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侍従講習19






カーンカーン


遠く響く、

ここ二週間ぶりに聞く遠い鐘の音

それはまさしく講習の始業と就業の時…そして査定の開始時にもなったもの



「…まさか」


この人は本気でまた水牢に入れるつもりはなかった…?

査定の終わりの時間が迫っていることは、

取り仕切る講師の一人、取りまとめる長として当然知っているからだ。


水牢に入れるつもりはなくても、

…それでもオリゼにこうも冷酷な仕打ちを、

最後まであんな言葉を掛け続けた理由は…


オリゼに対する教え…それは少なくとも講師として生徒を見限っていない、

侍従としての道を差し示しているともとれる。

だからまだ評点がマイナスになる様な懲罰や折檻をうけたとしても…活路はあるかもしれない、

例え査定はがもう終わってしまったとしてもだ…

まだ教える価値があると講師長がオリゼのことをそう思って、教えを説いたのならば、



僅かでもオリゼの合格の望みはある、

侍従になれるかもしれない…





…少しの静寂


「講師長」


「分かっている…さて、三人とも長い査定お疲れ様だったね。

他の先輩侍従役の講師が夕食を用意している。時間まで部屋で休むといい、ホスとラクは先に上に行っていなさい」


皆、

俺だけではなく各々考えに浸っていたのか…

そのせいで生まれた静けさを裂くように主人役の講師が声を出した



「ええ、それが良いでしょう」


続くやり取りに結論が出たらしい。

当主役が侯爵役に声を掛ける、

そして…頷きながら侯爵役はそれに返事をしたが…




「…」


解せない


俺は当主役が最後に付け加えた言葉に顔をしかめる。

…それは俺らをこの場から引き離そうとするように聞こえるから、

オリゼはここに残る可能性があるかもしれないからだ。



「ホスファターゼ、黙り込んでどうしたんだい?」


「…侯爵、様」

「いや、もうその役ではない。

査定はもう終わったのだよ?」



反応しなかった俺に声を掛けてきた…

それに返事をかねた返しをすれば、もう侯爵役ではないと…査定は終わったと改めて口にしてくれた。


意見を言えない侍従見習いの立場は終わったのだから、

主人役の断り無く発言は許される。

…俺が躊躇した理由は分かっていると、

査定は終わったとあえて言葉にした侯爵…もとい講師長は俺の自由な返答も許されていると示した…


ならば、

今は講師と生徒…

目の前にいるのは仮の主人ではないならば。

つまり…

俺がどのような振る舞いをしたとしても、

あまりに酷くなければ査定の評点にも影響はない証明だろうから…





「では講師長、俺はオリゼと共に参ります」


「…ホスファターゼ」


咎める様な声に変わる呼び掛け

それもそうだ、講師長の言うことは真っ当…


俺の体は疲れきっている。

査定後半は特に無理をしてきた、冷静に考えれば直ぐに寝て睡眠不足も解消するのが好手




だが、手放しに心地よく休めるとは思えない


悪ければ…

寝れるかも分からない



「その指示は聞けません、講師長」


「…心配なのは分かるが、オリゼのことは私達に任せなさい。

己の心身の疲労を回復させる方が先決だろう?」


「体は休めても…心労は増えるだけです」


「私の判断と指示が間違っていると言いたいのか?」




「…申し訳ありません」


鋭さが増してくる声にも、怯まない。

間違っているとも誤解されかねない返答を迷うこと無く紡ぐ、

返事していく内に…

もう評点のことは頭の隅に追いやられていった…



この意見を押し通すことが最善でないことは知っている。

ここは学ぶ場所。

査定が終わり、侍従見習いの立場がなくなったとしても…万が一にも評点は下がる可能性がないわけではない。




…俺は侍従になるために此処に来た生徒だ

講師に、

明らかに間違った意見を…我を通すことは望ましくない


それでも、

心は定まっていた





「そうですね…私もホスファターゼと同意見を。オリゼを置いていけば楽しめそうもありません」


懲罰房の中から、

予想だにしないラクターゼからの援護射撃。

あいつもらしくもない…な



俺ですら講師に異論を唱えることは、

意見を言うことすら…意を決しなければ出来なかったと言うのにだ。

久方ぶりに意見を言うことは、

査定が終わったと分かっていても勇気が必要な事で…


そう…


長らく、

侍従見習いとして査定を受けてきた期間は1ヶ月余りにもなった。

それは体に染み付いて、

講師に対して発言することすら無いに等しかった…



が、耳に届いたのは不自然な程…自然体の援護だった。

余計な力も、

緊張も滲むことの無い声音が格子戸の奥からは聞こえてきた。


何か言うとしても講師に従うか、

俺を説得する側として口を開くと思ってたが…

