侍従講習16
主人役からの命令
執務室に行けば思った通り、通常業務と併用して書類を燃やせと言うものだった
命に背くことと分かっていながら、その一部を懐に仕舞い込み、
その一部を除く作業の完了と…
この不正についてと、皆に選択肢の説明をし終えた後、
こうして…
仰せつかっていた午後のティータイムの用意をして執務室の前まで来たのだ
ノックをしようとした、
その時
丁度出てきたラクターゼ。
もし主人役が隠蔽することを選択すれば俺は動けなくなる
可能性は低いが、自白するとしても命令違反と今からする忠言で処断されることは変わらない。
丁度良いかと、
業務について…ラクターゼに別途引き継ぐ事を手短に説明していれば不穏な空気を纏い始める…
「オリゼ、何をする気ですか…ただでは済みませんよ?」
「…ラクターゼ」
「反対です」
「そこを退いてください…行かせてくれませんか」
「どうしてもと言うならば退きますが、私も行きます」
1人増えたところで、
主人役への説得力が増すわけでもない。
…それに、
失敗する可能性が大きい。
ラクターゼには俺が抜けた後の、
役回りをして貰わなければ侯爵へのもてなしが万全にならなくなるかもしれない
「賛同しかねます、ただでは済まないと分かっていてそれに巻き込む等あり得ません」
「巻き込む?これはそもそもオリゼだけに背負わせる物ですか?」
責めるように、
巻き込むのではなく見習い全員に関わることだと苦言を呈する…
確かに、
俺1人の問題ではない。
が…俺が好きで選び取る道だ、
例え運良く忠言が通って成功したとしても誉れはない。
それをする代わりに
俺は本来の業務を皆に押し付けることになるから…
俺が欠けても作業は回る。
ラクターゼ、ホスファターゼ…そしてキナが中心になって動けば…
侯爵のもてなしであれど多少の負担を掛けることになっても、準備は抜かりなく行えると、大丈夫だと信頼出来るからだ。
その前提で、
今俺は書類を携えて此処にいる…
「一人で済むならそれに越したことはありません、
それにラクターゼには「皆に指示をすることをお願いしたいと?」…そうですね」
「それならば御安心を、
万が一を考えて傍仕えとヘパリーゼに既に頼みました」
「…どうしても地獄を選ぶと言うのですか?」
「構いません、それにオリゼ一人に背負わせませんよ」
埒が明かない…
平常心を保つための魔方陣への供給を止めて、
脅すように睨み付ける
怯む様子もなく、そよ風が吹いた程度だとでも言うような表情に右のこめかみに青筋が浮かぶ感覚
「…そこまで言うなら好きにしろ、俺は知らないし忠告した。
杖や鞭で済むもんじゃねえんだ、査定でなければ比喩でなく首が飛ぶ行為だってちゃんとわかってんだろうな?」
「脅したところで無駄ですよ、
キナーゼから詳細も聞いています…罰が水牢であろうと構いません」
水牢…ね
秘密にしろとは言わなかったがラクターゼにまで詳細をあいつは言ったのか…
それでも行動を共にすると言うならば、
取る方法は1つだけ
気を引きながらこいつを失神させるしかない
もてなしの準備に回らないならば、
戦力が削がれることに変わりはないならば…気を失わせた方が百倍ましと言うもの…
「無駄だ、お前まで道連れにする利がない。
一人で済む事に二人は要ら…っ「失神させるつもりでしたか?…腕っぷしで勝てない事は知っていますよね」…やめろ、ラク」
「ガタガタ五月蝿いです」
回り込み、勢いをつけて踏み込む
その勢いを乗せて首筋に手刀を入れようとした…その手は
音もなく背中に捻り上げられる
無理な体勢、関節と筋肉の痛みに片膝を着いた
立ったままのラクターゼとの高低差に自然と更に捻り上げられる腕…
「っ…何をする気だ」
「どうせ罰を受けるならば、少々方法を変えたっていいでしょう?」
魔力を魔方陣に注ぎ込む。
痛みが続けば疲労も溜まる、冷静にならなければこの状況もきっと変わらない
