衛兵
はあ…
やっかいなことになったかなと、出ていってしまった扉を見ながら一息つけば
『…大丈夫ですか?』
「あ、ああ。気にするな」
衛兵が置き去りになっていた…
『あの、手当てを…』
立ったまま上からの視線が
心配そうな視線が
首や枷でひりつく手足に突き刺さる…
「…それよりも追いかけないで良いのか?業務に背いたと見なされて叱咤されないのか?」
視線を切るようにそう呟いた
『…いえ、もう手遅れですね』
「いやいや?手遅れですね、じゃなくて今からでも遅くない。早くいけ。今は皇太子殿下の護衛だろ、離れたらかなりの罰則ものになるだろうが?」
『…』
「…」
『…あの扉は殿下同伴もしくは許可魔方陣を受けた人でしか出入りできません』
「………そういえば第八監獄なんで聞いたことがないが…もしや…」
『つまり殿下邸宅の地下、ですね…』
「…」
『オリゼ様の想像の通り、昔の戦禍が絶えなかった時代の名残の施設です。ご多分に漏れずここも邸宅の主人でなければ自由に出入りは出来ないはずです』
「…色々と詰んだ気がするな、出られる気がしない…」
ため息混じりに苦々しく吐露すれば責任を感じたかのように空気が重苦しくなる。悪化した…
『申し訳ありませんでした、私のせいで…』
「いや、あれはレイ…いや皇太子が悪い。感情的になって俺の背後の衛兵を忘れて、魔力の圧力を俺に向けたんだから……あ、身体は大丈夫か?」
『…貴方様よりかは』
ちらりと済まなそうに視線を向けられる
「…いや、そんな目で見られてもな」
先程咳き込んだままの姿勢…横たわったままだがそんなに傷があるわけでもないはず…圧力に当てられたと言っても短時間ならば慣れでほとんど影響はない
……あれか、まあ格好が無様なのがそう見せるのか?人目がないせいか気にしてはいなかったが…
『…手当てだけでも』
そう言って近づいては来るが…いや、来るなよ
「するな、衛兵」
『…アコヤと申します』
懲りずに更に近づいて来る…
「来るなっていっているだろ、それに俺と馴れ合わない方がいい」
そう強く言えばピタリと歩みを止め
『…わかりました、そこまで言われるのでしたら゛失礼します゛』
そう一礼して先程の扉から出ていった…
あっさりと…
「…」
うん?
出ていった…いやいやじゃあさっきの問答はなんだったんだ?
出ていけない前提じゃなかったのか??
あっさり引き下がられるのも寂しいって…想像の範囲外
出れない前提にで…こう話し相手くらいはとか、誰かが出入りするまで居てくれる前提に突き放すようなこと言えたとか今更二つの意味で言えないし
いや、許可魔方陣を受けていないとはいってなかった。
なぜ魔方陣を受けているのに手遅れだと…追うのがではなく…
…思った。
…無罪だとわかったのにそもそもこの状態はなぜ続くのだろうかと。
直ぐに出ていかなかったのが、あの衛兵が世話役を兼ねていたからだとすれば、状況がかなり悪いのではないか…と
皇太子の私刑だとすれば…
あの絶交宣言の後、付けられた世話役すら突き放したとするならば…
…仮定と思考の渦にのみこまれそうだ。
そう
聞こえもしない過去の戦禍の囚われ人の悲壮までもが聞こえてくるようだと…
…胃から込み上げる胃酸と押し殺した嗚咽が途切れたのはその後直ぐのことだった