人間、分からないものだな。


本心は相変わらず分からないが…

それでも、従順に長いものに巻かれるラクターゼがこんなことを言うとは…頭につゆ程も無かった





…2人共か

そんな呟きが目の前の講師長の口が漏れる


俺や、

ましてラクターゼもそんなことを言うなんて…


多分、講師長も予想だにしなかった。

らしくないと考えたのだろう…

普段なら…こいつも俺自身もこんな行動は取らないからそれも頷ける。


…が、

此処で引くわけにはいかない

あんな酷い格好にされたオリゼをそのまま残しては…

援護射撃は、

動揺しているところを見たことはなかった講師2人の動きを一瞬止める程の威力




「…好きにしなさい」


目に力を込めて返答を待っていれば、

視線で仕方ないと…ため息をついてから許可が下りた。

押しきれた、か

俺らの意見を渋々ながらも汲んでくれた様だ…



「まったく…

キナーゼ、ホスファターゼと協力してオリゼの枷を解いてあげなさい」


「はい」


心底呆れた素振りを隠さない、そんな講師長からの新しい指示


付き添うのならば、手を貸しなさいということだろう。

暗にオリゼの介錯をしなさいと、

俺に向けられていた視線をオリゼの方に投げ掛けて促された



そしてその意に従って、開いた扉から入れば…






更に…らしからぬ光景。

鐘が鳴る迄は微動だにしなかったキナーゼが、

率先して自発的にオリゼのことを気に掛けた行動を取っている。

嗚咽をこぼし、

体を痙攣させるように震えている背中をゆっくりと優しく擦っている…


これなら、

ラクターゼでも付き添いたくもなるか…

血の通っていない奴だと思っていた評価を心のうちでひっそりと取り下げる



「ホスファターゼ」


「…ああ、オリゼは俺が支えているから解いてやれ」



その行動を暫し見ていた…

考え事をしながらぼうっとしていた俺の視線。

それに気づいていたらしいラクターゼが、

オリゼを宥める手を止めることなく寄り添いながらも此方を見上げてきた


どうやら、

早くオリゼの戒めを解いてやりたいらしい…

そしてその為に俺の手を借りたいと、

キナーゼはさっさと手伝えと声を掛けて急かしてきたのだ。





「…早くそうして下さい」

「悪かった…今、手を貸す」


そしてその戒めを解く鍵はキナーゼの手の中にある、

だが…

ただでさえ疲弊して鎖で体を支えているオリゼ。


加えて

講師長の冷酷な言葉で平静も失った状態だ。

そのオリゼを支えながら、

一人で解いてやることはキナーゼであっても難しい。

2人掛かりでやらなければ、

オリゼが怪我をする危険性もある…




「頼みましたよ」

「…承知している、

オリゼ落ち着け…もうお前を害する者は居ないし、枷も今から解いてやる」


「…」


オリゼに声を掛けながら

ラクターゼに代わってその震える体を持ち上げ、

支えて…

オリゼの自重によって手首に掛かかっている負担を無くす。


自立していないオリゼの体重で手枷が下に引っ張られ、

天井から伸びた鎖はピンと張っていたのだ…

そのしっかりと引き絞られた鎖を緩める。



俺がオリゼをしっかりと支えた、

それを確認したキナーゼは一つずつ丁寧に解錠している。

オリゼの様子を伺いながらも協力し…

2人掛かりで自由が利くようにしてやっていく




…やっと全て取り払えた、

これでオリゼを戒める物は何もなくなった


「オリゼ、大丈夫か?」


「…ホ、ス」


…思った以上に

支えを失ったオリゼの体は重い。

それを慎重に支えてながら、一旦床に横たえさせた。


枷を外し終え、自由が利くようになったとは言え、

自由に動き回ることはやはり出来ない。

ずっと体を動かすことが叶わなかった、

筋肉は張られ満足に動けない…

それは分かるが少し奇妙だ。


査定は終わった、

それなのにも関わらず少しも自ら動こうとしないのは…

掠れた声で俺の声に僅かに反応するだけ。

…まるでまだ折檻されているとでも思っているように見える。






ラクターゼと顔を見合せ、

言葉を尽くし…宥めていく。


…そんなオリゼを落ち着かせられたのは暫く経ってからだった



「二人とも、後は私達に任せて自室に向かいなさい。

…疲れただろう?」


オリゼの様子がおかしい事と、疲弊度合いが予想以上


それを講師長も察したらしい。

だから俺らを労る…

目に触れさせないように…それは同時にオリゼの側から引き離そうとするようにも聞こえる言葉を再び発したのだ。



…開け放たれたままの格子戸の外から

一度目よりも語気を強く、声が掛けられた


が、

もう査定は終わった。

従うだけが脳ではない…



「いいえ、オリゼの側に居させてください」

「了承出来かねますね、

私もホスファターゼと共にオリゼを介抱致します」



今日はらしくない事ばかりだ、

俺が…そしてラクターゼがこんな行動をとるなんてな


