回収2
ドサリ
捨てるように運び終えたとばかりに手が離される
ローテーブル横に無惨な姿のまま崩れ落ちる
激痛
左腕から落ちた…
思わず傷口に右手が伸びて庇う
…反射だ、漏れた呻きも
ここまで近ければ聞こえたに違いない
そのまま痛みに耐えるように身を縮める…
折角洗濯したばかりのシャツもまた洗わないと…
包帯だけで上から布切れを巻いていない
…後は数時間使用人部屋で控えるだけだと割愛した
油断した…
だから滲むに決まっている
清拭したばかりなのに汗も酷い
何してくれるんだ…
二度手間じゃないかと心のなかでアコヤに罵声を浴びせていると
「…ああ、左腕か?」
殿下の声が降ってくる
「ええ…友人を呼んでも構いませんか?」
心配そうな声がこちらに降ってくる
「構わない、傷も確認出来るし都合がいい」
二人の会話を聞いて
意を汲んだルークが退室していくのをまた横の視界で認める
「…ラピス、俺の傍仕えが恥ずかしいところを見せた。少し構わないか?」
「構わないよ」
いつも通りのラピスの声音
窶れた顔だったな…心配したがこれなら大丈夫そうか…
引いた痛みとラピスの様子に一息ついていると
「…はあ、アコヤ。発言を許すが…何をそんなに怒っている?
手荒に連れてこいなんて言ってはいないし…わかっているはずだよな?」
「…申し訳ありませんでした」
「訳を聞いている」
「…今朝早くに、先日の傷を心配されたのですよ」
「ああ、お前オリゼを庇った傷のことか?」
「そうです…昨日今日と左腕を庇っているなとは思っていましたが筋でも痛めただけかと聞かずにいました。
……私の傷を心配するより……薬代わりだと緑色の液体を人に飲ませている暇があるなら、軽く傷口から落ちた程度で激痛が走るほどの自身の傷を心配すればいい」
押し殺しきれない怒気の混ざる声に優秀な傍使えは何処に行ったんだ?と呑気に思う
ああ、あの時折角庇ったのに傷を作りやがってと怒っているのか?
それとも左腕のせいで今日1日業務をするに当たって、どこか不真面目に見えたのか…
…
見習いとしてちゃんと教えたことを見ていたんだろうな?
休憩時間を削ってまで教えたのにな?
…とかかなあ
アコヤの沸点がわからない
…
はぁ…
「アコヤ…おまえにそう言うところがあったのを忘れていた。
ラピス、恥の上塗りだったが聞かなかったことにしてやってくれないか?」
呆れながら言っているのだろう、溜め息混じりの声が落ちる
「代わりと言ってはなんですが…失礼を承知で…ちょっとの間借りていいですか?」
「構わない」
何を借りるって?
何が構わないって?
そう疑問に思うまもなく
立った物音と掴まれる首元…
「…自身の事を二の次にして、人の心配ばかりする。自己犠牲も大概にしなさい。こちらが気を使って見てないといつも倒れる寸前までなにもしないでしょう?
心配する側の気持ちにもなりなさい、そちらの侍従…いや傍使えが可哀想でしょうに」
……あれ、結構元気じゃない?
てか、随分と大人びた口調をするじゃないか?
どんなスイッチ入ったんだよラピス…
心配して損したな、
と、首元の手の持ち主に向けて目を開けてみれば…
「…」
「ああ。発言が許可されてないから言えないだけか…
ねえ、見習いさん?」
ニッコリしながら言うラピスに
…今度こそ言葉を失った




