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昇級12







…何をされるかと思えば

最悪の状況下に置かれている…



青龍の術に絡め取られ、

四肢の自由を奪われ続けている。

水の縄に縛り上げられて足先は絨毯から離れて宙に浮いて固定された…


電気が通る度、薄く色づくそれに

我慢するタイミングをはかる事は容易だ。

…注視して、

心構えすれば…その痛みも苦手でも我慢できないことはない。










「うっ…」

「まだ理由を言うつもりになりませんか?」


「…はっ、愚問だな」



軽い痛み…

それの後同様に青龍に何度も聞かれてきた質問。


温い、

この程度何度やられたって耐えきれる。


そして

そんなお前に屈して口を開く事はない、やれるものならやってみろと…

そんな挑発的な意を込めて目の前の執行人に向かって、

嘲笑うように正眼切ってやった






「そうですか、その御気持ち良く分かりました」


「っぐ…」


片方の眉を不満げに上げた、

…かと思えば直後、

青龍の術に光が走った、

固定されている両腕に強めの電気が走ったのだ…




辛い…

痛い…


苦手な痛みと

電気による体の硬直と弛緩…



が、痛みの程度が少し変わった程度。

この繰り返しにも慣れた、

痛みが走る場所をその光で心構えが出来れば我慢できなくもない、

身体の反応を見越していれば大したこと無いのだ。



…今のように注意を反らされていなければ、それ程度の痛みだ。


それも瞬間的に走るだけ…

歯を食い縛れば、

情けなく漏れ出る呻きも…容易に堪えられる。


この程度なら、

何度やられたって耐えきれる…

苦手だとは言え、

注意を払う気力があれば持ちこたえら…っ







っ…!


…いっ、っ


「っ…ん…んぐ!」



痛い…

…痛い!




痛い痛い

…痛い痛い痛い!


神経に直接、

刃を突き立てられたように脊髄から伝う激痛…

脳が揺さぶられるようだ、

警鐘を鳴らす防衛本能…

与えられた電気が、耐え難い痛みがその部分から背中の内から上がってくる


身体が制御出来なく暴れまわる…

噛み殺せなかった声が部屋に響き渡る…

情けない俺の声が、

慈悲を乞うような…そんな声音になりそうになるのを必死で歯を食い縛りながら口を結び噛み殺していく






「…啖呵に乗ってみるのも一興ですね。

電気は苦手な御様子でしたので、試してみましたが…成る程、中々強情でいらっしゃいますね?」


「…っ、これしき…甘い」


俺の視線を、

その目の動きの意味を察していたらしい青龍。

視界が利かない背中に電気を流してくる…そう、電気が流れる場所を予知出来るのは視界が利く範囲に限ってだ…



直ぐに対策された…

いや、違うな。


今までは俺の死角には痛みは与えてこなかった、

身体の表面…

俺の視界が利く範囲にしか痛みは与えられてこなかった。

首を回せば、

自由の利く頭を動かせば腕や足先までは見ることが出来る…そう俺にさせていたのだ。


だが…

このままでは俺に与える効果が少ないと見たのだろう、

こうして背中に走らせたのは視界が利かない場所であれば予測不可能と見たか?





はっ…

甘い…まだまだ緩い。

予兆が見えなくとも、それを察する手だては残っている…

青龍の霊力の流れを感じれば、

俺を拘束しているそれの霊力の傾きに意識を向ければ痛みに備えることは出来る!




