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心配


目の前には

囲炉裏で焼かれて香ばしい匂いをたてる魚

火にかかった鍋には熱々の肉鍋


さて、飾り塩した魚から…

じゅるり


灰に刺さった竹串を引き抜き

豪快に腹からかぶりつ…



ん…ん?魚になぜかかぶりつけない…


ぬくぬくと暖かいはずの炉端なのに

床が冷たい…寒い…ん?



…ぉぃ




…おい


「おい起きろ!」


…ん!?


「起きろ!」


「…ぅん?」


「なにが、ぅん?だ!呑気に寝やがって!」


…眠い眠い瞼を抉じ開けてみればお怒りモードの皇太子

もとい友人と衛兵一人


「…」

…面倒そう


……さっきのは夢か

…いいところで水差しやがって。

せめて魚くらい食わせてくれてもいいじゃないか

…いや、今なら間に合う、寝直して続き見よう。

魚食べて肉鍋すすって、炉端で微睡んで……


…zzz


「…吊るすよ?」


…!?なにに?

「…zzz」



「…狸寝入りしてるのばれてるからね?続けるつもりならあの天井から釣り下がった鎖の出番が来るけど?」


「…」

 

「…沈黙は肯定だと解釈するよ?いいんだね?」


「…」



「…はあ、衛兵こいつ吊り上げ…」



「…っ、起きるからやめろ」

チャリ…

寝る前より更にギシギシとした体が痛い。

霞んだ視界を開けながら腕で体を立…

…てられなかった。



「おい、いい加減…」

「…悪い、起き上がれん」



冷えきったのか腕の感覚がない

力が入らず、横向きのままの視界に写る靴に向かって言えば…



「…冗談いってるんなら許さんが…」

「いや、冗談抜きで力入らないんだ。起こしたいなら吊るした方が早いと思うが?」



「…。…分かった。衛兵、そいつ起こすの手伝ってやれ」

『はっ』




近づく軍用靴

目の前に膝をつき

床に預けたままの体に腕を差し入れ起こしてくれる


「悪い」

衛兵に支えられたまま座れば、広がった視界に見た目の前の表情に思わず詫びた。


「……心配かけやがって」


「…悪かったって」



「っ、本気でそう思っていってるのか?式典直前にあんなもの受け取った僕の気持ちが分かるか?」


「…」

見ていられない様な表情浮かべるなよ…

貴族も貴族、王族らしい振る舞いってもんがあるだろうに…


「失神したおまえをここに運びいれて、やっとの思いで完了報告書書いて提出して!」


「…」


「その後執務室に訪ねてきたラクーア卿に、把握しているだけの事の次第を伝えているときに、お前の伝書梟が飛んで持ってきた内容!


『多分策略に嵌まるとすればこの式典の時だろう、お二方には今後のことを考えた身の振りをしていただければ幸いです』


…幸いです?どの口がそんなこと言うんだ!?

執務室に入ってきた時の卿の顔色!そんな卿に伝書を差し出すときのやるせなさ!

それと何より事前になんで相談しなかった!

…僕はそんなに…そんなに頼りにならんのか!」


ガクガクと震える背中に…


「…非は詫びる、お前からの責も望み通りに受ける。何でも言うことを聞くと約束する。だから一旦落ち着いてくれ」

そう他人行儀に答えれば…みるみるうちに




ひゅっ


「落ち着いてくれ?そんなこと出来るわけがないだろう!?こんだけこんだけ心配しているのに…!」


苛立った感情のまま滲み出た魔力、

ひりついた充満した空気限界に達しようとした空気が喉元に一気に流れ向かって来る。

次第に大きくなっていた背中の支えの震えが更に大きくなりすぎて視界も揺れて気持ち悪く…



ガッ

「おい!」


「ぐ…」

鷲掴みされた顎を無理矢理上に向けられ、ジャラリと引っ張られた鎖が音をたててながら身体ごと持ち上げられる

「なあ、何とかいえよ!」


「ぐ…」

声帯をこうも強く圧迫されて話せるわけなかろうに…そう泣きそうとも言える皇太子の目を見ながら、他人事のように考えていれば

…呼吸困難で意識が遠退く落ちる寸前で離された。



「ぐ…ゲホッ……ゲホッ」

思わずくの字に身体を曲げ、枷のはまる両手を喉に伸ばし……いや、手錠で無理だったか…更に体を曲げて咳き込む


乾燥した空気に荒い自分の息の音が響く

生理的な涙で滲むうっすらと開けた目の先に、予想通り魔力に当てられ腰を抜かせている衛兵が……心なしか震えている



呼吸が収まる頃には皇太子の方に目をやると、やり過ぎたと思ったのか魔力を収め落ち着いた様に見える



「ごめん…」


「…ゴホッ…いやそこの衛兵のことも考えてやれよ…お前の魔力に当てられて萎縮しきってるじゃないか、魔方陣で制御されているとはいえ慣れてる俺はともかく、ただでさえ王族の力は強いんだから」


「…」


「…?」




「お前なんて友人でもなんでもない」


いやいや

「…なんでそういうことになるんだ」


「こんだけ心配させておいて…気をやるのは僕にじゃなく衛兵にか?」


「あ、いや…そういう意味で言った訳じゃないんだけど、」

そう早口で弁明するが間髪入れず


「…もういい」


「いやいや、そういうつもりじゃないって言ってるだろ?」

このままじゃ取り返しがつかなくなると焦って呼び止めようとするも、

悔しそうに唇を噛みながら、ふいっと顔をそむけそのままドアに向かって出ていってしまった…




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