昼食
「…」
…
無言のまま食堂についた
朝に引き続き昼も格式が低い
将来を見据えて大衆的な感覚も持ち合わせるようにというのが学園の方針らしい…それに従うのは一部で、
列に並ぶのは学生本人でなく侍従が多いが…
席でふんぞり返って、
侍従に列に並ばせて運ばせる
そんな学生が大半
少数派の貴族の驕りが少ない一部がこうして侍従に混じって並ぶ
俺はメニューを見ながら一考
肉が良い
…ステーキ定食にしよう
列に並びながら昼食の内容を心に決めた。
…悪友もステーキか?逃げはしないのにと後ろにビッタリと並ぶ友人に苦笑する
あの生命維持魔方陣から出てきた生肉を、焼いて食べられなかったのがずっと心に残っていた
良い匂いだ、順番が来て料理が乗った盆を受けとる
さて、
先に席についていよう
どうせ同席してくるのだろうし…
見渡せば朝も座った席が空いている
好都合だと思いながら向かって座り待っていると
程無く悪友が目の前に座る
もう食べて良いか…
手を合わせてステーキにナイフを入れる
待ち望んだ通りの味
散らばった生米も食べられなかった…炊き上がった白米も口に頬張る
無心
その後は黙々と食べ進める
…元々食事は好きだ、美味しいものと布団があれば満足
名声も栄光も要らない
鉱石採掘と山で野営しながら焚き火でもするのが目下の目標
それに加えて…
保存食と野草集めも趣味に加わる予定
貴族らしくないと言われてきたが、それに拍車がかかってきているなと
食後のコーヒーを啜りながら思う
目をやればとっくに終えて手に頭をのせ肘をつきながらこちらを見ている…
…
「終わりましたよ」
残りのコーヒーを飲み終わり言えば
「…付いてこい」
斜めになりすぎている機嫌をどう直したもんかとイスを引きそのままついていく
…
何故寮に向かう?
ついてすぐ分かった
見慣れた102号室の前で止まる悪友
「散らかっているのですが…」
暗に断るも…
さっさと鍵を開けろとばかりに促される
…去年より無惨だし見せたくないのだがと渋っていれば
「構わないから開けろ」
「…」
大人しく鍵を開けて扉を開け、先に通す
「っ…おまえ」
予想通り絶句しているのを傍目に、扉を閉める
放り投げた襦袢を畳直し、横にどけてから
備え付けのイスを引いて勧める
入り口近くでまだ固まっている悪友が解凍するまで
枠組みだけのベットに腰かけて待つこと数分
ようやく
イスに腰掛けた友人
「聞きたいことはなんですか?」
備え付けの時計を見れば、後1時間は講義まで猶予がある
「…所持品は何処に行った?なんで何度訪ねても部屋に居なかった!」
「…使用人部屋に移動してあります」
言葉と同時に立ち上がり
音を立てることも厭わず使用人部屋に続く横の扉を開ける
「嘘つくな…何もないじゃないか」
続く使用人部屋を覗き
…振り向いてこちらを向いた
心配しているのか…
もはや怒り心頭ともいえる表情
溜め息を付く
「…そこではなく、殿下の使用人部屋です」
「…左腕見せろ」
溜め息を付きながら答えたのがいけなかったのだろうか
更に険しくなった表情
近づいて来て是非もなしに腕を掴まれる
そのまま袖を捲りあげられ暫く…
満足いくまで紋を確認したのか
…放された手
左袖を直してながら見やれば
疲れた顔に変わっていた
忙しいやつ…百面相、か
見る分にはけっこう面白いものだと頭の端で思ってしまう
「…敬語もそのせいか?友人だろう、要らない」
「…殿下に迷惑がかかるので出来かねます」
「友人も止めるのか?」
「その方が貴方のためです」
言い合うように問答する
これで溜飲は下がったか
…意を汲んでくれたかと項垂れた友人の様子に安心した
刹那
ぐっ…
衝撃
一瞬頭がついていかない
首を捕まれ壁に叩きつけられる
「…いい加減にしろ!
どんだけ心配したのか分かってるだろう?
…
噂を聞いて、学園に戻ってきて部屋を訪ねても居ない!
寮監に確認してもおまえの部屋は去年と同室と言うのにだ!」
…おい、
寮監が部屋番号勝手に教えて良いものなのか?
空気が薄くなって意識が飛びそうになりながらもそんなことを考える
何だかこのくだり…
先日とおんなじ気がするな…
そんなに心配したところで俺にはお前にとって利益になるような
才能も家名もないぞ…
どいつもこいつも見切れば良いのに…
そうすれば心置きなく落ちぶれていけるのに
そう遠い目をしながら考えていると
ぐったりとしつつある様子に手を緩めたのか空気が入ってくる
「…悪い、やり過ぎた」
「いえ、お気にならさず」
呼吸を整えながら多少掠れた声で返す
「誰も他に居ない、普通に話せ」
「…」
「…今は学生だろう?使用人としては不敬な行動だろうと、粗野な言葉を使っても不問にする。殿下の迷惑になるようなことはしない。これで話せるな?」
「他言無用確約して頂けるなら…今、このときだけはそう振る舞いましょう」
敬語を外さない俺に青筋も切れたか…
仕方なしに答える
「…今後は?」
「…」
…まだ言うか
しつこい
「…此方から友人をやめるつもりは一切ない。お前がどんなに拒否してもだ」
少し緩めたとは言え、未だ喉元から離れない手
折れないとこのままか…
一文字に閉じた口
真剣な目付きに…観念するしかないのかと目を閉じた
「分かった、今後もだ」
深く…
深くついた溜め息と共に言えばやっと手が離れていく
本当、遠慮なしにやってくれたな
…喉を擦りながら痛みを和らげていく
視界に動く
焦点を合わせれば横に座ってくる…オニキスはどことなく気だるげだ
「分かったならいい。それで休みの間何処にいた?」
「…殿下の邸宅に招かれていた」
「…おまえ休み前より痩せたよな?何された?」
「言えない」
「…殿下の部屋に後で乗り込んできても良いんだぞ?」
「…おまえ、それは脅迫だろうが。
…とりあえずおまえと同じ様なことをされたな、まあ…マルコにはもう友人でもなんでもないと、最後には切れられたが」
自嘲しながら言えば
笑ってる場合じゃないだろう
…そう言いたげな剣呑な目が向けられた




