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差し入れ



んん…

身体中が痛んで目が覚める


そりゃあ、鉄やら鎖やらに巻かれた上石畳の上じゃそうもなるのは想像通りだけれども


何度か夢に落ち、

冷たさと空腹で浅い眠りから起きること何十回


この非日常に慣れれば、

いや慣れてはいないが…

日和見めいた、

極々普通の思考回路になってくる


そう、

式典…あの授与式が終わったら久々にもふもふの布団で二度寝三度寝四度寝……(以下続く)して、行きたかったところ行くつもりでいたのになあ

せっかく休みとったのに、

勿体ないことしたなと今更ながら思ってしまうのだ。




マルコが出ていって

それから暫くは…脳内では未だに皇太子と衛兵のことを考えて、どうしようかとぐるぐると机上の論だけが回りに回っていたが


…ほら牢内からやれることなどなんもないし、

考えたところで何も出来ない。

甲斐がない…そう一晩たって考えないようにした結果

心地良い布団と

心行くまで休みやりたかったことと食べたかった物と…

そんな欲求だけが頭を占めるようになっている





これでも、

やれることは一通り試した


やることがない。

暇で暇で飽きてきた。

その結果であるから…決して愚鈍ではないと自己弁護はしている。


既に起きてから

起きる度に気を紛れさせるために…

胃酸で焼けた喉と冷えきった手足を庇いつつ考え付く全てのことはやった。





一つ目

ちっさい窓から射す日光に光明を見いだした。

が、暇潰しにはならなかった

全然日向ぼっこスポットの恩恵にあずかれない…

石畳の冷たさでごろごろ二度寝計画は頓挫、全然よろしくない。

(日の当たるところに常にごろごろすれば休みを満喫できる!(少しでも休みの恩恵を取り戻す!)といそいそと日当たりの場所に向かったが、全然鎖の長さが足らなかった……)




二つ目

生命維持の魔方陣の範囲確認


最低限の機能は飲料用の水が出せること


最大活用が幽閉やら隠居やらを抱えた貴族に大人気。爆発的ヒットした便利な料理のまま出てくるパターン。


あとは軍事活用がメジャー

長期遠征や、戦線の食料補給に使われるのが一般的

あとは業者のエマージェンシー用に最適


まあ簡単に言えば、食料限定の転移陣みたいなもん。

転移陣の元がどこに繋がってるかが問題、井戸なら水しか得られないし、食糧庫ならそこにあるものが得られる。




で、検証の結果がこちら…

目の前の床(水浸し)に転がっている。


…生肉

…生米(もみ付き)

…とれたてピチピチの生魚(まじでピチピチ床を叩いてる)


…以下略


嫌がらせだろうか?

水のみじゃない場合、

庶民でもパンとか、せめても不味い携帯食糧とか出るんじゃないの?

普通主食足るものが出てくるんじゃないの?

そのまま!!そのまま食べれるやつが!



バリエーションのみ貴族仕様とか誰だこの魔方陣描いたやつ!

絶対腹黒い!



そして今に至る。


暇だ…

暇だ…せっかくの有給が楽しめない…


冷たい床…さらに水浸し(魚のせいで)


手枷はまだいい…

痛いが仕方のないことだ


だが、

日に当たらせてくれても…

せめて足枷の鎖の長さ位余裕をと、

罪状を犯したわけではないと知れたのならば…

心配してくれたのならば

遊びをもう少しくれてもと思うのは、

きっと烏滸がましいのかもしれないが…




いや、

寝よう…


考えたところで何も変わらない

それならば一時のまやかしでも夢を見ていた方がまだまし。

計画していた物と

快適性には雲泥の差があるが惰眠くらい

意地でも取ってやろうじゃないか…

うん、

…おやすみなさい


…zzz


 


    







「おい」


「…zzz 」



「おい起きろ、寝るな」


「ん、……ぐう」

…zzz


「起きただろうが。そのまま寝ていてもよいが、後々困るのはお前だぞ。所望するものを聞きに来たのだが要らな…」


「自室にあるバックパック」

掠れた声

寝たまま目だけをあけて、不遜だと思わないのかとか言われそうだが、糖分不足のせいか怠さに加え頭が霞んだように重い。


手足も冷えて感覚がなくなりそうだ。



「不遜だな。こちとら事後処理を済ませた足で様子を見に来たのだが?」

横向きの視界に不機嫌そうな兄が腕を組みながら立っている


「それに関しては礼を言うが…

不遜だなんだと言うなら起き上がらせようがなんだろうが好きなように扱えばいいだろう?

こちとら拘束処理を済まされた足が言うことをきかない様子だが?」


言葉に含まれたいやみに言い返すのは性分としてというよりはもう既に情景反射の域だ。

すぐに眉間に皺がよるのが見えた…

こうなったら会話を打ち切ってそのまま出ていくだろうと寝返りを打とうとした瞬間


「そういえば」


「…なんだ?」

不承不承そう聞き返せば

「…そういえば昨日何でも言うことを聞くと皇太子に言ったそうだな?」

急にしかめていた顔に、ニヤリと音が聞こえてきそうな笑みを浮かべて、良いことを思いついたと言わんばかりだ。



「…名案が浮かんだようでよかったな、知りたくも体感もしたくないが。゛それに皇太子殿下に言った事であって兄上の名案は実行されることはないでしょう?゛」


はぁとため息混じりに言葉を返す。

そのまま寝返りを打って聞き返さなきゃよかった。


絶対ろくなことじゃないのはわかりきっている…精一杯の意趣返しと思って言い返したが、ちらりと確認すればニヤニヤ顔の兄。

効いているはずもない…



何でも言うことを聞くと言ってから後悔していたが…

後悔したのはこの良い性格をした兄の耳に入ったらどんな進言をするのだろうかと。

よもや聞き入れられたとしたら、皇太子の要求がどんな鬼畜なものに変貌するかということで…





「まあ、そう釣れないことを言うなよ。お前のためを思ってだ皇太子殿下に助言しておくよ。…ああ、所望品は後で衛兵に届けさせる」

と更に楽しげに出ていった…



…名案を準備しに、はたまた助言でもしにいくのか…

怒らせた皇太子のことだ、

いつもなら助言という名の弟への戯れに肩をもって耳を貸す事はないが…

俺の友人として普段はあんなんだが…兄と同様なかなかに良い性格をしているのは知っている



…それでも此処に足を運んでくれたのは、

いや、

兄が…兄上はそこまで甘くないと分かっている

ただ俺のためを思ってって言葉には、

色んな含みがあることを俺は知っている…

ただ、

見切られていないだけまし…かな?



所有物がまだ俺の所有物であることに、

深く誰に聞かれる訳もないのに静かに息を吐きながら一息ついた…

実家の俺への認識と今後の扱いが…

まだあの家に籍がある。

兄上と呼ぶことが咎められず通った事はそれを意味するからだ


他人扱いされるかもと、

あらぬ方向に口調と態度が変貌したのは

…何処かで弟ではないと家族でもないと否定されると、

兄に対して思ったよりもその点を心配して…

緊張していたから。



それに気付かない兄上でもないのにな…

素直でない振る舞いを生み出す己の感情に

愚かさもそれも気付かない程馬鹿であったら良かったのに。

半端に次男として教育を受けさせてくれたせいか?


せめて磨耗して正常に働いてくれない精神状態に、

体力が磨り減れば…

まやかしの免罪符をそうして手に入れようとする薄汚い思考に、


そして口調こそ

不可思議であったが怒気に…

確かに呆れや優しさが混じった兄上の声に

…ほっと心の奥で安心した自分に、ほとほと嫌気が差したのだった




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