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責5





懲罰房にやったアコヤが戻ってくる


ただならぬ雰囲気を出す、

繕うのが上手いこいつには珍しく…隠しきれていない



何かあったのかと、

視線をやれば…深く最敬礼をする



大変申し訳ありませんでした


そして

そう言った後促すまでもなく、

続けて状況報告してきた…





何やってくれたんだ?

…事の次第を聞いていけば、

何て事はない。

オリゼの処置に関する事が火種に…

餓鬼がするような口論に最後はなったらしい


大人げない事をした自覚はあるのだろう

恥じていると、

項垂れる様に頭を下げ続け横に立っている側仕えをみる




普段の冷静沈着さは何処に置いてきた?

人間らしいとは思うが…


最高ランクの侍従である筈のこいつが、

此処まで羽目を外したのは…

自制心を欠いたのは

部下であるオリゼが絡んだせいか…

これでも部下であるあいつを守ろうとしたのだろう、

責であっても目をつぶれる所にはらしくもなく瞑って甘い対応をした

それを言葉にする事はなくても、

状況を説明する話の内容から、それは直ぐに分かる



厳しいアコヤにしては

心を割いて…

最大の配慮を施した。

それに異論を呈されれば…

オニキスの侍従に言われた事に怒りを覚えたのか…


そもそも、

杖で打ち据えた後傷の手当てもせずに次の責を受けさせることに反対した。

懲罰房の鍵の使用許可を求めながらも俺に止めることを望んだのは、

他でもないアコヤ


それを止めなかった、

オリゼが責を受ける覚悟があるならば受けさせろと…俺がそう指示したからだ

配慮をと、

食い下がって忠言までしてきたこいつに

手当てはさせると約束までした



その上で配慮がないと、

その背景を知らない若輩者に…

遠慮なくセオリーを崩したオリゼを第一に考えるような侍従の台詞



遺憾に思ったことだろう…

こいつとしては本来であれば規定範囲を越えた扱いをオリゼにしている

責であれば、

甘さや手加減をすることはない

手当てなど、

後遺症や命に関わらない限りその最中に施させたことはない


…俺が知る限り、

今まで見習いとして屋敷でこいつに付いた奴等にはそうしてこなかった

決まり事ならばそれに習う、

責を受けるのがアコヤ自身であっても手加減は要らないと何度言われたことか…



だから、

異例なのだ。

香油の使用も処置が過ぎる

体を支えたことも、必要がない

左腕を吊り上げなかったことも…右手ですら鎖の遊びを残したらしい


オリゼが貴族子息だとしても、

それに対しての忖度や考慮から手を緩める事もない

そんな性格ではない。

だから…考えられるのは、

ただ自らが教育する見習いへの情


それがらしくない振る舞い、

判断の理由だろう…



その上で他の家の侍従に、

痛みや体調、傷の悪化を含むことが責だと捉えるのかと言われれば…

それに含まれた、

直接的ではないにしろ俺に対する批判を汲んだ台詞に

…激高した




らしくない振る舞い、

多分それでも足りず…アコヤはもっとオリゼを甘やかしたかった筈だ


それ以上の甘さを破格の扱いを躊躇なく実行する…

淀みなく視界の中で行われる優しい処置にも…


見せつけられたとでも思ったのだろうか?