次は油断しない…


それくらい、

まだ未熟であろうと霊力の感度位感じられる。 

舐めるなよ…


…俺でもそれくらいは出き…っ





「っ…あぅ…」

「甘いのはどちらでしょうね、オリゼ様?」


出来る筈だった…

否、

正確に言えば、先程のそれは俺が感知出来るレベルにされていたに過ぎなかった





「…馬鹿馬鹿しい。

決まっている、それはお前の方だ…っ…ぅ!?」


「何か異論でも御座いますれば…遠慮無く仰ってい下さい。

…して、理由はなんでしょうか?」


甘いのは俺の方だと、

そう青龍が俺に近づきながら冷静に言い放つ。

首を振ることも出来ないように、

遊びのあった俺の可動域を封じる…霊力で縛りながら正面を向くように矯正されながら…話し掛けてくる。



その放たれた言葉…

青龍からの警告だ、

同時にそれを証明するように左太股の裏に痛みが走った…


短い間の痛み、

それも軽い物






…それでもこれまでとは違い…恐怖を感じたのは、

全く予兆が無かったから。


そう、

青龍の霊力の機微が…

予兆が…俺の感じられる速度でなかった。

俺は…

痛みが走ってから漸く霊力の傾きに気付いたのだ。





やりようは、

まだあると指し示された。

俺の感知速度が、レベルが甘いと…

それ程度で青龍を御せると思った俺の甘さを横っ面を張られたような痛みだったからこそ…畏怖の感情が沸き上がってきたのだ。





勝ち誇った様に、

そうわざとつくっているのか腹立たしく顔を近づけて来る…

…俺の目にそれを見たか?


だけどな、

その程度で怯む俺じゃない…

俺の今まで秘めてきた理由を、

兄上にすら語ってこなかったそれを!


お前なんかに言うものか!

嘲笑うように覗き込まれても、弱音なんか…理由なんて吐いてやるものか!





「っ、何故…お前などに…屈しないといけない。

まだ手を抜いて…甘い見通しを立てているのは、お前の方だろ!」


だが…

まだまだだ。


これ程度、

昔…玄武にされた恐怖や痛みに比べれば幼稚その物。

こうして自我も理性も保てる…

レベルをこれ見よがしに一段階上げたと言うことは、

今後は俺は唸り声を噛み殺せなくなるということ。

心構えも予知も出来ないからそれは仕方ない…漏れ出ることは避けられなくなる。


そして、

それは同時に…その無様な己の声を耳にすることで…羞恥で心が揺れることも回避できないだろう。





が、

それだけだ…


ただそれに耐えれば良いだけ。

羞恥心をコントロールすればどうとでもなる、

この程度では気丈に振る舞える範囲からは外れていない…


それに痛みに我慢することくらい、

何とかなるのだから…






そう…

甘いのは、

青龍…だ。


この程度で俺を下せると思い込んでいるお前の方。

先程油断したのは俺の驕りで、

見通しでもあるが…それでも青龍の方こそ俺を甘く見積り過ぎていると言わざる終えないな…






「…ならば、

甘くない方がいいと御希望であれば叶えて差し上げましょう」


「脅しか?その程度で怯む訳無いだろうが」



目に力を入れて、

怯む心を抑えて…虚栄心を総動員して繕って言い返してやれば歪む顔


ふふ、

お前なんかに言うものか…

脅しにもならないと、

そう暗示してやればこうして一杯食わせてやる事など容易ではないか。






「そうですか、そんなに気に入って頂けたようで此方も嬉しい限りで御座います」



「誰が気に入っ…っうあ…ぐううう」

「言わないと言うことは、気に入っているのかと思いましたが?言わねば、心置き無く浴び続けることが出来ますからね」




「誰が…誰が心置きっ…っ、うああ…あだあ"あ"」



「余程、理由を言わず口も悪いまま。

…余程オリゼ様は小生が与えるその痛みが、大層お気に召したのだと思った次第ですが?」


そう、

霊力の…俺が構える暇がないほどに青龍がその力を操作をすれば、

俺に余裕は無くなっていく





変な間が落ちた。

その後の青龍の手加減は…比べ物にならない程無くなっていった…


知っている。

甘いのは俺の方だと…

気付いている。

青龍が甘いのではない、ただ…俺に甘くしていたのだと…






当初…

初めは青龍もかなりの加減をしてくれていたのだ。


俺の視野に、

痛む場所が光る様を…電気が走る場所が分かるように予兆を見えるようにした。

それは…

限られた場所に痛みを走らせたから、

俺の視界が利く場所に青龍が意図して限定したからだ。


だから俺が痛みに身構える、その時間が生まれただけの話…





次は、

予兆を見える場所以外に…

それも霊力感知をすれば容易く構えることが出来る速度。


そう思えば予期せぬ内に走った痛み。

…発動の瞬発性を青龍が上げれば、

俺が予期する猶予は生まれず…俺の見通しは淡く直ぐに消えることになったのだ





霊力を上げればこうして、

…次第に強まっていく痛みに無様に叫びを上げることになるのだ…








「言う気になりましたか?」


「…はっ…」



「…まだ言われないと解釈してもよろしいのですか?」

「…良い加…減に諦めたらどうだ?