自然と口から出る言葉は…

自己責任だと普段なら割り切る俺の性格の燐片すら残っていない甘いもの





「はあ…ラクターゼ。

そしてホスファターゼもだ…オリゼならば手当てしてから向かわせる、心配は要らないから先に休んでいなさい」


諭す様に、

ゆっくりとした口調で講師長が二人を自室に下がらせようとする



「…いいえ、こうして査定を皆で乗り切れたのはオリゼのお陰です。

手当てが必要な状態と知り得ていて、おいそれと向かえません」


「ホスファターゼと同意見ですね…

皆が最後まで反旗を翻す行動を自制できたのはオリゼあってのこと、

…例えその手段や判断が間違ったものであったとしても、それは事実です。

査定の最後まで私達は…

オリゼのお陰て心の均衡を保ち、最後まで手を汚さず罰も受けずに業務を遂行出来たことに違いはありませんから」



…が、

引くことはないとの意思表示




その言葉を耳にして…眉を下げる、

どうやら何か、

考えを巡らせるているようだ




「仕方のない子達だね…オリゼ、構わないかな?」


少しの間が落ちた後、

講師長が結論を出された。



頑なにオリゼに付き添うと言い張る…

それに仕方無く、

ガンとして動かない二人に講師長はついに折れたのだろう…

オリゼに問う声は、

私の隣に立つ上司の…講師長の声が呆れ混じりになっている



「…はい」



横たわったまま未だ動こうとしないオリゼ


2人の身体越しに垣間見えたその顔を窺えば、

やはり本心では嫌なのだろう。

はいと答えたにも関わらず…眉間に皺を寄せている



それもそうだ、

誰であっても自身の無様な姿は晒したくない。

が、そんなオリゼの真意を汲み取れているのか否か…それとも分かっていても譲らない二人


後ろにオリゼを庇うようにして…

ホスファターゼもラクターゼも講師長の付き添いの許可が出るまでは、

隠すように守っている。

…動く気配はない



講習でも、

査定期間でもこのような行動を取る子達ではなかった


それでもオリゼの介抱を、

心配をしている。

私達から守るようにそのまだ成長途中の小さな身体で、

視線を遮っている。

…そんな今の姿からはその認識を大きく変えなければと思う。






「2人共、介抱に付き添ってよい。

だから此方にオリゼを…」


…講師長も顎に手を当て、

そして一向に出てこない2人に許可と催促をした。

このナイトと化した2人の疲労軽減よりも優先すべき事を知っている、

折れた理由もそうだろう。

予想以上に困憊しているオリゼを早く手当てをしなければと…遂に許可した、二人が壁の化身から介助者になって出てくるのを待っている。




そう…

講師長も私の心中と同じ。


早く手当てがしたいのだ、

オリゼの今の状態があまり芳しく無いことを一番に把握しているのは…紛れもなく講師長だ。




…ここの講師であるからには査定の判断材料として、

一人一人の合否を出すためには…零細に渡る生徒の行動、そして体調管理が出来ているかも把握出来る能力を持たなければならない。


査定を受けるに足る生徒であっても後半は熾烈…

普段は出来ていても、まだ生徒で侍従ではない。

まして現実で起こり得る最悪に近い内容が査定だ、その緊張感と評点稼ぎの欲に負け…自己判断での体調管理が難しくなって体を壊す生徒は珍しくない。



だから講師は目を光らせる、

侍従査定における重要な評価項目にであることと同時に…過度で命に関わる程の体調不良を起こさせない。

無理をして自己管理の甘くなった生徒自身を守るためにも、

この管理能力を身に付けることが講師の大前提だ。


その講師を取りまとめる長、

講師長にそれが分からない筈がない。

…今のオリゼの状態が、

放っておけば最悪、元の健康な状態に戻らなくなるかもしれないと





「講師長、何故構わない等とオリゼに聞くんですか?」


やっと説得ができた

ホスファターゼとラクターゼがオリゼを起き上がらせ、

此方に運び出そうとしてしている



「ホスファターゼ…長時間の拘束は、物によっては内臓への負担や血流の阻害…死に到るものすらある。万が一にも障害が残るようなことが無いようにはしているが、枷を外せば崩れ落ちるのが関の山…ほら、立てない上に力も入らないだろう…

二人はそんな姿を好き好んで仲間の前で晒したいと思うか?」



「いいえ」

「御免ですね…」


「このあと処置をする。

見せたくない様を見せても、それでも構わないかと聞いたんだ。…まあ、許可したと言うことはそれを分かっていながらオリゼは君達の心配を汲んだんだろうね」


「「…」」



押し黙る2人、

そして運び出そうとしていた動きも止まる。


それは二人のオリゼを心配する為に付き添う行動が、

オリゼにとっては辛いものである事だと責める物であったからだ。

それと、

これはオリゼ自身に対しても攻撃的な物になると思うのだが…?