制止を掛けなかった

それどころか何を考えて行動したのか、アコヤはその間オリゼの体を支えたのか…


羨んだのか…

融通の効かない、

そんな自身に何を思って…


…馬鹿だな

まあ…

珍しくもこいつが情に左右された振る舞いをすることも、

感情に任せた行動をとることも…俺は知っている


限り無く、

そんな様子は見せはしないが…

それでもアコヤらしい優しい部分を俺は知っている




「はぁ…オニキスの部屋番号は?」


そう言って立ち上がれば御案内致しますと…


未だに顔を上げようとしないアコヤに、

一人で行くとそう言って

腰を浮かせ、

歩き出そうとしたちょうどその時



扉がノックされる


「アコヤ」


タイミング的に…オニキスか、

考えることは同じらしいと…

硬い表情のアコヤに対応するように目で通すように促して

ソファーに座り直した








「…この度は私の侍従が無礼を働いたようで…大変申し訳ありませんでした」



入ってきてそうそうに頭を下げるオニキスに呆れる

入口も入口、

扉から数歩も離れていないところで…


そんなところで詫びられても困る

此方にきて座ってくれ

そう促せば


床に座ろうと、

此処というのはそこではないと…頭を床につけそうな勢いでそうする挙動を、

行動を止めてソファーを指し示した




「申し訳ありませんでした」


目の前のソファーに腰をおろすなり

膝に手を付いて謝る様子に更に溜め息を重ねる




「頭をあげろ…こちらこそこれ(側仕え)がそちらの侍従に迷惑を掛けた。私の顔に免じて許してやってくれないだろうか?」


怒らせて助長させるように対応したと聞いている

そう頭を上げたオニキスに

後ろに控えたアコヤをちらりと目で示す




「許すも何も…私の侍従が不敬を働きました。目に触れさせるのも難だとは思いましたが…好きなように裁いてやってください」


後ろに控えているビショップに目をやって

膝をつかせるオニキス

此方は流石に床だ…

がくがくと

錆びたブリキのように動き額づく様子は可哀想だが、それが道理だ



「…わかった」


視線をもどし、

目の前のオニキスが頭をまた下げる様子に

溜め息も漏れる



「しかし貴族どころか王族に対する不敬罪です……これも元はと言えば私の指導と不徳が招いたこと…どうか私に肩代わりを」


首が飛ぶ…その言葉通りに重罪足り得る

侍従の立場ではそうだ

しかし貴族の主人が肩代わりをすればかなりの軽減とはなる…

面子が潰れるからだ

貴族としては致命傷となる



それを知っていて、更に実行に移す貴族など聞いたことはない

古びた法だ…仮に知っていても使用人のために態々そんなことをする貴族はいない

そして使用例はない





「頭を上げて良い…ではそのように取り計らおう」


何卒…そういい続ける様子に

大切な使用人なのだと分かるが…

身を投げ打つような覚悟までするとは…ある意味感心する



ありがとうございますと

頭をあげるオニキスにこちらも言うべきことはある


「…ああ、私としたことが失念していた」

主…そう呟き続けている

自責の念だろうか

オニキスの後ろで震えている侍従の姿をみながら


なんでしょうかと聞いてくるオニキスに目を戻す




「そう言えば私も肩代わりをしなければならない。オニキスが解放していた友人を先日側仕えが傷を悪化させた…手間と追加の薬代、主人として責任を取ってもいいだろうか」


「…」


「それと、今日も含め、ここ一週間見習いの手当てをしてくれているそうだな。感謝している…対価は減刑でいいだろうか」


「…なっ」


漸く理解が追い付いたオニキスが抜けた声をだす

ニヤリと笑いながら促せば

そのように取り計らっていただければ幸いだと

言質を取った





「じゃあ、これ等を甘味して…鞭はないな…張り手でいいか?」

呆気にとられているオニキス…

こちら側に回れと言外に伝える



近づいてきたオニキスが、傍に膝立ちになる

三度、手加減なく頬を張る

床に倒れ込みそうになったオニキスにその手を差し伸べて

立ち上がるように促した





「…ありがとうございました」


深く礼をするオニキスに

他に目撃者が居ないことが幸いだと苦く笑う

周りの目があれば、

俺としてもオニキスとしても厳しい処置をしなければならなかった…



私刑で終わらせられたと

これで手打ちとしよう


未だに頭を下げ続けるオニキスに

これで水に流すと言って

あまり言うべきではない台詞を、

そもそもあまり怒ってはいないと迄言って…再びソファーに座らせた



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