この程、度ぬるま湯に…浸かっているのと同じだ、な…」



「ああ…身体から力が抜けていることを仰っているのですね?

湯に浸かると体が弛緩しますから、成る程余程お気に召したようだ。つまり湯船に浸かることが御好きなオリゼ様は…私にこれを流し続けて欲しいと仰るのですね?」




ああ…

ただの嫌味、か…


弛緩している原因は、ぐったりしているからであって…

決して青龍が揶揄した湯に浸かってリラックスした状態とは違う。

疲れを流すための湯船に浸かる心地よさ等感じている筈もない、



ただ…


ただ今感じられるのは、

兄上の許可の下…青龍によって始められた電気の責め苦によって己の身体の力が抜けていること。

そう、単に過度の緊張と疲れを感じているせいだ…



それでも、

それでも…まだ理由を言わないのは、なけなしの意地がまだ残っているからだ。

決して、

まかり間違ってもこの状態を好んでいる訳ではない…

それが分かっていても、

拘束されていなければもう…立っていられもしないだろうこの、

情けない今のこの俺の状態を…



…青龍は嫌みでもって揶揄したのだ。





「ならば何故震えているのでしょう」

「っ、誰が…震えて、…るって?」




「貴方様がです。

下らない意地を張り続けることに意味はありません、どうせもう限界でしょう?言わされるならば」


「!っ、武者震いだろうが…

流し続けた、ところで結果は…なにも変わらない、精々その優位に立っていると勘違いし…た顔を歪ませて、やる」


癪だ、

そもそも青龍に…まだ負けたくない

理由は、

絶対に言ってやるものか!



俺は…痛みによって疲弊しきっているとはいえ、

まだ耐えて、


…耐えて耐えて耐え切ってやる!



「良いでしょう、

歪むのは小生ではなくオリゼ様だと証明してみせます」








その、

生意気な…いや意地で見返してきた視線を受けてから

…更に強く、

そして…もう何度も流し続けた。



昔から強情で、頑固者であると知っていた…

その様は若の隣で見てきた…

だが、どうして口を割らない?

ここまで責めたというのに、

…手心を加えたと言っても体も精神も限界迄すり減っているのは誰の目にも明らかだというのに…



なのに…



「うくっ…」


「もう限界でしょう…どうして言われないのですか?

小生がいくら手心を加えたと言っても、こうも耐えきれるものでは無い筈なのですが…」




「だから…言った、だろ」


「…まだ喋る気力が御座いますか…

ならば続きを、といきたいところですが…これ以上は体に支障が出ますね。若、御期待に沿えず申し訳ありません」



視線を後ろに向け、

この一連の件を見守っていた若に頭を下げて陳謝する。


若に手を下させる、

それをさせないためにと…

小生ならば出来るとこの責の代行を買って出たのは自らの意思。


出来ると、

そう…そう申して実行に移したのにも関わらず…

結果を出し得なかった…




「青龍」

「申し訳御座いません」




「頭を上げろ、青龍。そもそも本来の力を抑えた上に、専門外だろう?」

「…されど「良いよ」…有り難う御座います」



頭を上げて…

思考に沈む。


落とせなかった…

相手を痛め付ける事には、

誉められた事ではないがかなりの自信を持っていた。

それが例え制限のある状態でも…


だがこうして…若の手を煩わす事なく済ませることが出来なかった。

ソファーから立ち上がり、此方に来る若の表情はそれに対して咎めるつもりはないらしい。


寧ろ、

責める事なく…

何故…


何故?