例え講師長が、

早く処置を急ぐために…二人をやり込める為の手法であったとしても。

そうオリゼの心情を推察して言及することは今…非常に好ましくはない



やり過ぎ…ですよ?

運び出そうとしていた動きも止まってしまった

二重の意味で芳しくない…



「…講師長、説明すればするほどオリゼが気にします」


「どうせ処置を目の当たりにされるんだ、今更だろうに」


意地が悪い…

オリゼの激しい震えは止まった様だからと言って、些か厳しすぎ





また泣き出したらどうする?

…状態が悪化したら?



だだでさえ

あの子達が時間を掛けて落ち着かせた甲斐がなくなる。

その直後にこんな言葉を吐かれれば、

精神攻撃になり得る…と分からない講師長ではない筈





確かにオリゼは強い子だ、

死の恐怖にも、自制心をもって打ち勝てる様な…

その評価は間違っていない。


…だけれどまだ子供、

危うい一面とて沢山垣間見得ていた


今は水牢に入った時より体か過度に疲弊している、

枷が外れて横になっているとは言え、冷たく硬い床の上。

…介抱を直ぐにしなくては血流が悪くなっていくばかり、

その身体にも更に負荷を掛け続けることとなる


精神的にもギリギリの筈…

持ち直したとはいえ、心身共にボロボロのオリゼ。

それに負荷を掛ければ…

心が病む可能性が増える、そうでなくとも止めを差すに等しいのだ



講師長の意図が分からない…



「…私は構いません」

「オリゼ、まるでこの先何をされるか知っているような口振りだな、もしや経験ほ「講師長…」…悪い悪い」



普段なら上司の発言を遮らない、

そして地の這うようなこんな声も出さないが…

流石にここまでの軽口…は見かねた。

この状況下で普段通りのひょうきんさを発揮する講師長の精神力は、これ以上要らない。

…もう、

これ以上オリゼの耳に入ることは、

発言をしてもらっては困ると水を差した。


私が普段のように止めても

講師長は少しからかうような口振りでオリゼに対する精神攻撃を止めないかもしれない、

…待ったをかけても耳を持たないと判断したからだ



「講師長、オリゼの処置が先決です」


「…その様に怖い顔をしなくとも分かっている」



「ならば何故…」

「オリゼはこの程度で揺らぐ子ではないだろう、それと…時間を置いて諭しては効果も薄れる」


「教えのおつもりですね…

己の行動のせいで今、仲間の手助けと…処置を急がねばならなくなる程の体になった。その要因を考えろと?反省しろとオリゼに示唆されているのですか?」



「分かっているではないか」


「…お考えは分かります。

が、今必要がある事とは思えません」



「今なら心にまで響くだ「講師長…何も今でなくとも聞く耳は持っている子ですよ?」




…理解できない。

先程までの処置を急いでいた素振りは殆ど無い…

その理由も分かる。


オリゼは正気を、落ち着きを取り戻した。

普通の会話するのであれば…少しの間であれば状態の悪化はないだろう


だが処置をしなければならない程悪いのは変わらない事実。

そしてオリゼに対する講師長の問いは、

オリゼにとって苦しく…


心の平常を失わせるもの…


状態が悪い事を知っていて、

何故会話を切り上げて此処を早く出ない?



何故…


ホスファターゼ達の説得も済んだ、

オリゼを此方に運び出そうとしていた…まさに今

何故立ち止まらせた?


これ以上の処置を遅らせるような事を、何故…

何かこの上司には私には至らない考えがあるのだろうか?

オリゼは起き上がろうともしない


…脱力して横たわったままだと言うに





「ここまで素直に、とはいかないだろう」


「…」


まあかなりの頑固者ではある…

天邪鬼で…説教したところで直ぐに素直に認め従うことも…

この場で、

弱ったこの状態での教えは効果も絶大だろう。




…講師長の言い分は正しい

     


が、効き目が大きいからといって… 

それが必ずしも良いものになるかは分からない


…倦怠感と冷えで辛いだろうに。

そんな状態で、

目を閉じて耐えている。

恥外聞を晒しても…構わないと言うオリゼの心情はどの様なものか?