痛みと感情が薄れていくことに安堵していれば、
注意が逸れていたのだろう…抱き止めるように回ってきたもう片手が俺の上着とシャツの間に差し込まれ書類が抜き取られていく
掛かりきっていない陣の効果、
焦燥に駆られて自由の利く右腕を
肘を、
ラクターゼの急所に入れようとした…
「か…はっ」
「オリゼ、勝てませんよ」
かわされた…
「ラク、ターゼ…」
「呼吸が制限されれば苦しいものですよね」
「…ぐぅ…っ」
対岸で起こっている事象のようにラクターゼの声は他人事のように冷ややか
背中に膝か足か…乗せられて体重が掛けられるにつれ
首に回わされた腕が気道を狭めていく
それを阻止するために床について歯止めを掛ける左手は攻撃する手段を封じられた…
痛みこそ感じないが右手も痺れて感覚が…
「…っ…あぁ…」
ちっ…くしょう
脳がスパークする
白く意識が飛び始める…
こんなときに舌の魔方陣が発動したのか、
記憶に新しい呼吸が出来ない苦しみと走馬灯のような断片的な映像が流れ始める
魔力を途切れさせないようにしながらも、
自身の体が震え始める
擬似的な認識による酸素不足による痙攣か…
歪む視界に、
力が抜けた腕が、支えが無くなっていくのを頭の何処かで認識していく
…
「ん…っ」
「…オリゼ、大丈夫ですか?」
「手を…証拠、を」
切れた魔力供給
その腕の痛みに覚醒を手助けされたのは皮肉なものだ
意識を飛ばして時間は経っていないだろう
不安げな、
そんな色が混じる声が後ろから響く
近死感に冷や汗、肩の関節の激痛…
痺れを通り越して無感覚の右腕はどうやらまだ手放して貰えていないようだ
未だに背中に掛かるラクターゼの自重が俺の肺を圧迫して呼吸が浅くなっている
…勿論手加減されている、
ラクターゼに俺を殺す気はないからこそ…俺の舌の魔方陣は発動しない。
つまり生命維持に問題はなさそうだが…
…地面に張り付いた俺はさぞかし無様だろう、な
「懲りない人ですね…このまま失神させてもいいんですよ?
二人は要らない、一人で済むならそれで良いと…それには同意見です。その一人がオリゼでなくても構いませんからね?」
「何を…言って、いるのです…
まさか…私の代わりに忠言すると、でも言い出すので」
「いいえ、でも…それも経験してみても良いかもしれませんね」
「っ…笑えない、冗談は止してください」
「まあ、私も悪魔ではありません。
流石に貴方の意思を無下にするのも可哀想かと思いますし…進んで懲罰を受けたい訳でもありません。ですから、私と共に行くことを飲めば…書類を御返しします」
「…好きに、なされば良いでしょう」
「有り難う御座います」
交換条件、
それを飲まざる負えない状況で飲めば至極当たり前のように礼を言う…
容赦してもらってこれでは格好が悪い。
砂利を噛むように、
まだ使える左手と壁を伝うように支えにして立ち上がる
ティーセットを扱うには、
感覚がなくなった右手が必要
背を持たれながらも揉みほぐしチューニングしていく俺を静かに見守っている視線は無視しながらも、処置を続けた
…
左胸の内ポケットから
浄化の魔方陣が描いてある紙を取り出して足元へと置く
足をそれにかけて魔力注いでいけば乱れた髪も服の皺も伸びていく…一通り身嗜みを確認してから
使用済みのその紙を拾い上げ燃やした…
「…書類をお渡し下さい」
「どうぞ」
何事も無かったように差し出された、
それを片手で受け取り元の右内ポケットに納める
コンコン…
「何用だ」
「…当主、ティータイムの御用意が出来ました」
「オリゼか、入れ」
「有り難う御座います」
「なんだ、ラクターゼもいるのか…して、体は?」
「充分休ませて頂きましたので不都合はありません」
気持ちを切り替えて、
銀のカートを押し進め室内に入る。
その上で俺が紅茶の用意をする間、
ラクターゼは主人の机を片付け、テーブルセットをし始める
俺のサポートしているのか…?