…そのように小生を労うような笑みまで向けて下さるのですか?






「…青龍、まだ解かないでね?

俺も試してみたいことがあるんだ…それには青龍の助力が必要なんだけれど、協力してくれる?」

「…畏まりました」



凹んでいる青龍、

その肩に軽く手を置いて労ってやる。 

…まあこう言ってはなんだけれど、

最初から青龍にとってオリゼの相性は良くないと分かっていた。


オリゼの身体を傷付けないと言う制限を掛けたせいもあって、

あの程度の痛みでは…


やはり愚弟は口を割らなかったか…

でも、それも限界までもう少し。

硬固なその牙城はもう崩落一歩手前、

こうして意地も張ってはいるが…少しだけ揺さぶってやれば容易くその張り詰めている気概も切れるだろうな。



青龍が侮られるのも少し癪だし手伝って貰おうか、それならば自信を取り戻してくれるはず、

と…青龍の肩を落としたその様子を見て、

オリゼの後ろ側から観察していた身体を…オリゼの視界に映るその愚弟の目の前まで足を進めたのだ。






「ねえ、オリゼ?」

「…っ」


「俺はお前に優しくすると言った…だから、青龍の申し出を受けてこの代行処置に許可を出したとしても過度にならないように俺は条件を付けてんだけどね?

だが…その制約を俺がつけた青龍の責めはお前には物足りなかったようだ」



「…あ…にう」何をそんなに寛いでいるの?これ以上の辛いものは与えられないと安心してはいないだろうね…?」っ…」


ぐったりと、

身体に関しては何の抵抗も一見無くなったように見える愚弟に声をかける。


そう、

寛いでいるわけではない…

オリゼは繰り返し与えられた痛みによって疲弊しきっているだけ。


だけど…

それくらいは分かっていてそう表現したのはこれがオリゼの責の真っ只中であることを再認識させるため。

どのような理由であれ、

このように疲弊に身を任せて…体たらくを晒して許される理由は無いだろうと、

ここまでの状態になったのは己の抵抗のせい。


責の真っ只中で、

こんな態度を俺に見せるのかと…拘束されているとは言え責めを受けているのだからと、

姿勢を正せと釘をさせば…




ピクリと、

走ってもいない電気が流れたように身体を硬直させる弟…

目を見張り、

次第に潤んでいく瞳…


その滲む愚弟の眼には、俺の顔が映る…

そう、

想像した通り…普段俺がオリゼに対して向けるような顔付きは存在していない。


…俺がオリゼに怖く映っているであろうと改めてそう自覚しても、

表情を緩めてやりはしない。

…今回ばかりは、

今まであまり理由を言わなくても手を納めてやってきたこともあったがそれは前回まで。

もうオリゼも幼すぎる事はない、

次何かあった際は…

しっかりとこの意固地な口から理由を言えるようになるまで…今度からは容赦しないと決めていたからだ。






「青龍が代行して貰ったさっきのものは甘かったようだが、

それは俺が許さなかったからに過ぎないしまだ…終わっていない。 

お前は…オリゼがこうして悪態付いてもね、青龍によって未だに八つ裂きにならずに済んでいることは俺の指示一つのお蔭。

…慢心も良いところじゃない?」

「…っ」



まさか、

そんな風に目を大きく広げて…


動揺を繕えもしなくなった、

俺の過激な発言にこれ以上の痛みが与えられるかもしれないと察したのだろう。

玄武の力によって固定されたままの頭を、

僅かに…出来る限りの範囲で横に振りながら俺に止めてくれと慈悲を乞うような動き…


もしかしたら、

もう少しで言うかもしれない。

こうして繕わずに、

俺にこんな態度を示しているのだから…




「幾らでも手法はある、でもそれを使わないと誰が言ったかな?俺らがオリゼを大切にしていることを逆手にとって安心しているようだけれどその根拠は?」

「…」


どんどんとたまる涙、

震えていく身体…恐怖感に細動するそれを繕うことも出来なくなっている弟


だけど、

口は開かない。

理由も言おうともしない…


ここで理由を言い出せば、

手打ちにしてやれたのに…そんな俺の淡い期待は見事に外れた。

やはり、

準備しておいて良かった…ね?