処置が何を示すか、

全く知らないのであればオリゼはそんな耐えるような表情にはならない…




「副講師長…見なさい。

オリゼなら、この程度は耐えられる。確かに私が嗜める言葉に耳は痛いだろうが…心を砕かれる程の影響はないだろう?」




確かに一歩間違えば病む事になるかもしれない言葉を受けても、

精神を壊していない。


震えは止まったまま、

講師長の言う通りにオリゼは安定している。

講師長の狙った効果、

反省だけ促されて…私が危惧していた事にはなっていない



刑罰程の何かしらの経験が豊富なのだろうと思うのは、講師長で無くとも薄々…

いや、確信を持って私達講師も当に察している。

特に水牢での一件からは色々と勘繰りたくなっているのはあの同期のドSと同じ、

講師長も…

そして自身も興味が湧いているのは事実だ。


生意気で…

査定中で主人役として関わる内に聞きたい事も出てきた。

講師の立場以上の教育をしたくなった、

意地悪であろうと徹底的に…諭し、

堅牢なプライドを壊し、


その清廉潔白を汚したかった…

汚い、世の中の道理を教えてやりたいとさえ思わされた


が…

それだけの理由で、

貴族の子息に興味だけで踏み込むのは…

好奇心で行動に移してしまえば…きっと此方としても怪我では済まない。

そもそも…

易々とオリゼが口を開くとは思わない、

今の状態ですら…講師長の言葉にすら打ち負かされない程の胆力があるらしい



「…その様ですね、

ですがそろそろ…もう猶予はありません」


「そこの判断は誤らない。

うん…確かに限界が近いか…そういうことだから二人共オリゼを此方に」





「っ、分かりました。ホスファターゼ…オリゼを運びましょう」


「ああ…心得ている」


猶予は刻々と無くなっている、

無い訳ではないが悠長にしている時間はないと言った、

その処置を急いでいる講師長の判断もが十分に伝わったらしい…

だからだろうか…

今度は迷うこと無く動き出す二人



慎重に、

そして急ぎながらも

オリゼを大切そうに抱えるように支え出てきた…



「よろしくお願いします」


「もう猶予はないと、処置を急ぐ必要があるのですね?」


まだ一見冷静なラクターゼ、

だが二人に大差ない…か。


オリゼを心配する言葉を口にしたホスファターゼ同様…少し魔力が漏れかけている



「此方に」


そういって

…そんな不安そうにしている二人からバトンを受け取った。




「副講師長」


「こうして体温を保てれば、一先ずは安心して良い」


ホスファターゼの言葉に

安心させるような返事をする。


そう、

手早く床に陣を描き毛布を…手に持って構えた手。

それにオリゼの重さが掛かっていく


その重みを片腕で支えながら、

まだ小さな体に足先まで簀巻きのようにくるむ。


…血からの抜けきった、

ぐったりとしたままの、

冷えきったその小さな体を抱き直し…抱えたのだった









「オリゼは…」

「適切に処置すれば明日の朝には全快するでしょうね」


したくはなかったが、

房の扉から出れば毛布を広げていた講師…大事に扱うだろうと分かって仕方なくオリゼを受け渡した。


寒さが是正されたのか、

その大人の腕の中に収まるオリゼは…

毛布の効果か、

身を守る感覚に安心したのか少し体の力を抜いていった。



判断は間違っていなかったらしい。

それに俺らもでは…

あの長い階段をオリゼを抱き抱えて運びきれない。

悔しいが大差ない背丈と、

体重のオリゼをまだ子供である俺らが担うのは無理がある…




二人からの視線が痛い、

当主役が例え理不尽な役柄だったとしても信用されなくなっているとは…

私が危害を加えるとでも思っているのだろうか、


少し居心地の悪い雰囲気の中やるべき確認を進めていく




「…副講師長」


「ええ、

体格から鑑みて私より講師長が適任ですが…今回は私が致します」



オリゼの脈や、

肌色…呼吸を軽く診察し終えて抱き抱え直し…中腰から立ち上がれば、

案の定、上司から詫び入れる声



この査定の間、

講師長はつい先日に足を捻挫したのだ。

安全にオリゼを運ぶ一番の適任は講師長、


だが今は足首を痛めている。

つまり…この場では私以上の適任者はいないのだ




「悪いな」


「いえ…それよりも講師長、そろそろ上に」


「ああ、

灯りを…早く上に戻って処置をしなければな」


暗くても分かる侍従らしからぬ立派な体躯に、

オリゼを預け…

指示通りに、点在する灯りとりのための魔法陣の大元に向かって魔力を注いだ





…講師長が足を進める、

私に指示を出して、先導するその背を追いながら慎重に階段を昇る



「階段だ、

心配なのは分かるが…危険な行為だよ」

「…そうですね」



近づいてきたホスファターゼが、

私の腕の中を、オリゼを覗き込んでくる…

一方…駆け寄りはしないものの、ラクターゼも眉を下げて心配しているような雰囲気は始終背中で感じとれている。




「オリゼ、心配させたならば何か言ってあげなさい」

「…」


質問には答えない

暫く沈黙が落ちると、オリゼが目を開いて腕の中から俺の方を見上げて…

…見てはくるが、

しゃくってホスファターゼに自身で答えるべきであると促した



「オリゼ」

「…大丈夫だ、ホスファターゼ」


再び促せば、

覗き込むことを止めたホスファターゼに向けて返答する。

が…


「そうは見えなかったが」

「世話焼きでもない貴方が…何故そこまで心配するのですか?」


「そうであろうと、

心配することの何が悪い?

