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消えた有給



あれは今から一年前、

初等科に入学した皇太子が長期休暇の際、兄上を訪ねて俺の屋敷に…邸宅に来たときの話だ。




この国の通例では初等科、中等科、高等科の後、貴族子息子女は成人扱いとなり貴族社会の一員として組み入れられる。

全科の組分けは初等科初年度を除き、

貴族階級のみではなく各年毎に成績や素行、道徳的な要素も甘味されて振り分けられる。



初年度の皇太子は勿論最上位組

男爵家次男の俺は当然最下位組


同じ科の組毎に各学年の競技対抗や遠征対抗、その他職業訓練等が行われる。




男爵家長男としては異例に近い最上位組の初等科最高学年であった兄に、なにか学園での情報を聞きに来たのだろうと、軽い気持ちで貴賓室に足を踏み入れた。


そう…

勿論両親の差し金によるお茶請けを持たされて…


…入室した。


だが、

話があったのは皇太子ではなく兄。

それも皇太子を呼びつけるに飽きたらず、

同学年の次男(俺)に目をかけてやってくれないかという有り難い…有り難い…話題を調度していた時に…

間が悪いにも程があった。



6つ歳上の兄に対してその条件について交渉している際の言葉の運び様は

…同年の皇太子に敬意を越えて畏怖しか感じなかった。


話したこともない

見掛けたことは、入学式で新入生代表として答辞を読んでいた姿のみ。

半年ばかりの学園生活で関わり等なかったのは…

組も能力クラスも違うから接点など持ち得なかった

だから言い訳するならば

…初対面で固まったせいもあるが…



そんな入り口で略礼すらとれず、

棒立ちになる俺に対して、責を問う事もなく即座に口調も態度も年相応に変化させる胆力…


そのような相手(皇太子)に兄がどのような対価を差し出したのか聞くことは今でも出来ていない。




それからは

そして貴族階級の壁がない、砕けた口調も態度も許された今までの親しい間柄…その゛友人゛が契約の中に入っていたならばと。

友人自体が契約であったなら、そんな寂しいことはないと…

そう思うように今となってはなってしまった

最初は高飛車で八方美人な…

関われば身分差で体面も交遊関係もきっと面倒になると思い、

マルコと必要以上に関わらないと考えていたにもかかわらずだ


危惧していたことは何もなかった

俺を連れまわしもしない、

驕ることもない…

交遊関係も何のしがらみも発生しなかった。

ただ、他愛もない雑談を、

初対面の時の畏怖など微塵も感じない…

そう…普通の友として俺に接してきたせいだ



だから…

あの兄が作ったきっかけがなければ親しくなりはしなかった筈なのに、

それがなく本当にただ仲の良い親友であって欲しいと…

そうあちらも思ってくれたらと不相応に思うようになってしまったのは何時からだったか…


果たして…契約が破綻したと仮定した場合、兄は何を代償として皇太子に差し出すのだろうか…?


思えば、兄が皇太子の邸宅に出入りできるのも可笑しな話だ。

それも地下のここに…

兄は何者なのだろうか?


いや、

…深くこれ以上は考えたらいけない気がするな…

何処か深く考えないようにしていた、疑念

胸の何処かで巣くっていた闇

俺と釣り合わない友人


家柄だけじゃない

ここ一年で感じてきた…


能力

才能

それを磨く努力も怠らない…

天地の差が更に広がっていくというのは必然だ


こんな場所で考えれば…

加速する


いや、止めよう

別のこと…別のことを考えよう…



あ、

そうそう

学年末の職業訓練は各科、各学年で日程が決まっているんだったよな…

基本手当てが支給される他に追加手当が出る場合、

評価分の賃金の上乗せか有給を各個人の選択制でだ。


追加手当てがでるのは例年上位150名ほど。

初等科初年度に勲章が貰えるのは更に少なくなる…




…兄からの手当てに関する条件に関してのアドバイスがあった

とはいえ、5日も期待もしていなかった有給手当ての上乗せ、かつ勲章の授与。


初めての給金…基本手当てで買った新しいギア(道具)

有給で、野営しようかとせっせと初等科の寮の部屋で、色んな計画をして楽しみにしていた野営。

訓練で入った森林帯に気になった場所で誰に気兼ねをすることもなく自分の時間を過ごしたい


こんな己なりに、

上等な結果を出せたのだからと浮かれて…

…そう思って初年度に支給されたバックパックに手を加え、ギアの組み合わせやら創意工夫して使いやすいように改良した。


それを使うことを心待ちににしていた…

だけど…

そんなバックパックを今の状態で所望して役に立つかと言えば、否。

後ろ手で戒められたままでは、とうに目の前の静かになった魚も水に浸った生米も肉もどうしようもない。


バックパックの外に吊るしたシェラカップなら、なんとか外して水を貯めて啜れる位は出来るだろうが…

それを扱う手が不自由であれば意味はないからだ




魔方陣で出る水はすぐ地面に広がり、

浄化されすぐに消えて嘗めることも出来ていない…


からから過ぎて、ろくに唾液すら出なくなったが、

できれば…できればマットと寝袋もだして

焚き火台で肉と魚を焼いて食べて…水もがぶ飲みしてそのまま寝れたらどんなに幸せだろうか…




うつらうつら、

糖か水分か…不足したせいでぼうっとする頭で考えながら

今度こそ中断されることなく

…せめて夢では

満ち足りた環境かで安寧が…そんな物をあの夢の続きを見られるよう願い


瞼を閉じた…




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