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夕食




「なあ…ラピス」

「なに?」


オリゼを部屋に置いて食堂に向かう道すがら

日もとっくに暮れて少し肌寒いくらい

新月から日もたっていないせいで、

外灯がなければ月明かりも薄い三日月では辺りは暗くなっていただろう


そんな中、

口を開くことなく歩く隣のラピスに声を掛ける

オリゼのことが気にならないのかと…

そういう意味を含めて問いかけたのだが、

何の気もないらしい


「いや…何でもない」

「そう?オニキスは優しいよね…」


「何の話だ」

「…ふふ、まあ隠さなくても良いんじゃないかなっては思うよ?」



やけに含みを持たせた言い方だな…

そういうお前だってオリゼにはかなり優しいだろうが。

他の奴等に対する

あの仮面なんて何処にもない、

一見優しげで柔らかい笑みも口調も…

偽物だと俺は知っている



建物に入りながら深い溜め息を吐いて、

席に向かう

既に大半の奴等はテーブルクロスの上のフォークとナイフの数から食事が終わりかけのようだと推測できる



…そうか、

もしやそういう意図もあったのかもしれない。

ラピス自身がオリゼ聞きたいことを聞き出すのと同時に、

時間をずらす。

周囲の一目が少ない時間帯に夕食をとらせることになる…

昼は無理やり俺はそれを考えずに連れ出したからな、

好奇な視線に晒されてうんざりしていた。

少し可哀想なことをした…


テーブルについた俺らを見た給仕が

遠くから此方側に寄ってくるのが視界の端に映る…






『御注文は御決まりでしょうか?』



「なににする?」


メニューをちらりと見ながら聞くオニキス

何か考え事をしていた様だ、

部屋に置いてきたオリゼのことばかり心配しているようでもないが…

オリゼ関連であることはその表情から見てとれる


注文をとりに傍に近づいていた、

学園の侍従には気付いていたようだから…没頭とまではいかないかな?


「…Aコースにしようかな」


「じゃあ俺もAで」


オニキスと同じように

用が済んだメニューを侍従に手渡しながら注文した






「なあ、あのままにしてきてよかったのかよ」


給仕が離れていくのを確認してからオニキスが聞いてくる

結局は気にしてたんじゃない…

オニキスはそういうところ、家業柄でもあるんだろうけど…

心配性だよね?

これでも身体の圧迫は

危険だと俺だって分かってる…家業柄ね


だけど、

この食事と詰問の時間を含めても2時間未満

安全であることは…それはオニキスも理解しているから放置してこうして夕食をしている筈だよね?

でもまあ…


「流石に頭にきてね…って結局は気にしてたの?」



「当たり前だろ…本当お前はそういうところが怖いよな」


結局は気にしてたことを…茶化すように、からかえば

"そういうところ"ね…

お互い考えていることは同じようなことかな?

オニキスが言いたいのはきっと俺が冷静にそういう算段や物事を俯瞰して見ることに関してだろう

もしかしたら、

オリゼの食事時間をずらした理由も察しているかもしれない

単に俺がああして食事をさせないままにしているのは周囲の視線が辛いだろうから

そして俺らがそれを考慮して時間をずらせば気にすることも分かっているから分からないように画策した。

何も…夕食を共に済ませてから聞き出してもよかったからだ




「よく分からないけど、まあ…褒めてくれて有り難う?」


「いや、そうじゃねえだろ」


冗談を飛ばせば

すかさず突っ込みを入れてくるオニキス

でもなあ…

オニキスが俺の事をなんだかんだ言っても…似た者同士だと思うんだよね?

患者には君…厳しいじゃない

前に講義中軽いかすり傷をしただけだったのに、何故医務室に行かなかったと激怒したのは何処の誰だったかな…

あの時のオニキスは

俺でも怖いって思うほどだったよ…







カトラリーがセットされ前菜が運ばれてきた

…それに気付いてラピスは思考から意識を現実に戻した様だ


「…で?」

スモークサーモンのカルパッチョに

フォークを進めながら促す




「…ああ…そうだね、多分仕送りはないだろうけど本当に聞きたいのはそこじゃない」


何か考え事をしていたな?

それもなんか俺に対して失礼な事を…

それを口にすることなく、目の前の料理を食べ進めていく。

それを見て俺も同じく口に含んだ…




「なら…休日の食事か?」

前菜を食べ終えたラピスに

皿を下げる給仕を見ながら柑橘の香りがする水を飲んで答える

レモン水か…



「…まあ、それもあるけど…うん」


侍従が…次の料理を

南瓜のスープが運ばれてくるのを見て会話を途切れさせたラピス

互いに視線を交わらせた、

それは同じことを考えていた証拠だな


やはり自分の侍従が一番だ…

会話や食事のリズムを分かってくれているからこうして話が途切れることはない

まあ、聞かれて支障が出ることも自身の傍仕えであれば少ないのもあるが…







「…まあまあな味だったな…けどって?」


ポタージュを下げていく侍従

それを見てからオニキスが口を開く




「…絶対無茶するだろ?金策とか考えもつかない方向に走るに違いないから」


「確かに。ああ見えて真面目だもんな、あいつ」


「…だから心配してるの」


すぐに運ばれてきた

鱒のポワレ

それにしても会話するのに気を使う

ここで話さなくても良いのだけれど…一見唯の雑談であっても自身の傍仕えやオニキスの侍従以外に耳に入れたくはない


いつも通りの味だね…

次の口直しのレモンシャーベットも食べ終えた




「…なんか今日のコース、オリゼの好物ばっかりじゃね?

次は牛タンの煮込みだろ?」


給仕が下げていったのを見計らって呟くオニキス

若干顔が青ざめているのは…その心情は俺にも容易に推して計ることは出来る




「だね…これは…夕食抜きにすると恨まれるね」


苦笑しながら食に貪欲なオリゼを思い浮かべる

普段は気の抜けたただの天邪鬼だが、

懐に入れた友人には結局甘いし過度な自己犠牲もよくやる…


だが、その友人にもこだわりやお気に入りの物に関しては

何らかののっぴきならない事情があったとしても滅多に譲らない頑固者




丁度運ばれてきたその牛タンの煮込みを見て、

なにされるかわからんもんな…

その表情からオニキスが察したのか早めに戻ろうと無言で合図してくる



付け合わせもマッシュポテト

こりゃ食べられなかったと知ったら怖いな


続くサラダもチーズもあいつの好物

そしてデザートを見て言葉を失う

フィナンシェだ…

本日のデザートってこれかよ…思わず目を見合わせた二人



「…」



「…」



最早無言のまま

コーヒーを済ませて

どちらともなく立ち上がる


「…戻ろうか」


「そうだな…それがいい」



万が一にでも食べ損ねさせたら怖い

オリゼは自身でも気付いていないだろうが…俺らですら恐怖を感じることも多々ある。

それはラピスも同じこと

途中までは余裕綽々だった表情が最後には少しひきつっていた



そんなことをお互い考えている…

食事を終えて寮へ向かう二人の足取りはどことなく速かった




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