講義
ぐぅ…
自分の腹の音で目が覚める
眠い…
体は何とか回復したみたいだ…
確認して起き上がる
一瞬見慣れない近い天井
どこだか分からなかった
覚醒していく頭
…そうだ、昨日使用人部屋で寝たんだったな
梯子を降り
バックと制服を手に取る
ここで着替えたら昨日の二の舞だ
まだ開けきらない目と体
危なげな歩みで扉を出て一階へと降りていく
腰帯を括ったドアノブ
…鍵を開け目的の部屋に入る
自室迄入ることなく、使用人部屋で着替えを済ませる
思えば…
昨日は結局ほぼ朝食を食べただけだ
昼も携帯食糧だったし、夕食も食べずに早く寝た
通りで空腹も感じる筈だ…
この早い時間なら食堂に学生も疎らな筈だと
制服を着替えながら考える。
こんな生活が続くのか…
憂鬱になりながら表から部屋を出る
いつも通りに寮監の控室を過ぎて外に出れば
…
新緑と冷えた空気
たまには早起きも良いものだ
食堂に向かう途中の売店で、封筒を出す
改めてまじまじと見た値札に紙とインクは……
限界まで我慢することにした
早く終われば、城下町で買える
…
どうせ講義のメモを取る用だ…
外聞を気にしなければもっと質を落としてもいい
石鹸も買いたいが…暫くは我慢か
未だに少しぼうっとする頭で食堂へと入る
バイキング形式の朝食
料理を取る
これほどまでに美味しそうに見えたのは、失礼だが初めてだ
疎らな学生に一安心
端の机に座って食べていく
パン
バター
ジャムと卵
ベーコンとソーセージ
五臓六腑に染み渡るように空腹も満たされていく
半日…いやここ数日は何度か食事を抜かれていたな…
選択講義の紙にかかれた講義室番号を確認しながら
食後に砂糖を入れた紅茶を飲んでいれば次第に混み始めた
胃も落ち着き…
糖分に頭もハッキリとしてくる
昼も必ず食べに来よう…そう思いながら
立ち上がって講義棟に向かう
午前は基礎講義の説明
午前は選択講義の説明か…
講義棟入り口に貼られた組分け表を見る
今年はI組…講義室は二階か
同じ組に悪友の名前があるのも確認して向かう
詮索されるだろうなあ…面倒だ
着いた講義室の黒板を見て席につく
一番左奥だ…
目立たなくて丁度良い…
時計を見れば後二時間ほど
仮眠をとろう…カバンを枕がわりに敷いて頭を預ければ直ぐに眠気がやって来た
…騒がしい
次第に意識が覚醒していく
そろそろ講義の時間か…?
のそりと頭をあげて目を擦る
「…オリゼ…オリゼ!起きたか?」
…面倒が来た
「…なんでしょうか」
久しぶりに見た気がする悪友の顔を見返して言い放てば
「おまえ…悪いもんでも食ったか?」
「至って普通の朝食を食堂でとってきましたが?」
呆気にとられたのか、
呆然としながら此方を穴が開くほど見てくる…目の前の悪友から目を外し周りを見渡せば
教室にはほとんどの学生が揃っている
それぞれ派閥やら見知ったグループ同士で会話に花が咲いている
講義開始までは…
すぐだ、時計を見れば後少ししかない
「…そういう意味じゃない。おまえがなんで敬語なんて使う?そんな性格じゃないだろう!」
ばん!
机の上に手を置き、目を覗いてくる
「…"私"に今後は関わらない方が貴方のためです。噂はご存知でしょう?」
「俺が気にすると思ってんのか?」
周りが何事かと叩いた音に反応し
こちらに注目していた…
得策ではない
殿下がいないからか、
あの時よりも視線に遠慮がない。
そして、やはり好意的でもない…寧ろ嫌悪感や揶揄するような物を隠す気もなく向けてきている
「私が気にします」
「なっ…おまえ…」
目の前のオニキスに視線を戻す
見返してそれだけ言うと
それ以上は関わらないという意思表示
半場無視を決め込み視線が刺さるなか…机の上のバックを机横に掛け、講義の準備を始める
ガラリと扉が開き、教授が入ってくる
『座れ、始めるぞ』
丁度いい
これ以上注目を集めるのは好ましくない
オニキスは水を挿された
そんな不満げな顔をしているが…
「…そうか、言いたいことはそれだけか」
何処かで聞いたような台詞に嫌な予感がする
それだけを言い捨てて、席に戻っていく…
…戻っていく
って目の前の席か
…こいつの席順もちゃんと見ておくべきだった
一年間はこのままか…
こうあしらって
突き放してしまった手前、今から気が重い
…
教授の話に意識を向ける
各講義の概要、教科書の配付
必要なものをメモして行けば時間は過ぎていく
配られた剣術の練習刀の貸出申請書に記入する
各自で準備できる人は細工や材質に拘ったものを用意するのだろう…
が、そんな金は何処にもない
タダで済むならそれでいい
今の俺に貴族の箔や格など無用だ
講義の終わり
選択講義の書類と合わせて提出する
さて、昼食か…
昼の間、教授陣は選択講義の準備や算段をするのだろう
普段より長めの昼休憩だ
移動を含めても一旦寮に帰る時間がありそうだ
昨日読めなかった本でも読もう…
そして休憩の終わりかけに食堂にいけば、
人は少ない筈だ
それから選択講義に向かっても十分余裕は持てる筈だ
さて、
見通しもついたことだとカバンに教科書等の教材を片付け、
立ち上がろうとした瞬間
…肩に手が置かれる
「話がある」
「昼食後で構いませんか?」
「…久しぶりなんだ、飯も一緒にいくに決まってるだろう」
「わかりました」
強くなる手の握力…
有無を言わさないとばかりだ
逃がさないつもりか…掴まれるように強制的に食堂に連れていかれる
どうやら寮に帰る時間など…
休憩中もこの様な周りからの視線に晒され続けるのか…
少しの心の安寧も取り戻せそうにない。
自室で息を吸い直す機会はこれでは全く無さそうだとオニキスに聞かれないよう、
小さく溜め息をついた