震えを抑えられず、嗚咽を溢す仲間を心配するのは当然だろう」



ホスファターゼの言葉に耐えるように

顔を私の腕に埋めるようにする…

正論ですからね、

否定は出来ないとオリゼも思ったのですかね?



「自己責任です、

貴方がそうしなくてもよ「オリゼ、ホスファターゼと私も同意見ですが?」…ラクターゼ…?」


「見なかった、

知らぬ降りは致しませんよ?

私にこのような役回りをさせておきながら、心配をさせないとは言わせません」



「ラクターゼ、

負担を掛けたことは謝った筈です。

…心配についても、アフタヌーンティーの前に貴方の同行の条件を飲んだので問われる理由はないですよね?」


「…本気で仰ってます?」

「…」



「ラクターゼ」

「何ですか、ホスファターゼ?」



「キナーゼ曰く、

オリゼが押し黙る時は…本人が自身に非があるか都合が悪いと感じた時らしい」

「へえ…面白い見解ですね」



「そうだろう…だから先程のラクタ「講師…早く済ませて下さい」…オリゼ」


「つまり、

それで負担を掛けたことも、心配することも充分な対価を払えていないとオリゼは判断していて…

私の権利を否定は出来ないと内心自覚しているのですね?」


「…」


「…まあ良いでしょう、講師長」


ホスファターゼの反論、

そしてラクターゼの加勢に、

分が悪いと感じたのか最後には投げやりに答え黙り込んだオリゼに呆れる。

こんな問答では、

誰も納得させられないだろうからね…




私としてもオリゼに対して、

嫌味の一言でも言ってやりたくもなる…


早く済ませろと…

それは此方の心境を無視した勝手な物だ。

その気持ちを押さえるも天を仰ぎたくもなるね…


少なくとも…

早く手当てをすべきなのはオリゼと同意見だが、

講師長を止めた立場としても…

オリゼの精神に負荷を掛けることになったとしても、これは嗜めたくなる。



まあ…

私は自制して致しませんが。



「そうだな、執務室の隣室で処置をしよう…

オリゼ、暗闇に長時間いた君は目が眩むだろう。私が良いと言うまで暫くは目を瞑っていなさい」


「…分かりました」



講師長の言葉に、

何か躊躇する含みはありつつも了承し目を閉じていくオリゼ。


階段の終わりが近づいてきて…

光が強くなってきて眩しそうにしていた。

長時間暗闇に慣れた目には悪影響だと、

本人も理解したからだろう…





「それで処置とは何をするのですか?」



今まであまり質問をすることなく口を閉ざしていたラクターゼが、

査定が終わればこうして…質問をしてくるとは。




何だかんだ、

孤高で排他的、冷酷な人間に見えていたが…

査定が忙しくなるにつれ、評価を私達は変えた。


状況判断の上、サポートや行動を取った。

自身の評点を下げるかもしれないと知った上で関わった…

オリゼを支えたのは、

全体を俯瞰しながらも皆の為に身を削るリーダーを補助する姿勢は役割分担の義務に留まる物だけではなかった。


だからこそ、

…血の通った感情からの物だと計ることが出来たのだ




「傷の確認と、筋肉を解す。

湯に入れて血流と体温を元に戻す、録に食事も摂っていなかったようだから白湯を飲ませて胃を落ち着かせる…この様子だと大丈夫だろうが胃酸は吐きそうか?」

「いいえ、ですがこの後物を食べるのであれば…白湯は欲しいです。胃を動かしておきたいですから」



「オリゼ?」

「ラクターゼ、貴方が気にすることではありまけん」

「そうは言いましても…」



そして査定が終われば、

こうして明らかに心配していると、

口にも出している…



「ああ…気になるな。あれから何も口にしてないのか?」

「…少し間食は致しました。貰ったものは無下にする訳にはいきませんから」



それは冷静沈着なホスファターゼも、

同様に。

…査定は馴れ合いではない、

業務を回すために協力する事はあっても本来は各々の能力と評価を示す場であると講習でもその姿勢を崩さなかった。

仲の良いキナーゼに対しても例外なく…

過度に支え合う事はしない性格だったのだが、

その境界線を自ら破ったようだ。




「あれか…なあ、オリゼ。

そういう問題じゃないだろう…パンすらあの後食わなかったのか?

