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晩餐





さて、俺も着替えるか

二人を追い出すことに成功した後、

やろうと思っていたことを済まそうと行動を開始する。

先ずは…

制服に着替え直して、買ってきたものを片付けるか…



風呂敷から雑紙を出してそのまま机の引き出しにしまう、

瓶をあいた風呂敷に包んで、紙袋に入れる。

野菜も…後でまとめて洗って処理しようと一纏めにした


脱いだシャツとローブは…

面倒だ、机の端に追いやる

散らかしたままの講義資料を本棚に戻していれば

早くも二人が戻ってきた


買ったものの検証は食後に回したようだ

早めの夕食、

…どうやら人目が少ない内に済ませてくれるらしい









この夕飯食べたら、二日は質素倹約だな…

そう思いながら、

席についてメニューを眺める

まあ…眺めるだけで注文は出来ないんだけど




運ばれてくる料理

オニキスが頼んだコースの通り



…前菜のカプレーゼ

ほうれん草のスープ


アンチョビの冷製パスタ

鹿肉のソテー

季節野菜の煮こごり寄せ


チーズ三種に

リンゴのタルト

そして食後のコーヒー



…最後まで食べ終わっても変更なし

何か改変をしてくるのかと何処かで身構えていたが、

普通過ぎる…

肩透かしを食らった。




薬膳コースもあったにも関わらず、

それをオニキスは選択しなかった…


だから何かしらの行動に移す、

違うメニューが差し込まれると思っていたのに…

食べ終わったが、

一見、いや考えてみても俺の体に…大きく効能や回復に効く物は無いからだ



それにも関わらずこのコースにした理由は…


ここ数日で

食べ損ねたジビエ、

好きなタルトに許されなかったコーヒー

カプレーゼのモッツァレラやチーズ三種は、

俺がチーズ好きであるから…

だからこそ、薬膳ではなくこのコースにしてくれたことはすぐに気付いた



オニキスにしては甘いんじゃないか?

コーヒーを飲みながら雑談する二人



そして俺も…

改悪されることもなく、趣向にあった料理を胃に納めてホット一息

…久々のコーヒーの苦味と薫りに目を細める


…酸味の少ないブレンド、

分かってる…流石、俺の親友だ。

注文の選択権は奪われていたとしても、

俺にどれが良いと聞くこともなく…

オニキスは俺の嫌いな酸味の強い銘柄を頼むことはなかったのだから…


それでも、オニキスは

丸薬は忘れなかった…残念。

しっかりしているのだ…手を緩めていてもオニキスのそういうところはやはり変わらないか…



失念も手加減もされず、差し出されたそれを…

眉をひそめつつも俺は迷いなく飲み下した。







外に出ると

…完全に日が落ちてひんやりとした空気

結構遅くなったな


食事らしい食事を、

満喫したからか時間が多く経ったらしい


二人と別れて自室に戻る。

制服を脱いで浴衣に袖を通す

やることやってしまおう…羽織を引っ掛けて紙袋を抱える

余分に描いておいた乾熱魔方陣と乾燥魔方陣の紙

それと石鹸と布切れも掴んで部屋を後にした




給湯室

備品のまな板とナイフを出して…

野菜を袋から取り出していく

蕪に人参は半月に…乾燥魔方陣の上に洗った風呂敷を被せどんどん置いていく

椎茸は軸をとって細切りに…

後は魔力を注いで…



洗って乾熱処理した瓶にそれぞれ入れていく

これでとりあえず当面はもつ

ついでに紙袋に入れてきたトウモロコシ粉は…

あ、コッヘルは上の使用人部屋に置いたままだったか


備品でいいや…

壁にかかった小さなパンを火にかける


そこに水で練った種を匙で掬って垂らす…

薄く広げて焼いていけば

思ったよりカチカチに固くなってしまった



…まあ、ふやかせば食べられるだろ


出来上がった物と瓶を風呂敷に包んで

洗い物を済ませる





さてと後は清拭して…

そう思って荷物を抱えれば


「…何しているんだ?」

背中からかけられた声


「…お疲れさまです」

ビショップか…

荷物を抱えたまま会釈する


見れば

先程下げに来たティーセットを持っている

二階の給湯室が込み合っているのか、

一階に来た理由は分からないが…そんなところだろう


洗いに来たのだろうそれを持って立っていた

気付かなかった、

俺が終わるまで…順番待ちしていたのか?




