侍従講習25
気が進まない。
しっかりと良く眠れた、体に力も入る…
疲れもとれている事は自覚できるのにも関わらず、
それでもどこか体調が優れない。
キナに急かされて…
気持ちを体現するように引きずるようにしてこの場に体を運んで立っている
それも、もう終わる。
この俺には…不合格者には何も得られない発表の…
資格授与の式次第はもう終わりかけだ、あと少し我慢すれば良いだけの話
「やはり…名前順だったか」
そうかと、
独り言がポツリと口から滑り落ちた
次々と、合格者の名前が読み上げられ前に進んで行った
歓喜、当然…色んな感情を発露させながら侍従としての証を手に入れていく
そう、誰1人として飛ばされた人はいなかった…俺以外は。
今…
名簿順の最後のやつが嬉しそうに前へ足を進める
全員…受かって良かった
心のつかえがこれで降りた…俺があの席についたせいで不合格になる奴は誰もいなかったのだから
ほっとした…
不合格が確定するだけの気乗りしない式ではなかった
おれが呼ばれるべきタイミングはとうに過ぎたが、
それでも俺を打ち合げの際司令塔として担ぎ上げたマイナスは無礼講…あの先輩侍従役の講師の言葉の通り、
査定が終われば評点の低下は無かったようで
それだけが救いだ。
この式にも出た甲斐もあったな…
おめでとうと、
講師に一声掛けられて…
本当に嬉しそうに、
跳ねるような声でありがとうございますって…返してる奴の声を聞けて
その最後の1人も魔法陣の上に立ち、
侍従服の上着…左袖に雫型の金糸の刺繍が浮かび上がる…
赤か、
雫型の金の縁取りの中に表れた色は確かに侍従資格の1つだ
コック長のヘパリーゼ…そしてキナですら赤だ
ラクとホスだけが違う色
エメラルドのような深い緑色で屋敷の俺の担当侍従の川獺と同じ…
優秀なのは分かっていたことじゃないか、
皆も俺の未熟な指示にも協力して動ける程の技量を持ち合わせていた
対して俺は…
家としてはあまり体面が良くないだろうに、
この査定を受けることを…我が儘を聞いてくれた父上や兄上にどう釈明しようか…受けて合格するならまだしも
俺は落ちた…
その原因を順を追って説明させられれば、きっと眉をしかめられるだけじゃない。
…殿下には何も、
何も言えない
心配させて送り出してくれた俺の担当侍従達にも…
何も…
何も言えない
どんな顔をして…
「…リゼ…オリゼ!」
「ああ。終わっ「呼ばれてる」たか…?」
「キナーゼの声に反応する当たり…まあいい。オリゼ、何呆けているんだ?」
「…ホス?」
考えに沈み込んで下がっていた目線を…
キナの呼ぶ声で面を上げれば皆の視線が俺に集まっている
ホスも呆れた顔をして…
「…合格者の発表は、まだ終わっていませんよ?
オリゼ君、早くこちらに来なさい」
「講師長、式は…全員呼び終わったのでは…ないのですか」
「君で最後だ」
「な…そんな筈は」
「いいから来なさい、長期講習者の後に短期受講者の合格者が呼ばれるのは通例だ」
戸惑いが隠せない
講師長の言葉からは、俺が合格者の1人であると言っているようだ
…だが、
そんなことはない。
都合の良いことなど現実ではそうそう起こらないのだ
「ほら、早く行け」
「俺らが全員受かってオリゼが受からない筈はない」
「ホス…何かの手違いだ。
おれ…いや私は受かってなどいませんし、手違いでなければ何かしらの権力が働いた結果です…」
業を煮やしたのだろう…ホスが急かすように、
そして背中を押すようなそんな声にも足は動かない。
動く筈もない。
だって、合格する筈など…ない筈だからだ
昨日奪われたままの感情制御のネックレスは朝になっても帰ってこなかった
だから、動揺も声音も抑えることが出来ず情けない自身の言葉が思ったより大きくこの場中に響いたことに臍を噛む
「まったく…不正などありません。侍従紋には王家の証である百合と月桂樹の意匠が採用されている事は国の資格である何よりの証、
例えこの国の最高権力者であろうと次期陛下であっても…貴族であろうともこの査定の合否に関与はしません。
賄賂や権力によって私達講師に圧力を掛けることは重罪、
ですから合否の判断に鷹下駄を履かせることも、手心を加えることもありはしません。そもそも、規範足り得る…その様なことを為さる方々ではありませんしね」
見かねて口を挟んだのだろうか?