自身を売り込むために、評価を上げるためにではないだろう。
俺の忠言と言う断及を止めたければ
あのまま意識を失わせても良かった…
俺1人に背負わせないと、一緒に来ると言ったものの…
罰を受ける気はないとも言った…
何がしたいのか…ラクターゼの意図が分からないが泳がせてくれているならば、することに変わりも変更も無い。
「そうか、この後侯爵が来られる…
ティータイムを要求していて何だが、そのもてなしの準備は済んでいるかね?」
「滞りなく進んでおります、こうしている間に最後のチェックも済みますし御心配はありません」
「ならばいいが…また、何時もとは違う香りだな」
ラクターゼが差し出したカップ
それを持ち上げれば、
普段好まれる紅茶でないことはすぐに分かる香りだ
…
「ジャスミンティーと、少し甘めのボンボンを御用意しました」
俺が用意したのは…
鎮静効果にジャスミン
疲れにはチョコの甘味
そして…
ボンボンに内包されるリキュールは少量でも緊張を解すには十分な酒精の高いものだ
「緊張と疲れに効くようにか…
そんなに俺は…いや、いい。たまには趣向が違うのも楽しめる」
「そう言っていただけると幸いです」
この家の交流関係のある家は、
査定の資料として配られている…
今から来る侯爵はその一覧にない。
格上の、
それも親しくしていない家の当主が来訪する。
貴族としてそれは気を減らすもの…
それは男爵家の次男として、
俺でも易く想像が…分かることだから…
隠蔽工作に疲れていることは兎も角、侍従として主人の気を楽にすることも業務の一貫だ。
何か言い掛けて飲み込んだのは、
当主役も査定の何かしらで少なからず疲弊しているのだろう…か。
まあ、手間をまた手を煩わせる。
その原因その物を断及する俺がそれを言っても説得力はないが
それは気持ち問題
それはそれ、これはこれだ。
…
都合よくそんな考えを巡らせながら、
ボンボンを口に含み紅茶で溶かしながら嚥下する主人が一息付くタイミングを見計らった
「当主…」
「なんだね?」
「当主は私に信用が足りないと仰られましたね、立場はなくとも"忠言"すれば良かったと…」
「ああ、言ったな」
「宜しければ…私の忠言をお聞き入れ下さいますか?」
「…聞こうか」
始まった…
口上が遂に始まる
オリゼが来る少し前…当主側に付くと明言した上で、当主に先程オリゼの行動予測を伝えていた。
どんな結末になるか、
それが分かってもオリゼは止まらないだろう…
することは同じだろうと…
それにも関わらず…
私は一縷の望みをかけて、普段しない行動まで取った。
オリゼを彼処まで苦しめて意識を飛ばさせたというのに何も変わらなかった…
幕が開けば、もう止められない。
ホスファターゼやキナーゼを始めとして心配している皆に、
柄にもなく情報の仲介とオリゼの穴の負担を回すため此処に居るのだ
サーブを止めて、
頭を垂れながら立っているオリゼに代わって給仕を…
横目で促され空いたカップに二杯目の琥珀を注ぎ入れていく
「此方を…」
「なんだ、これは」
「…それは領地の重要な書類かとお見受けしました。
他の物は御命令通り致しましたが…これだけは燃やすことは私には出来かねました」
「…命に背くのか?」
「背きます、ですが…それを盾に主人に弓引く事など致しません」
「だから手渡したと?」
「はい…私は当主がそれを監査の侯爵に提出する報告書でもあると、私の手からではなく当主自ら手渡す物と御察しします」
「…その望みは叶わないとしたら?」
「信用してお預け致しました」
「…もし反逆の意が俺にあればお前の身がどうなるかなど分からない筈もない、それでも信用すると言えるか?」
「何のお話でしょうか…毛頭私には分かりませんが此れだけは言い切ることが出来ます。
今、私の主人は貴方様です。
それを当主がどう扱っても私は構いません、ですが国に背く事も、主人に逆らうことも私には出来ません。
この身が侯爵の元に行く前に…お心のままに処断なさってくださいませ」
