしすらすれば、俺がオリゼ抜きでもオニキスと関わりたいという姿勢は感じ取れたらしい…

悪いようにするきはないと、それも含めた


だからだろうか…

少し力も抜けたようだ





「で、話を戻すよ?」

「…はい」



「だからね、そんな俺にオニキスを紹介するわけない。

距離を置こうとするオニキスに、距離を保ったままの俺に…例えオニキスがその極意を指南して貰おうと仲介をオリゼに頼んだとしても断っただろうね」


「…つまり、オリゼはそこまで思い詰めていたと言うことか?」

「まあ…だから、

それを武器に無理をさせることはしなかったよ。

講義の単位や、最低限の事に関しては友としての立場を…それすら利用したけど…オリゼが思い詰めて自己に刃を向けることになる事は避けたかった」


「…最低限の?」

「知ってるよ、オリゼがオニキス達をはね除けている時でも俺の誘いには乗った。だから…あまり良い感情を持ってなかったんだろ?」


「…それは」

「気にしてない、と言えば嘘になるかもね。

俺はオニキス達のように振る舞えなかったから、互いの持ち得ない物を羨んだのはオニキスと同じだ…嫉妬したんだよ、これでも」


「…嘘だろ?」

「どんな風に思ってくれても構わないけど、俺だって人間だ」



「そうか…まあ、

そうじゃないとオリゼから仲良くならないか」


諦め気味に、

半場投げやりに納得したようだ。


此処まで会話してきた俺に対する印象、

そしてオリゼに関することは、

常識や噂を信じて判断がつかないことを知っている。

それらを含めて悟った様な顔になるオニキスに少し分かると、

同情ではないが…

俺も規格外のオリゼに何度振り回されたかと、

苦くも楽しい…思い出が頭に浮かんできた





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