「…すみません、流し場どうぞ使ってください」



避けて場所を開ければ

「…俺にまで敬語なんて使うんだな、意外だ」


「っ…、曲がりなりにも見習いですから」

「へぇ、今まで主人でもないのにあんだけルークと俺を我が物顔で使い走りさせたくせに急に態度を改めるってか」



譲った流し場で、

ティーセットを洗う手を止めずに言い放たれた台詞…

そんなことを言いながらも、

オニキスの侍従、傍仕えとしての業務の遅れを生み出さない姿勢に…

此方も意外だと、

言葉にせずとも思ってしまう…



「…その節は大変申し訳ありませんでした」

頭を下げるくらい減るもんでもない

膝をつくくらい何でもない


プライドをねじ伏せて

膝を落とし頭を垂れて侘びるが

なんの返答もなく頭上では微かな食器とすすぐ音が続く







「いいザマだな…ああそれと、普段は俺らや使用人相手にも出さない疲れた顔をしてる…あのアコヤさんがだ」


「…っ」




水音が止まる

それから暫く…洗い終わり、布巾で水気を拭い終わったのか、

低い視界に靴が現れて言葉が降ってくる。


俺を貶す言葉が向けられると覚悟していた

が…それも一言

予想外の発言に

嫌な予感しかしない…

殿下のことを放置したまんまだ…あの後どう世話をしたのか、

殿下がどうしているか怖くて確認もしていない



「おまえ…」

「御気遣いなく…此方の事情です」


つかえる喉を左手で押さえて堪える嗚咽

不用意に関わるなとはねのけた、

仕える相手が違うのだ…下手に首を他家のビショップが突っ込んでやぶ蛇を起こす程度で済むわけがないのだから。


はあ…

明日から、ただ業務をこなせば良いと…

知らぬ顔をして裏方だけやってればいいかと思っていたが、

…事はそう待ってくれないようだ。

事態は思ったより差し迫って解決しなければならない局面迄来ている、

殿下は…






「ちっ…俺の主人が心配してる、右腕すらまだ癒えてない内にまた傷なんて増やしてみろ…許さないからな」


「…はい」


ビショップも俺が何かしらの責から免れないだろう事を予想しているのだろう

そして俺の様相から、何か感じ取ったらしい…


まあ、その予想は的中する。

確実に何事もなくなんて有り得ない、許されないだろうな…と

契約書の文言が脳裏に浮かぶ





遠くなって行く足音…充分に聞こえなくなるまで待った。

頭を上げて…ビショップが居なくなったのを確認してから、

立ち上がり、

…中断していた事をするために更衣場に足を向ける



汗が気持ち悪い…

清拭して拭いとっていくも

晴れやかな気分にはならない。

スッキリとしない理由は、分かっている…

脱いだ浴衣と羽織も布切れと一緒に軽く洗って魔方陣で乾かしながらも思考を巡らせた






使用人部屋に戻って荷物を置いてから

すぐに布団に入る…

少しでも体を休めておくべきだと考えたからだ

明日からは、

辛くなるだろうから…


…駄目だな

明日明後日は少しばかり時間の余裕があると思ったが…

オニキスとの約束守れそうもない

そして口が乾かない内に、

ビショップに言われたことも破ることになる



分かってる、

きっと…食べる暇もない…

休憩時間もない

だから…傷の処置も自身ですることはおろか

悪化してもオニキスに改めてしてもらう時間は多分、ない


それでも

きっと己に残された猶予はないのだと、

行動に移さなければと心に決める。

そう、見習いとしての責任を果たす、

殿下やアコヤに対する人としてのけじめをつける


…考えないようにして逃げ続けた自らに

少し早く寝たくらいで帳尻合わせにもならないことを薄々気付きながらも埋め合わせとして、言い訳にした…


そう、

あちらから責を問われる前に、

自身の意思で行動すると判断を突きつけたのだった…




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