「それがお前の侍従としての忠誠心か?」
「ここで当主が私を見逃せば…
命令違反するような見習いにもてなしの場に向かわせると言うのであれば…侯爵に口を開いて良いと許可されたものと見なします」
やはり…
そうなるのか
高尚で、手折ることを躊躇する
自らの信じた道を危険であれど何の迷いもなく選び行動する。
…当主に反逆することは出来ない
裏帳簿であることは一目瞭然
それでも重要な書類としか言えない。
燃やしきれなかったと、ただ出来なかったと命令違反を自白するのみ…証拠書類と言えば、その被疑者筆頭の当主に手渡す時点で隠滅の補助となるからだ。
同様に…
当主が罪を犯したかと認めないのは、疑っていても確認しないのは黒であると確定させないため。
それが確定すれば、オリゼが当主に証拠書類を差し出すことは
証拠隠滅の補助、国に反逆することに至る。
だからその答えを知る前に…
当主に自らを、己を命令違反で拘束して下さいと…
国にも主人にも反旗を翻す事がないように阻止して下さいと願い出ている。
本当に当主が黒幕であれば、
口封じのために閉じ込められるか命を奪われるか。
命令違反で処罰されるだけに留まらない事を知りながらも、
それでも…
当主に自身がこの件について感づいていると示唆して、
己の身を投げ出している…
それでも良いと、
本当に思っているところがおぞましくも美しい…
これが査定で、命の保証があるからだとか期間が定められているからとそんな考えなど
…きっと何処にもない。
真剣に罪を乞うその姿からそう思わざる負えない…
ここでオリゼ自身が物言えぬ状態にならなければ…
この後もてなしで給仕役として侯爵と顔を合わせる。
その時…
追及が、屋敷での異変等のあったかと調書が始まれば、
情報の秘匿で国家反逆。
証言すれば侍従として主人に反逆か…どちらとしてもオリゼにとっては己を許せなくなる結末になる。
その可能性を潰すために、
それだけのために、
たったそれだけのために…清廉にも程がある
そんなオリゼを
呆れ、蔑み…愚かだと嘲笑う自分がいる一方で
尊敬する自身も居ることは確か。
…だからか?
この査定が始まった時も、
…班分けでオリゼの下に付くことを不思議と自身に認めさせられた。
キナーゼやホスファターゼを認めないわけではないが、此処まで自ら進んで協力はしなかった。
どんなに求心力や采配に長けた優秀な人間であれど、頭は垂れない。
愚直で、秀才でもない…
突出した部分があれど雲の上の天才でもない。
人間的で、欠けのある人物
私ならばしない愚行も…
愚かだと見下しながらも、それでも…心から感服する。
己の信条に従う、芯を貫き通す
そんな姿が眩しくて同時に痛々しくて…
そうでなければサポート役などに甘んじない私が…らしくもなく心動かされたから
漸く府に落ちた…
そうか、
だからか…
「…そもそもこれを手渡した時点で証拠隠滅の手助けをしている、その猶予も俺に与えているのは反逆にはならないのか?」
「何のお話か分かりませんが…猶予ではありません、当主が国に背く筈はないと思っております」
「詭弁だな…まあいい、ラクターゼそいつを懲罰房に入れておけ」
「…畏まりました」
「命令違反だ、それと許可をしたとはいえ忠言は規律違反…侯爵が帰ってから処断するから反省していろ」
「…御意」
やはり筋書き通り、
当主に指示されていた通りの場所ですか。
鍵も既に持っている…
項垂れたままのオリゼには、その視界にはその違和感も映らない筈
隠し扉…
一見分からないようにされている壁を押せば下に続く黒の空間が広がる。
暗くおぞましい、
無音の世界…
立ち尽くしたままのオリゼの背中を押して誘った
…
手順通りに、
予行通り…枷をオリゼに嵌めていく。
発狂しても可笑しくない状況にも関わらず、
オリゼは不気味なほど冷静だ。
正直、信じていませんでした。
本当に…聞き及んでいた水牢でもオリゼはこんな様子だったのでしょうか…?