不正など無いと強く嗜めることは納得できるが…
ドSの子息役の講師の言葉に、
理解が追い付かない…
その知識はある、侍従資格が国家資格であることは、
だが…この人から俺を肯定するような、
講習も査定期間でも認めるような発言は一度足りともなかった。
真意を汲み取り切れず、
講師長に目を戻すも軽く頷いている…
「講師長…私は「侍従らしくないと、言いたいのかな?」…はい、判断に行動に問題があった筈です」
「式神のことか?
あの発言は、確かに意地が悪かったと思う。が大局を見れば査定の目的…有事に置ける解決に向けて対処、行動に移した手腕はそこにいる緑の合格基準より評価に値する。
命令違反や忠言で雇用破棄に至る手法は薦められないが…主人以下使用人や侍従までが国家反逆者に一歩間違えばなるような状況下、
皆が各々考えや行動に移すまでの時間を稼ぎ、査定時間の最後まで処断されるような動きをすることはなかった。
…君1人の身をとした策で最小限の沙汰に抑えたのは、手放しに誉められはしないが賢く愚かではない」
「実際は、期間などありません」
「何かしらはある。それに…この仮定した課題の中でも、行動に移す最終的な決定的瞬間はあった。それまでの迄の身の振る舞いが期間だ」
「…私は」
「意地が悪かったと言った、私でもリスクを鑑みずにあの場で信用して白黒主人に問うことは…すべきだったと責めたあの判断は出来るかと聞かれれば即答はない。
実行するかも明言できない…そのレベルをつい要求したくなるほど君は優秀だったのだよ?」
「左様で…」
「それに、この私達が下した合否判断は国によるものとも言える。
その結果に君が異論を唱えられるのかい?」
「…いいえ、従うのみに御座います」
「ならば、こちらに来て陣の上に立ちなさい。
胸を張って良い、君はここ数年の内両手に数えられるくらいの人材なのだからね」
それは、揶揄だろうか…
此処まで問題ありありな奴が侍従になったことはないのだと、
そう言っているようにしか受け取れない
…そんな見下すような、
表情はしていないが…それでもそう思えるのだ
が、
万が一額面通りであっては困る
「…1つお尋ねしても宜しいでしょうか」
「構わないよ?」
「"色"は規定通りですか?」
「残念だが、短期で与えられる色はそれのみだ」
「…畏まりました、陣をお受け致します」
何が残念なのかは聞きたくない…そんな横顔が変化する
はっきりと正面を向く、
表情も変わっている…覚悟を決めたような顔を上げたオリゼが
陣に向かって足を進めていく
落胆ではなく安心したように…も見えた
上げた顔にも喜びはなかった
…そう、
オリゼのその横顔には歓喜の感情は見受けられなかった。
俺の手元にある陣が刻まれた安物の石のネックレスはまだ返していない
だからだろうか、その機微は汲み取り易い
渋々…
喜怒哀楽で言えば哀だろうか?
