講義2
そう…
自身の余計な一言のせいで
目の前に広がるは…鱸のスープ
A定食の汁物
グラタンと大好きなババロアは何処に行った…
メインとデザートは何処へ…
B定食を注文しようとすれば
オニキスにすかさず変更を余儀なくさせられたのだ
量だけは立派だが…
彩りの青菜と鱸を交互に食べていく
ホロホロと崩れる白身
歯触りのいい青菜…体に染み渡るように美味しい
量も調度良い…
美味しいことは美味しい
だが、好物を食べられなかった事が何よりも…無念でならない
食べ終われば緑茶
そして丸薬…
…飲めばいいんだろ、飲めば
さっさと飲んで立ち上がる
今から行けば
選択講義の前に、基礎講義の復習をする時間はあるはずだ
「お先に失礼します」
呆気にとられた二人に会釈して辞する
大人しい患者になってやろうじゃないか
たった一週間
飲めば過ぎる…耐えれば治る
少し傷む左腕
無意識に動かすこともない…出来ないの間違いか
そのせいか痛みはかなり軽減されている
今日は
少し風が冷たい…
雨こそ降らないだろうが、
厚い雲が空を覆い日中であるのにも関わらず薄暗い
そんな外気に触れながらも足早に特別棟に向かう
音を立てる扉を引けば
案の定、使われていないのだろう
窓際の最前列…その机以外埃が被っている
気が楽でいいか
机に広げて復習していく
苦手な算術
覚えにくい歴史学
…そして諦めたはずの魔方陣
一息
ひとしきり終わった頃
がらりと扉が引かれる
「…本当に来るとはな」
人気がないからか…
それとも今までの俺の講義出席率のことか…
「講義…よろしくお願いいたします」
俺が居たのに驚いたのだろう
教授にそれだけを返す
…
…
教卓ってなんのためにあるのだろうか?
机の目の前にいる教授
片手に教本…窓際の壁に持たれながら立っている
予習しといてよかった…
知っている知識を…今のレベルを知りたいそうな…
至近距離で見られながらも
遠征練習の知識と
古い教科書で読んだことをありったけ書いていく
…
こんなもんか
終わりましたと書き終えた紙を差し出す
立ち上がる必要もないのにビックリだが…
まあ、この体調では
これも助かるか…
が、それを考慮した行為でないことは何となく察する、
これはこの教授のやり方なのだろうと。
毎回これでは気を抜けないな…
一対一に加えて、
ただ黒板に講義内容を書かれ一方的に進められる形式でないことは直ぐに分かったから、
身の入らない態度では講義すら始めてくれなさそうだ
さらりと目を通す
そりゃ書いているところも見てるんだ
確認程度だろう…
そう思えばその通り、
すぐに確認は終わって…
返された紙を指差しながら
補足点、訂正が繰り返される…
その度に書き加えていく
火口に適した植物
川辺での野営の危険性
飲料に向く水の確保
川の選び方
濾過方法の選択、各々の濾過に用いる材料
口頭で伝えられるそれを
必死で書き留めていく
元々聞き取るのは苦手
加えて万年筆とは違い、ガラスペンだとインクを浸す度に書くを止めるのもある
勿論、多少は待ってくれる
聞き直せば復唱してくれる
…ただ、基礎講義のような何処か緩い空気はない
自身が選択したんだ
やる気も学ぶ気もないなら…
そんな雰囲気はあるのは当然か…
まあ、こちらとしても折角なけなしの金を払ったんだ。
本当に市井に下るなら必要な知識だ
それが安全に、実地でもなく…
差し迫るような緊急性もなく学べる
食い付いていけるなら、行けるところまでは行こう
もし…もし未来が明るいものだったとしても
侍従や有事の際に役に立つ
何事も噛っておいて損のある知識は、
講義内容はない筈だと紡がれる言葉を書き留めていった
…今日はここまで
その一言に礼を言う
…
ギルドにいって金を稼ごうなんて…
気が早かったな
扉から出ていった教授を見送って、
そんな感想に一息付いて眺めた窓の空は既に茜色だった




