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言霊




ちっ


冷めた空気に目が覚める


夢見が良いことを願ったがこんな夢は求めていない

よっぽど見ない方がマシだ



下らない

…本当に下らない夢だ


…パタリ

頬を伝った滴が染みを作る

…目を袖で雑に拭い取って

梯子を降りる



…まだ時間はあるな

顔を洗って冷やそうと時計をみればまだ3時過ぎ

羽織とシェラカップを引っ掛けて下に降りる


…顔を洗ったついでだと

給湯場から出て、

上に戻ろうかと階段に足をかけたが思い直して自室に向かう





見慣れてきた

腰帯のドアノブを開けて入る


…上出来だ

皺も少ないしと洗濯物を触っていく

布切れは…乾いてるな


万が一にも滲まないようにする

備えておこうと昨日思ったがやれなかったこと


襟から左腕を出して包帯の上から巻き付ける

侍従服に染み出せば…洗濯が面倒

…それ以上にあの二人に迷惑になる可能性も無くはない


干しておいた

襦袢も着物も破れた部分を綺麗に繕った



さて、

これでできる限りのことはした…

それと…

携帯食糧は上の部屋か…




今度は階段を上り使用人部屋に戻ってすぐ

チェストから侍従服に着替える


初めて腕を通した…

変な気分になりながらも指に引っかけたシェラカップを回しながら給湯場に向かう

どうせ深夜だ、寝静まっているしすれ違う人もいない




…9階の給湯場は来たことがないな


初めて尽くし、か…

そう思いながら足を踏み入れた








「……」


シェラカップを振り回していた手が止まる



「オリゼ?」


「…お疲れ様です、アコヤさん」

どきりと…誰にも会いたく無かったと、

特に貴方にはと思ってしまった…

きっと表情に出るのだろうと顔を隠すように、誤魔化すように手を下げて軽い礼する




「夜更けにどうしたんです?」

高価なティーセット…

それを扱うアコヤのその様子をぼんやりと眺める


「…いえ、目が覚めただけです」

そう言いながら気づく

もしや殿下も目が覚めたのかと。





「そうですか。そういえば明日は…いえ今日は6時から私について学んでもらいますよ」




「…っ……気づかず申し訳ありません」

さらりと言われた言葉にはっとする


"今日は6時から"

休日は三時間前にもう始まっている

夜だろうと殿下が呼べば給仕するのは当たり前


…気づかないで済まされるか

恥の上塗りじゃないか

……自分の言葉にも幻滅する



「…ああ、そういう意味ではありませんよ」

徐々に出来るようになります

と慰めまで言われる






…夢の続きみたいだ

まただ


どうせ出来やしない

最初から切り捨ててくれれば楽になれるのに

勝手に期待して、

期待外れだと見切るなら最初から!



「すみません…」

唇を噛み締めながら堪える


あんな夢、見たせいだ…

緩くなった心の鍵を閉め直さないとまた傷付くだけ

応えられると思うな

褒められると思うな

出来ると思うな



…義務だけ果たせるようになればいい

それだけで…それだけで俺には精一杯だろう




「…まだ少し時間はあります、もう少し休んでいなさい」

準備が出来たのだろう…


そう言いながら茶器を携えたアコヤは

何を思ったのかは分からないが…

それ以上口にすることなく、

入口に突っ立ったままの俺の横を通りすぎ…出ていった





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