喜びもせず、足を進めて行くオリゼにキナーゼに視線を送る
規定通りに執り行われる結果、
それならばと…
赤以外の結果を受け入れることはないと思っているのが…その強い意思が少し離れた俺にも伝わってきた
講師長からの祝言と、
短く答えたオリゼの返答が終われば…陣に歩いていく姿
オリゼが光に包まれる
陣の発動と共に、無地の深い紺色の侍従服の袖が金糸で彩られていく
俺らの雫型の縁取りだけではない
それを刻んでもまだ陣は発動を止めない
その上に三本線
さらにその上には侍従紋の紋様が刻み込まれて…その中には主人の略式家紋を示す王家のそれと、星が1つ
驚いた…
星は例え役職についても与えられはしないのだ
星3つが当主筆頭の傍仕え
2つが当主筆頭の傍仕え補佐と直系子息子女や配偶者、分家当主の担当傍仕え
1つは直系子息子女や配偶者、分家当主の傍仕え補佐…血縁の傍仕え
…
侍従としての大成、憧れである階級を示すそれに
見事だと…
皆から、感嘆の声が沸き起こる
光が収まり、
オリゼが列に戻ると式次第の最後だ。
その興奮冷めやらぬ内に
進行役の講師が閉会の言葉を言い終えた…
それとと共に、ざわめきは爆発する。
一瞬にしてオリゼが、皆に囲まれていくのをキナーゼと目を合わせて苦笑を漏らす
その輪から少し離れた所で立ったままの俺に、
キナーゼが歩み寄ってきた
「なあ…」
「…ああ」
「ホス?」
「ああ…」
「ホス…聞いてるのか?」
「なんだ?」
「…なんだって、分かるだろ?」
「分かってる。凄いな…俺らとは違う」
少し困り顔をしながら、
侍従服の紋様を見るために集まった一人一人を対応しているオリゼから視線を少し外して
この腐れ縁に向けながらも…
キナーゼの相手をすることになった…
「あれ、上から三番目の階級だからか?」
「オリゼはその重責を背負う。見習いのときは無地だろ…赤であっても色が付けば役職も織り込まれる。
今まで知らなかったが…今では一見しただけで誰の目にもその立場が知れるな。つまりオリゼは今後更に…周りから振る舞いも業務も段違いに要求される事になるからだろ?」
侍従になりたて、
それもほやほやの俺らがこの場で役職つきをみることは通常ない
通常どころか、稀でも…こんなことは起こらない。
見習いで役職つきなんて、
そんな前例はきいたこともないからな…
それも、
オリゼの袖に浮かび上がったのは傍仕え補佐役のもの
侍従としては最高位から数えて三番目の役職、
誰だってなれるものではない…エリート街道を進んで一握りも一握りの侍従がなれる憧れの立場だ
その上で…ダメ押しときた。
いや、これこそ…か?
その仕える主人の家紋が問題だ。
どう見ても見間違えることなんてない、
侍従でなくたって…家紋に詳しくなくない子供だって知っている。
…知らない人などいない程有名な家
…この国で一番の権力を持つ家、
王家ときたから皆のあの群がりようにも納得はいく
勿論、
ラクターゼは混じっていない。
…俺らと反対側で離れて見ているだけだが
「…俺の赤とは違うな」
「合格基準は同じだろ。
まあ、すぐに求められるレベルも物事もきっと違うが…確実に緑になった俺よりも格段に。それが分かってるから…陣から振り返ったときの顔が別人だったのかもしれない」
査定としての最低位の赤の判定、
それに違いはないだろうが…侍従になったことに変わりはない
その上、
オリゼは役職つき…それも皇太子の傍仕え補佐役か?
…無役で、今仕える主人がいない状態のキナーゼではあの赤色の発露が意味するものは、
その重みは…大きく違うだろう
「少しも…嬉しそうじゃない」
「ああ、確かにまるで戦地に向かう兵士みたいな顔だった…今も嬉々としてる訳じゃなく、他の皆の相手をするために表情を和らげているだけだよな」
不合格にならなかった、
合格出来た。
だから嬉しい…なんて
そんな簡単で明白な感情が湧くわけない
それはキナーゼだって分かってるだろうが、
…貴族に近しいお前なら
貴族の侍従の扱いは実際に目にしてきたことは多いし分かってる筈だろ?