「馬鹿…ですね」
「…」
「抵抗一つしない、逃げ出さずこうして房に入ったのは…それは私が命令を遂行できる様にですか?」
「"私には勝てませんよ"…そう仰ったのは貴方、ラクターゼです」
今、当主役の目はない。
枷を嵌める私の手を止めることも出来なくはない。
せめて緩めろと…
戒めを手抜きしろと、それくらいの情を訴えてきてもおかしくない筈ですが…?
オリゼ、
言い訳には足りなさすぎますよ…
先程、私には勝てないと言ったにも関わらず抵抗したのは何処の誰でしたか?
それで大人しくなるような性格なら…
私の説得を聞き入れたならば、オリゼはこうして此処には居ないでしょうに。
今、従順なのは…
オリゼをこうするように主人役が私に命じたから。
侍従見習いとしてそれを遂行させる為に、
オリゼは体を好きにさせてくれているだけのこと。
「勝てないから抵抗しないと、諦める性格ならば先程も抵抗しなかったのではないですか?」
「…そんなことは忘れた」
「抵抗しないのは…元から逃げる気が元よりない、私が命令を遵守出来るようにしているから。
加えて…私の心的負担を少しでも減らすためですね?」
「何の事だか分からない、
分かりにくい説明だな?お前みたいに俺は頭が良い訳じゃねえよ…」
敬語が…
ついた嘘に都合の悪い事を誤魔化す気ですか。
私を思っての行動だと
そう見せないように雑な返答をしたところで…お粗末にも程があります。
作業を、
オリゼを枷と鎖で固定していく手を止めることもない私…
その事に関しては何も言わない。
嫌がる素振りも暴言も吐きもしない…
…こんなこと、
されて逃げたくならない方がおかしい。
私が…もし頭が悪くても、分かりますよ。
魔力が例え無くたって、
この拘束が厳しいことも…辛いことも。
ましてや作業を巻く為に慣れた手付きで魔力操作をしていた、
先程も皆の目を避けて浄化魔法を乱用していた手腕。
暗く逃げられない懲罰房
過剰に拘束され、その上で更に馴染んでいる魔力を封じられて、
何も思わないのですか?
怖くは、無いのですか…
何故…私のためと理由があるとは言え、
その力を使わずに抵抗せずに居られるのですか?
「オリゼ、何処か痛むところはありますか?」
「…侯爵の来訪、もてなしの時間はもうすぐでしょう…こんな雑用は早く済ませて所定の役回りに付いて下さい。私の役回りはヘパリーゼに、キナーゼはその補佐と全体の音頭をお願いします」
「オリゼの欠員でホスファターゼとキナーゼが立ち回れなくなると、
その場合は私が音頭をとるのですね?」
「無いとは思いますが…それと申し訳無いと説明を、どうか宜しく頼みます」
心配して聞いた質問に答えもしないオリゼ。
雑用は無いでしょう…に。
私に負担を掛けまいと、そう表現したのでしょうが…
決してこれは些末な事ではありませんよね?
その上、
私に…こんなことに時間をかけずにさっさと業務に戻れと…?
引き継ぎ…丁寧な口調と表現で隠しているつもりですか?
査定の場として最重要の最終日、
その場所にはもう戻らないと…今までオリゼがこなしてきた立場を私に託したに等しい発言
…
自分の事は見捨てて立ち去れと言わんばかり、
己の査定は此処までだと、
後は皆の幸運を祈っていると願うかのように…
「…こんなときに迄皆の心配…最後の頼みですか?」
「そうな…りますね」
「呆れたお人ですね」
「…よく言われますが、それでも撤回は致しません」
「分かりました、叶えて差し上げます」
「恩に着ます…ラクターゼ」
そう言って口を閉じた、
静かに目も瞑った…
そんなオリゼに最後の戒めを施してから…
更に鉄格子中に閉じ込めたのだった。




