視点
そう…あの実習は
全部段取りを組まれて安全も確保され…
やったことといえば
簡易化された狩猟と各々の調理、身の回りのことを少しだけ
それだけのこと…
それだけのことしかやらなかったのに
…
侍従やその辺の使用人に任せればどんなにか楽か…
連れてくれば良いだけじゃないか…
そう…どこかで思っていたのは事実
はあ…
運良くサボって手を抜いていたからこそ魔力温存が出来た
その点から遠征練習としては点が貰えたのだろうか?
…
何かあれば戦い、守り、そして全員を帰すだけの余力…教授陣がいることが大前提だから点がもらえる美点になっただけ。
実際、
野営や遠征中にそのようなことが起こることはない
そして足手まといになるような一因、
…魔力切れに近くなるまで使うなど言語道断だ。
そしてそれに気づいたのも今となって。
こんなきっかけがなければ一生気づきも疑問にも思わなかった
運良く上位に食い込み、
勲章を貰えたのはこれが最大の理由か?
ああ…
頑張ったなと認めてくれた卿には、会わせる顔が更になくなったな…
貴族の子息として講義単位のため。
ただただ、兄の知識で点をもらって
兄の身代わりになれるだけの勲章を確保するだけの行事
貴族としての何不自由ない快適な生活から解離した夜営
たったこれだけのことを学ばさせるため…
侍従にやらせればと、
下の者に指示すればと不満を溢し
紅茶や雑談を快適な屋敷や部屋で過ごしたい…そんなことだけしか考えない餓鬼どもに経験を…身にもつけなさそうな経験を少しでも積ませるためにだ。
教える側は何を思うのだろうか?
徒労に終わる…、
気付きも見込めない…費やした労力に見合わないあの"遠足"に
余力は残すもの
それもこれらを全部やった上でだ。
非常時でなくとも、危険が低いとしても
有事は起こらないなんて言い切れない。
限界まで使い果たせば逃げることすら、守られることすら出来なくなる。
あれは遠征なんかじゃない…
実習でも演習ですらない。
それを一回経験した程度で、
アドバイスを貰ってそれの上位になった程度で、縁切りされたら野営しながら暮らすとか…よく言えたもんだ
なにもできず、死ぬ
出来るようになるための方法は一つじゃない
魔力で出来なければ、手を使えばいい
魔力が足りなければ、別の方法をとればいいんだ
魔力が少なければ、知識と技術で補えばいい
例えそれが、時間を要するものだとしても
不便で使えない場面が多かろうと
機動力と応用力に乏しくても
…才に恵まれた人からみれば馬鹿馬鹿しく映ろうとも
…結果としては同じだ
"出来ることには出来る"
…
…
気づけば全て読み切っていた
保存食も古代技術も生活魔方陣の知識も組み合わせれば…平均並には野営…出来るんじゃないか?
なんとかなるんじゃないか?
…手を次の教科書に伸ばしかけて止める
読みたいが…
侍従の本が先だ
それよりも休息が先
気づけば左手を使っていたからか
とっくに限界を迎えていた腕
このまま寝れるだろうかと…
目の前の瓶を見て思う
気付け薬程度にやるか…
数ミリくらいならと…手繰り寄せたシェラカップに注ぎかけた手を止める
いや、止めようと。
どうせ呼び出しも用も無いだろうが…とっくに夜更けだ
明日も早い
水にしよう…
…
給湯場に向かう足
熱をもった左腕…
そういえば、アコヤの腕の傷はどうなっただろうか
…顔色も変えず、気負いもさせられなかった
だからといって…今日一日考えることも思い出すこともなかったなんて酷い奴だ
そう思い至れば急に気まずく…
よかった…
…ほっとする
足を踏み入れるも今度はそこに姿は見えなかった。
水を飲み、部屋に戻る
…
布団に潜って暫く
久しぶりにタオルケットの毛並みと枕に頬擦りする
…このサワサワした肌触りが最高だ
靴下を履いたまま寝る人もいるらしい…損している
そして間違っている
冷えようと何だろうと足先でも感じるべきはこの触覚なのに…
…
…安心する布団の匂いと心地に
いつの間にか寝ていたようだ
寝られてよかった…
もふもふ…
タオルケットを撫で回し、揉みながら毛並みを堪能する
目だけ出して時計を見ると3時過ぎ
昨日と大体変わらないか
二度寝したら最高に幸せだろうな…
と思いつつ温もりを自ら剥がして体を起こした