「そう、まだ言葉が出ないか…

出させてあげようね…素直にさせてあげる」

「…な…にを?」



手に持っていた布を、

視界に映る様に目の前に掲げてやれば震えながらも声を発した…


何をって…

決まっているだろ?





「舌、噛むといけないから口開けて?」

「嫌だ…」



「開けなさい」


「や…だ」



「抵抗しないんだったね?俺に口を開かせられるのと、自分で開くの…どちらが良い?」

「…うっ…」



葛藤か…

プライドが高い、オリゼには辛いだろう。

まだ素直になれない、

天邪鬼である性格が邪魔するのだろう…



それでも、

きっと…俺がオリゼを可愛がるのと同じ…

その気性をへし折ってでもジェイデンとの約束を、

オリゼが昨日からとても可愛がり始めた弟への優しさのために…


カチカチと…

歯がなっている…


顎に手を軽く当てて促してやれば…

それでも…


この愚弟はゆっくりと口を開いた。





オリゼはこれをされるのが苦手な筈、

自らの意思で黙るのと…声が封じられることは同義ではない。

声を出さないことと、

出せないことは大きな差があるのだ。



だけど、


それでも俺の言うことを聞く気になったのは…ジェイデンと、

そしてその夕食の準備をしているであろう玄武達への心配を掛けまいとする心意気かな?




「ん、その調子で開けていてね?」


舌を噛まないように布を噛ませて、

後頭部で結び止める。






「うくっ…」


「良い子…目も瞑って?

そうそう、その調子だよ」


うっすらと笑みが漏れたのが怖かったのか、

がくがくと震えながらも口を薄く開く様子に笑みが更に深くなる。


安心出来る要素の根源を覆すような俺の発言に、

潤み崩壊寸前だった目をゆっくりと閉じていけば…我慢していたのだろう涙が、

溢れた涙が次々に頬を伝い落ちていく。



が、

拭ってやることもせずその上から口と同じように塞ぐ。


電気のタイミングを図られては効果は少なくなるから…

怯えた目を見ているのも一興なんだけれど、

今回は仕方ないね




「ああ、なにするかって?…杖よりきついけれど我慢してね?」

「ん…っぐ?」


木偶になった弟に向かって

耳元で囁けば、

身じろく様子…やはり心の何処かでは、

絶対に俺が弟を…己を痛め付けるような真似はするわけがないと思っていたのだろう。


思い違いだよ…









…バシィ!


「ん"んんっ!」


目を封じている藍色の布は色を更に濃くしている

青龍が微弱な電流を流し、弛緩したところで鞭を振るう

外套もシャツも覆わない背中に

みみず腫が幾重にも這うように刻んでいく


何度かやるうちに、

電流の後も体の力を抜かず警戒するようになったが、

空気を裂く音をさせて…

見計らい、緊張が溶けた頃振りなおせばタイミングがずれて無防備な状態に打ち付ける事が出来るだけの話だ




無理矢理に筋収縮させられ、

緩められたところに痛みが走るのだ。

回数を抑えるために床に空打ちをすれば、

痛みが来ると身構えて無駄に体力と気力が失われていく…



…ただでさえその音に敏感になっている、

視覚を奪われたせいで耳に神経を尖らせている状態だ。







「っぐううう…」

「辛い?話す気になれてきたかな?」

「…うっ」



手を止めて聞けば…

軽く、戸惑いながらも頷きはした


「そう、まだみたいだね…」

「ん"ーー!」


まだみたいだと聞けば、

首を横に振って否定する意思を示す…





「俺がまだだと判断したのは間違っていると?

その轡を外せば…オリゼは口を割るのか?」


「ううー!」


…もう少しかな?