…見習いならば、失態を犯したところでまだなんとかなる。
慈善事業として職のない平民を試しに雇ったと、
そう弁明も為せる。
…見習い侍従によって貴族の面子が汚れることはない、
正式に契約を結んではないからだ。
不出来な者、
失態をしたものは容赦なく篩に掛けられ切り捨てられる。
当家に関わりのない者だと貴族は逃れられる、
良く言えば正式な雇用契約を結ぶ前の安全策ともとれるが…
俺らを都合良く使うため、
悪用一歩目前でそれが活用されることの方が多い
が、
それは下位貴族くらいで通用する話だ。
高位、それも王家となれば
仮契約の見習いからもそんな失態は赦されはしない
それほど迄に、
面子は重要だから…見習いであろうと慈善事業であれど、
その面倒も含めて責を負うのが本来の貴族
…王家ならば尚更
それを体現するのが道理だ。
この国の王族は、多くの国々の王族とは異なる、
その矜持を未だに持っている数少ない事例だと昔…聞いた
見習いである内から役職を貰い、
主人の身の回りをお世話する…それだけでも聞いた事がない稀な優遇処置
そしてその主人は時期国王陛下になられる王族中の王族
そんなオリゼが、
侍従査定を乗り越えられず不合格となれば…唯では済まない
だからこそ、
だからこそ合格して良かったと喜んでも良いのではないかとキナーゼが疑問符を浮かべるのも無理はないだろうな…
「でも…合格したんだぞ?
少しは嬉しいはずじゃないか…」
「…不合格よりましだが」
そう、
嬉しくないわけはない。
そうだろ…?
キナーゼの言う通り、うち震えるまででなくても嬉しくなければ異常だ。
少なくとも笑うくらい、
オリゼは安心するくらいしてもおかしくはないが…
傍仕え補佐役、
それも皇太子の侍従見習いが査定を合格できなかった等となれば…
下手をすれば、
傍に仕えさせるだけに足りないと…首を切られるだけで済みはしない
それが回避できた…
オリゼは侍従として合格した
主人に恥をかかせることはしなかった…だから…
少しは…喜んでも良いのではないかと俺でも思う
「…リゼはおかしい奴だよな
まさかまだ体調が優れないのか…それで無理しているから表情が固いのか?」
いや、
体調は悪そうに見えない…
なら…
違う、
いや違うだろ…?
…くそっ、原因はそもそもそこではないだろ
馬鹿か…俺は!
不合格を回避できたから安心した?
合格出来たら嬉しい?
リラックスしてもいいだろうに?
どれも違う…
オリゼ自身、査定に不合格だとあの打ち上げと際には思っていた。
その時は感情も素直に出していた、
姿勢を崩して…俺らを心配させまいとするためにも言葉もやんちゃなものだった
ラフに振る舞っていたのに…
…今もあのときと同じ、
感情を自制するためのネックレスは俺の手の内にある状況は変わらない
それでも、
オリゼの姿勢も口調も別人のように…
まるで熟練の傍仕えみたいで、
…侍従の鏡のようだ
覚悟したんだ、
生半可ではない…覚悟を。
その家紋を身に纏う重責を背負うと決めたから
個人の感情を公の場で、
査定が終わろうと城内でなくとも…主人がこの場に居なくても
そう振る舞っているのだ
「完敗だな…見せつけられた」
「…ホス?」
「…気が引き締まったんだろ。
…つまりああやって侍従らしくしているのも、少し考えれば至極当然だ。
例え嬉しかったとしてもその一時の感情を抑えているからああ見えるだけ、
安心したり気を抜いたり…
ましてや合格に浮かれるなんてする筈がない、この合格が自身にとってどんな意味を持つか知った上で振る舞ってる」
「…成る程な、家紋と主人の威光を損なわないためか?」
流石、キナーゼは頭の回転が速い
そう、
赤でもただの赤じゃない…
規定がなければ講師長は、俺やラクターゼ以上の色をオリゼに与えた筈
この資質を見抜いていたな…?
懲罰を受けたことも霞むくらい、オリゼは色違いの俺よりももう既に何段階も侍従らしい
「そうだ…」
「ちっ…リゼのそう言うところ、やっぱり赤じゃない」
「…理不尽だが短期講習者の得られる規定の色…は、
そうか…そういうことか」
…ああ、そうだ。
キナーゼに何の事なしに返事した自身の言葉に気付かされた
おかしな内容だと、
こんなことは侍従として仕えていてもあり得ないと思う事がこの査定には溢れていた。
今考えれば…どれもこれも共通点があった。
"理不尽"
"不条理"
"無理難題"
査定は侍従として資格があるか見定める為に行われる。
ならば…そもそもその大半が侍従として動くために、必要不可欠だった?