なんかしらの処罰で食えなくなることも何処かでは分かっていながらも」


「甘味はエネルギー源として不足ありません」

「そういう問題じゃないだろって言ってる。その理由は分かっているだろうが」





キナーゼとホスファターゼは優秀だ、

だが情を持って行動することは不必要だと考えて切り捨てていた面があった。


確かに…

見習いではなく、一人前の侍従であれば己の業務を一人でこなすことは当たり前で義務で…

仲間とは言え、他の持ち回りのある侍従に甘えることは暗黙の了解で御法度に当たる。


正しくもあるが、

時にはそれを破る事も正しくなると…

有事の際には、

規定や御法度の一線を越えた対処法も取らねばならない時がある。


オリゼの場合…

少々それが行き過ぎではあるが、

この二人のからを破る起爆剤になって更に成長出来たようだ





…微笑ましく、聞いているのは私だけではないようだ…

階段を昇る揺れではない、

先導している講師長の肩の動きは笑っているせいだろう。

暗闇に紛れ、

笑う講師長にも…口元が緩む私にも会話に夢中で気付いていないか。


そんな少し皮の剥けた二人に怒られているオリゼ、

やり込められている一人を含む3者の会話に包まれながら…

耳を傾けながらも暗い階段を登っていった







「…っ」

「オリゼ、瞑っていなさい」


目を瞑っていても眩しい

階段が終わり、執務室に戻ってきた事が…講師の揺れから分かる。

俺の記憶では隣室に繋がる扉は執務室にはなかった…


何処に連れていかれるのだろうという不安感から

うっすらと窺おうと目を開ければ

真っ白な世界が。

それも一瞬…暗い影が落とされた


暖かい掌

主人役の講師が溜め息混じりに俺の目を覆いながら

目を瞑る様に釘を刺してきたのだ。





「さてと、降ろすよ?」

「…はい」


情報は得られなかった

一瞬開いてはみたが、

白飛びした視界では目を痛めただけ…

ゆっくりと座らされた座面は固い

体を支えて貰いながらゆっくりと着衣が剥がされて行く


勿論…

背中にも前にも綿の感触がするから、

体を覆いながら脱がされているから直接肌を晒されている事はないと分かっている

見えないはず…

それでもあまり気分のいいものではない。




「オリゼ、目は開けないように」

「…はい」


気になって、

手が離れた目を開けようとしても釘を刺される為に開けられない


感覚だけが情報だ…

神経を耳と皮膚に尖らせて状況を把握しようとする。




着脱が容易、手術着のような物か…


気配が少し離れた?


肌に接する布も身をくるんでいる…

どうやら漸く着替えが終わったらしい。


その感覚と雰囲気を体全体に感じて一安心、

力を抜いていると、

袖や裾、襟が捲られて再び体に緊張が走る。

傷の確認がなされている事に息を詰める




支えているのは講師、

ならば診ているのは講師長か…?