だがこの状況が解かれればまた口を閉ざす。

くぐもったその声は話すと言っているようだけれど…

まだ、それで騙されたこともある

…虚勢を張り切れないまで折ってやらないとオリゼが素直にならないのは経験から知っている



「青龍、続けようか」

「っ…むぐ、ぐう!!!」


その非情な判断に、

続行されることに恐怖したのだろう。

青龍の術の拘束から逃れようと、

緩く…抵抗に見えないくらいに抑えたらしい動きを見せる姿


まだ、

身体ですらこれなのだ…

やはり口は素直になりきれていないようだ…





「…若」

「未だ天邪鬼は消しきれていない、

手を緩める時ではないね?」


「…畏まりました」








叫びが弱々しくなるまで、

繰り返し繰り返し打ち据える

もう身構える体力がなくなるまで、

そんな気持ちも起こらなくなるまで…徹底的に


「こんなところかな?青龍、解いて良い…それと準備を」

「畏まりました…」





どさり…


「ひぐっ…う」

「…懲りたかな?」


「も…申し訳、な」


青龍が術を解けば、

そう…オリゼの崩れ落ちそうになる体を支えて抱え込む。


片手で

覆っていた目と口の布を取り払ってやれば余程怖かったのか…



誰も重い傷をつけるなんて言っていないのにね?

このみみず腫も、

少し血が滲んでしまった所もあるが二日も経てば直ぐに直る…程度


まあ…

酷い傷になっていると誤解させる様に仕向けたのは俺だけど。

…確かにこの可愛い小さな背中に鞭は打ったが、

手加減はした。


同じところに打ってもいないし、

床に無駄打ちも多々行った。


だからミミズ腫れにはなっていたとしても、

軽く血は滲んでいたとしても軽傷だ。

手当てして数日経てば…後傷もなく完治するような程度。




が、それを口にはしない。

軽い傷だと分かれば漸く素直になった、

この天邪鬼を消す効果が薄れる、だからそれを本人にあえて言いはしないのだけれど…





「オリゼ、手当しようか…」

「…は、い」


うん、

やはり素直になったね。

その受け答えからオリゼの天邪鬼は粗方ではあるが、退治できたようだ


そして目の前には責はもう終わったと思って安心したのか、

本格的に泣きだしたオリゼは可愛い。

勿論、

これだけで済ます気はないんだけれど…







落ち着き、

身体に力が入るようになったオリゼ。


そんな大人しくなった弟の手を引いて…

椅子に横に座らせて、

消毒と包帯を施していった。




「…さてと、処置は終わったし…仕上げに掛かろうか?」

「あ、に上…?」



だって、

まだ理由は言えていないよね?



「手当はするけれど…甘やかすのは全部終えた後の話」


「全部…?」

「オリゼは理由も言っていないのに…何故もう終わったと思ったのかな?

それこそ甘い、これしきの事で済ましはしないよ…」


そんな、

楔を打ってやれば


「…も、う…もう御勘弁、を…」


「駄目だよ、父上の苦労もあるしね?

男爵家が伯爵家に頭を下げて了承を得ることがどれだけ大変なことか分かってないでしょう?」



「し…らない!」


「っ…く」


痛い…

せめて慈悲をと

…そう思って傷を避けながらも…

軽く腕を回してあげていた。

…オリゼの座っている姿勢を維持することも難しそうな様子に、

甘さから…つい補助するためにも抱き締めてやってたのにね?



そんな俺の気遣いも、

甘さも…無下にした愚弟の行動。


自由になった五体で、

手加減無く本気で俺の顎を下から突いてきた。

…俺の手が塞がっている事を良いことに、よくやってくれるものだ…




じゃじゃ馬だ…

力無い手でされたとはいえ、

本気でしたことは分かる

頭が少しぐわりとなるくらいの衝撃はあったのだ。


その効果に不味いと、

思ったよりも俺が衝撃を受けたことに驚き怯む顔…

そう思うくらいなら…

最初からしなければ良い。


少し余波が残りつつも、

その頭をもとに戻しながらも、

…そんな様子を見せる愚弟に呆れたのは仕方がないと思った





「…っ痛いね、謝ってこれ?