あのおかしな内容は…
筆頭には不条理だと愚痴をこぼしたくなる程の物だった
査定は、侍従として資格あると測られていたのは
これらに甘んじる能力があるか試すもの?
善悪と、
白と黒で明確に判断なんてつけられることはこの世にはない
何事も立場や、
視点が変わればそれも反転することも多々ある
理不尽で、
正解なんてそもそもない場合だって…
そんな中、
その不条理な現実を顕著に…極端に大きく再現したのがこの査定だったのだな
それが、隠れた裏の課題であったなら…
主人役と侯爵役、
どちらにつくかなんてそんな簡単な事ではやはりなかった…
…
…
「聞いてるのか?
おい、考え込んで…おい?」
思考の沼から、
キナーゼの呼び掛けで引き上げられる…
…ああ、
時計の長針が五分程進んでいるな。
どうやら思考に潜りすぎた
何度も俺が考え込んで至近距離からの、
こいつの声すら聞こえていなかったらしい…
「ちっ、キナーゼ…だから見せつけられたって、俺は言っただろ?」
「…ホス、お前悔しいのか?」
「黙れ…」
もし、
オリゼはそれに気付いていたのなら…
そしてあの奇策を選んで実行に移していたのだったら…
悔しいどころの話ではない。
キナーゼは俺が単に、
オリゼが侍従らしく振る舞えているそれに負けたと悔しがっているとおもっているんだろうが…
「ホス…どうした?」
話すか…?
少し心配そうにキナーゼの表情が曇るのを見て思う
いや、
訂正するのも骨が折れる。
何より…口に出せば、
俺自身の至らなさを自発的に説明するようなものだ。
傷口に塩を塗る…
そんな自傷行為は俺の好みではない
「あー、まあ…俺もだけどな」
「…馬鹿」
何度か目をしばたかせ、
何か俺の顔から複雑な感情を組んだのだろう
査定の目的云々まで、
俺の考えが察せたとは思わないが…この話を終わらせてくれたようだ。
考え過ぎて煮詰まらないように、
俺が俺を追い詰め過ぎないように…
憎い程にこういう機微だけは昔から勝てたことはない
また悔しさが増えていって、
それだけをキナーゼに言い返した
認めるのと、
悔しくないことは別問題だ
…
…
その後は…オリゼを見ながら、
取り留めもない話も交えつつ…暫く会話していれば、
皆の声も落ち着き…そして次第に解散していくのが見える。
…オリゼの姿が、
よく見えるようになってくる
「皆…ありがとうございました。お陰で…」
人の囲いが散っていく、
オリゼの周りから離れた奴らは俺やキナーゼにも一言二言掛けて、
各々自室に戻っていった。
感謝や侍従の同期生としての挨拶、これくらいが普通だ
苦楽を共に乗り越えたとしても…
班を取り仕切った俺ら二人に対してのこの対応が冷たい訳ではない。
健闘を称え合うやり取りは良くてこんなものだ、
査定の目的は自身の合格であって馴れ合いや友人作りでもない
…貴族でもない侍従の俺らには横の伝を目的とした人脈を作る義務も殆どないのだから…
だからああやって、
掛け値なしに称賛や感謝、
そして羨望を浴びるオリゼが如何に異常で稀有な事か…
視界を遮る障害が完全になくなった
肩の凝りを解すように首を回しているオリゼが…
どう見ても自身が成した偉業に、その事に本人が気付いていないこともありありと分かった。
「はぁ…リゼは大馬鹿者だ」
「だな…」
思う所は多少違えど、
オリゼが一番自身の功績や高い能力を示したことを分かっていない
それに呆れるのは俺も同じだ…
キナーゼの溜め息に合わせて
…俺も気付けば深い息を吐いていた




