回収7
黙っていると
アコヤが新しいシャツを持ってくる…
無言で受け取って腕を通す
もう処置は終わったかと思って
立ち上がろうとすればオニキスに制される…
「三角巾で吊るからな…どうせ勝手に動かすだろ」
シャツの上から固定し始める…
されるがままに見ていれば…
これって…
俺の知る吊り方じゃないんだけど
そもそも吊ってないよね?
体に沿って固定されていく左手を見ながら
…これじゃあ拘束されてるみたいだ
なあ、右手の可動域でせめて結んでくれよ…
ぶつぶつと文句を言っていると
「俺が外せれば問題ないよな?」
ぼそっと囁くように言われた言葉に黙る
壁伝いに体を起こして、脱ぎ捨てられたはずの上着を探す
…うん、安定のアコヤですね
横から差し出された…
右手で綺麗に畳まれたそれを受け取って引っ掻ける
内ポケットには…
しっかりと鍵が戻っているようだ…
右手でその感覚を確認してゆっくりと歩いていく
固定された左腕のせいでバランスが取りにくい…
テーブルの前までつけば
腕組して目を瞑っている殿下に…泣いてるラピス…
どうしたらいいんだ…
手付かずのお茶請け…ほぼ減ることもなく冷めた紅茶…
側に控えるアコヤもルークもそれを下げようともしない…
「……」
後ろを振り返るも
…片付けているオニキスとビショップは此方を向こうともしない
「殿下……大変ご迷惑おかけしました」
膝をついて詫びる
「…それだけか」
「心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
「…それだけか」
後は何があるんだ?
…
「時間と手間を…「そうじゃねえだろ」」
目を開けた殿下
「…申し訳ありません」
これ、もう皇太子の普段の殿下の仮面外れてない?
「なんで"俺"が怒ってるか分からないのか」
「…分かりません」
長い溜め息…
冷えた紅茶をあおる殿下
「じゃあ…ラピスが泣いてる理由は?」
「…心配しているからだと思います」
「それと?」
「…自責ですね。自身が負わせたと思っている怪我であんな様を見せられれば責められてると感じても仕方ないでしょう」
「何とも思ってない相手にそんな心を割くか?」
「俺…いえ私は"大事な友人"…そう思われていると思います」
「…だってよ、ラピス」
後ろから来たオニキスが言いながらソファーに座る
「…オリゼらしくもない台詞」
泣きながら笑うラピスにホッとするも
目を戻せば苛ついている殿下…
「…そんな相手が迷惑だの時間だの手間だのと謝ってくること自体検討違いなのは分かるよな?」
「…ええ、わかります」
「じゃあなんで"俺"が怒ってるのも分かるよな?」
…
…
「……」
ラピスと殿下が怒る理由が一緒って…
友人を否定したのは殿下じゃないか?
理解できないと無言で返せば
「もしや…啖呵切ったあれ、本気にしてるのか?」
溜め息混じりに聞いてくる…
何を今更…
「…」
「ちっ…お前な"俺"がどこかれ構わず不遜な態度だろうと口調を許してきたのがアメジスの為だと思ってないか?」
「…兄上とそう言う契約をしたのでは無いのですか」
単に疑問を返す
それに甘えてついには友人だと勘違いした俺が悪いだけの話だ
啖呵だって、
その振りをするのも疲れたと釘を刺してきただけだろう…
分かりきっていることを聞いてくる殿下についに首をかしげる
「…本気でそんな風に思われてるなんてな…
ラピス…夜遅くまで邪魔したな、そろそろ失礼する」
立ち上がり、
二人に向かって言う殿下
「いえ、また機会があればどうぞ」
「…ああ」
泣き止んですっかり復活したラピスが返答したのを見て
短く返す
出ていく殿下に付いていくアコヤ
…
その後に、よろりとしながらも立ち上がって…
付いていこうとすれば、
「お前は…答えが分かるまで付いてこなくていい。それまでは顔を見せるな」
振り返って言い捨てられた言葉に固まる
…愕然としているうちに扉はとっくに閉まって…
…
気を取り直した、
気づいた時には既に二人の姿はもうなかった…