知らないならそれが免罪になるとでも思ってるのか…寧ろ、無知程罪深いものはないよな?」


「…っ知らないものを知らないなら仕方がない…それをどう知り得るって言うんですか」

「そうだね、でもオリゼは知っている」


「…」

「知った上で知らない振りをするのは更に質が悪い。

それに抵抗したよね?確約は取り消し…まずは俺に手を上げたことを反省出来るまで彼処で静かにしていなさい」






指差した方向、

それにゆっくりと視線を動かしていく


そして、

万が一と指示を出していた青龍が暖炉の扉を開いていけば…

そこには2枚目の扉、

格子状の扉が次第に現れていく



「…そんな…無体な」

「大丈夫、ジェイデンには連絡しておくから心配せず心置き無く反省してね?」



それが、

どんな代物か…

オリゼには直ぐに分かったらしい。

己が入る場所が、

閉じ込められる場所が二段構えの檻であることが…



「…っもう、しませんから」

「したことをなくせると思っているの?

ほら、立って歩いて…入れるよね?」




「…兄…上」

「入りなさい、もう一度は言わないよ?」


愕然とした表情で見返されるが、

変更の予定はない

見下ろすように言い放てば座りながらもがくりと力を無くした体…


もう覇気も邪気も無いようだ。

ついでに腰も抜かしたらしい…力が入らず生まれたての小鹿の様に、

椅子から立ち上がれなくなっている





「力が入らないのか?」


「…ごめ…んなさい」


震えながらも一応は入ろうとしているのだろう、

背もたれに手を掛けて…立ち上がろうとするも…先程とはうって変わって腕にも力が入らなくなった様だ。


まあ…

入る気にはなっている、か。

その意思くらいは汲み取って助力無しに入れないことは責めはしないことにしようか…






「青龍」

「…お任せ下さい」


そう指示を、

動けなくなったオリゼに…再度青龍に術を発動させ、暖炉前まで運ばせた。


びくりと身体が揺れはしたものの、

もう抵抗はない。

…ただ、糸の切れたマリオネットのように…運ばれていく


暖炉の前まで、

そうやって運ばれたオリゼには…

目の前に映る光景はきっと、

地下牢よりも怖いのかもしれない。

見開かれた目が溢れ落ちそうなほど…凝視しているのが後ろ姿からも易く図り知れた…




本当に…

こんなに早くには必要にならないとは思っていたんだけれどね…?

もう体も成長したし、

前回反省させるために入れてやった道具の収納スペースにオリゼはもう入れない。


それをわかった上で弟が反抗していた事も気づいている。

…本当、天邪鬼


それくらい承知だよ?

可愛くもある天邪鬼への対策を俺が講じないわけないじゃないか…

煤も灰も冬の終わりに綺麗にしておいた、暖炉に

震えながらも自ら入っていく様子を見ながら苦笑が浮かぶ。







格子扉と鉄の二重扉

閉めてしまえば綺麗な彫刻を施された部屋に馴染む設えにしてある。


…勿論、内側は真っ暗だろうけれどね?

四方は煉瓦で前とは比べ物にならないくらい固いだろうし…

良い戒めになってくれるだろう。



「じゃあ、良い子になれるまでそこに居なさい」

「…あ…閉め、ないで…」


何とか、

時間を掛けて…

たった1メートルにも足らない距離を、

すっかり力が入らなくなったらしい身体を引き摺り…

匍匐前進するように運び、暖炉の中に入った弟





「…閉めてくださいの間違いでしょう?」


「…っ」

「そう、まあ反省して…

そして理由を言えるようになるまでオリゼが此処に居るだけの話だから構わないよ」

「…兄…上」





「青龍」

「御随意に…」


軋む音と共に鉄格子が嵌まる

それ越しに震えながらも暴れはしない姿、

…もう抵抗しないところから反省は少し出来たのだろうと



もう決定は覆らないと骨身に染みる程分かったのだろう…

目に見えて意気消沈した、

頭を上げる気力もなく

…ただ身体を横たえながら俺にすがる目を向けてくる弟の姿を…


青龍によって、

もう1つの扉が閉めて消えていく様子を…

…そして、

錠を掛けるのを見守ったのだった。




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