「やはり水牢での枷の後も残っているね、ゆっくりと横に…支えているからそれに従いなさい」

「はい…」



「講師長?…手当ては先になさらないのですか?」


「湯船に浸かった後ですべきだろう。

オリゼ…これ等になるべく触らないように体を解していく。体の力を抜きなさい」

「畏まりました」


講師長の言葉に返答し従えば、

背には固いマットレスに

頭には角張った枕の感覚…


ここは診察室のようなものかと、

温かみの無い場所であると感じる。

…これから処置されると改めて感じる場所に、ヒヤリと冷たさが染みていく


柔らかく、

反発力のあるマットレスではない…

快適な睡眠の為のベッドでないことに気付き、

そう思ってしまえば…体の強張りは視界も利かない事も手伝って強くなっていく




俺を横たえさせた後、

その空いた手で講師は医療品でも準備している音が…

金属音や物音が少し遠くでする、

湯に浸かった後の準備をし続けているようだ



栄養補給の為の点滴か…

はたまた、

俺が暴れないように拘束するつもりなのか…




「…二人とも、どうせここに居るのですから手伝ってくれますね?」

「…分かりました」

「私で力になれるのでしたら是非に」


そうして、

近くにあったホスファターゼとラクターゼの声

も講師の方へ向かっていく

残されたのは講師長に俺…

嫌だと思いながらも、

このまま心配させておくのも…キナーゼや他の皆の晩餐で手足に力が入らなくては困る




「さて、血流と筋肉の強張りを…過度に痛めば遠慮なく言いなさい。痛みを与えるのが本意ではないからね?」

「承知しております」


「ならば良いのだが…始めるよ」

「お願いいたします…」









仰向け、うつ伏せ

なされるがままに受け入れた。

全身を落ち着かせる様に肩から腕に、腰に血を流すために撫でる手が気持ちいい

…終わり掛けだろう、そう目測しながら心地好い倦怠感に浸っていた



「終了だね…これで少しは良くなっただろう?」

「お陰様で…有り難う御座います」


手を握り少しばかり力が入るのを確認しながら

やはり当てにはならなかったと思いたい気持ちを必死に飲み込んで礼を言う…



ましになったものの

最中は激痛ではなくとも、それはそれは…痛かった

凝りと関節周りのストレッチ。

力加減も、

枷を痕周りに注意を払ってくれていたことを察っせ無いほど馬鹿ではない。

が…痛かった事に変わりはない。


手首に至っては袖が少し擦れるだけでも痛みが走る

長時間好き勝手に揉みしだかれて体が熱い

血流が良くなったせい、

状態としては改善されたが

乳酸も散ったせいか疲労も倦怠感も…そして汗も噴き出している


べとべとして気持ち悪い…




一旦離れた手の感覚に、水音が耳につく

気にしないようにしていたが…

気を散らすマッサージが終わった為意識がそちらに嫌がおうにも向くのだ。

それが何であるかは…

二人が俺の体を温めて汗も流すために、

俺から少し離れた場所で講師指示に従って溜めている湯船のものであることは分かってる。

会話が聞こえてきたから…

それは分かる



分かるのだが…

分かっていても講師長の手が体を触れる感覚に拒否反応が起こる。


体に力が入る…

汗もマッサージのものだけでなく嫌な汗が滲んでくる

それにも構わずに…

予告なく講師長に抱え持ち上げられ、運ばれる。




その音が近くなるにつれ

新陳代謝による体も心も冷やかに、寒気すら汗に変わり伝わったようだ。






「…もう目を開けさせてもいいですよね」

「水牢ではないとオリゼも分かっている筈だよ…」


「講師長」

「まあ、仕方無いか…目を開けてもいい」

「はい…」


きっと俺のそんな状態を見かねたのか

講師の援護により、

渋々だろうか…それでも目を開く講師長の許可が出る。



刺すような光の痛み…

それを経験したのは先程だ。

慎重に…

うっすらと、それを危惧して開いていく


明るい…

白飛びはしているが、

今度こそは目を突き刺す光も痛みも飛び込んでこなかった…






「オリゼはまだ力が入りきりません、二人は体がずり落ちないように…一方は柄杓で肩から湯を掛けて上げなさい」


「…了承した」

「では私が柄杓を担当致します」


ぼやけた視界の目の前には

石風呂か…

浅目に張られた水位は、俺の安全のため。



講師長によって運ばれた俺の横には講師が、

さらにその傍にいるホスファターゼは支え役…

湯を掛け流してくれるのはラクターゼか…


漸く、解禁された目の自由、

聴覚の情報が視覚と一致したのだった





「見えましたか?沈めるわけではありません」

「…はい」



余計な緊張が解けた、

身の危険がないことを知った後に思う。

俺は、この二人に

介抱される…のか?と…



「少し温め、時間が経つ毎に少しずつ温度を上げていきます。

傷に染みるでしょうが我慢してくださいね?」

「承知しております」


そう講師の説明を受ける間にも、

講師長が湯船に俺を横たえさせて浸からせてくれる



「さて…少し席を外します、その間は二人に任せますね?」



講師は二人の了承の返事を聞いて

講師長に続いて離れていく…


そして、

遂に二人と…俺だけを残して部屋から辞していってしまった…







長く湯に浸からせるのだろう、

その間やることでもあるのだろうが…

この二人を置いていけば、

講師の目がなくなれば俺がいいように怒られるのは分かっているだろうに。


講師達に、

無駄と分かりながらも悪足掻きをした。

無言で此処に留まってくれと視線を背中に投げて願ったが、

…見事に無駄に終わった…





部屋に水音以外響かない…三人もこの部屋に居ると言うのに妙な静寂が落ちる


着衣のままに、

ホスファターゼもラクターゼも指示通り俺の世話を焼く

俺も二人も無言だ…


そんな気まずい空気にも関わらず、

俺の身体は現金で図太いのだろう…


何を言うこともなく、肩に添えられたホスファターゼの手で

次第に温まっていく肩や腕

ラクターゼが丁寧に湯を俺に掛けてくれるお陰で、

汗も流されて気持ちが安らいでいく







どれ程経っただろうか…

半身浴とは言えそろそろもういいだろう

この無言の居心地の悪さにも、

とりあえずの体の調子が戻った今は…何とかして打開したい



「…もう大丈夫になりましたので、あがっても?」


「何が大丈夫だ…」

「…ぐっ」


「そうですよね、無理するにも程があります」

「…ラクターゼ…もう、暖まりましたから」




「…ホスファターゼ、何か聞こえましたか?」

「いや、何も」



怒気が左右から注がれた…

お前らに介抱されたお陰でもう体の自由も利く。

支えの肩に添えられた手も、湯も掛けなくてももう充分回復したというのに押し戻され湯も掛け続けられる…


査定は終わったし、

講師の指示に忠実でなくても評点も合否にも関係しない筈なのに…何故…?

俺が体調回復しなくとも、

業務に影響は出ないと言うのに…どうしてだ?




凄まじい威圧と、凄みで…

仕方無く起こし掛けた体の力を抜く。


眠くすらなり始めた目が覚醒した…

それを含めて丁度良い具合に動ける様にというのに、

ラクターゼとホスファターゼの手がそれを阻む…

そんな二人の意向に逆らえず、押し戻されるままに湯船に背を預け直したのだった





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